「こんにちは」
「いらっしゃいませ!」
 と私を迎えてくれたスライムさんは、カウンターの下で、なにやら用意をしていた。
 カバンにいろいろな物を入れている。

「なにしてるの?」
「きょうは、おみせをおやすみして、おでかけをしようかと」
「お出かけ? どこに?」
「あれです!」

 スライムさんは外に出て、落ちていた小枝で遠くを指し示した。

「山……?」
「どうしてやまにのぼるのか……。そこに、やまがあるからですよ!」
 スライムさんが、ビシッと決めた。
「山にのぼるの?」

 ここから見ると、山は遠く、また山肌は灰色の岩山に見えた。

「危ないんじゃない?」
「ふふ、おんなこどもは、いえでまっていたほうがいいかもしれねえな……」
 スライムさんは小枝をくわえて、すぱー、と口で言っていた。

「寒くないかな。スライムさん、また凍っちゃったりしない?」
「へっ、そこまでのやまじゃあ、ねえなあ……」
「山のぼり、得意なの?」
「やったか、やっていないかといわれれば、やったことはねえな。だがよう。のぼろうとおもったことは、やまほどあるぜ。やまだけにな!」

「やめておいたほうが」
「やってやるぜ!」
 私が止めようとすればするほど、スライムさんのやる気を引き出してしまっているようだった。

「スライムさん、なにか魔物が出てくるかもしれないし」
「だいじょうぶです! ひさく、があります」
「秘策」
「そうですよ」

 ふっふっふ、と言いながら、スライムさんはある箱を持ってきた。
 スライムさんがちょうど入るくらいの大きさの箱が二つだ。
「これがなんだかわかりますか?」
「箱」
 私が言うと、スライムさんは箱に石ころを入れた。
 すると、もう一個の箱からその石ころが。

「あ、これ」
 私が言うと、スライムさんはにやりとした。
 私が手品をしたときにスライムさんが出してきた、転送の箱、だ。

「この前のより大きい」
「このはこをつかえば、わかりますね?」
「どうするの?」
「きょうぼうな、まものにであってしまったり、やまのいちばんうえまでのぼって、かえるのがめんどうになったりしたとき、どうしますか? そう、このはこにはいればいいんです!」
 スライムさんは言って、箱に入った。
 もう一方の箱から出てくる。

「どうですか! これで、あんしんあんぜんでしょう!」
「……この箱って、なくなってもいいの?」
「だめですよ! きちょうなものですから!」
「でも、入った箱ってどうするの?」
「はい?」
「この箱に入って帰ってくるなら、その場所に、この箱は残っちゃうんだよね? それを取りに行かないと……」
「……」

 スライムさんはしばらくかたまっていた。


 今日は薬草の生えている裏庭の手入れをするというので、私はそれを手伝うことにした。