私は気づいた。
 スライムさんはいつも私の名前をまちがえる。
 ならどうすればいいか。
 これだ。

「こんにちは」
 私はいつものようによろず屋に入っていった。
「いらっしゃいませ!」
 スライムさんがカウンターの上に現れる。

 そして、呼ぶ。
「こんにちは、えいむさん」
「ふふふ。正しい名前を言ったね?」
「はっ」
 スライムさんが、はっとした。

 そうなのだ。
 私はこれまで、スライムさんが私の名前をまちがえ続けていたとしても、責めずに、そのときそのときで訂正していた。怒ったりするようなことでもないし、スライムさんはそういうスライムだ。
 でも、これを使えば解決すると思いついた。

「というわけで、名札をつけてきました」

 私は胸をはって、名札をしっかりスライムさんに見せた。

 小さな白い布に黄色い糸でぐるりと、かんたんなししゅうをして、その中に、エイム、と書いた。

「これならスライムさんはまちがえないでしょ」
「すごいです!」
 スライムさんは興奮してカウンターから降りてくると、私の前でぴょんぴょんはねた。

「名札だよ」
「それは、えいむさんがかんがえたんですか?」
「え、まあ」
「すごい! このしすてむを、えいむさんが……!」
「システム?」
「そとのひとにも、おしえてきましょう!」

 スライムさんが店を飛び出していった。
 前の道でキョロキョロしている。

「どうしたの、スライムさん」
「とおりすがりのひとに、えいむさんという、はっそうりょくが、とてつもないおんなのこがいる、とおしえてあげるんです!」
「やめて!」

 私はスライムさんを捕まえて、よろず屋にもどった。

「どうしたんですか」
「私は名札を開発したわけじゃなくて、名札を使おうって考えただけ! 発想力はふつう!」
「そうなんですか。おしいことをしましたね」
 どういうことかな。

「そうだ。このお店って、名札は売ってないの?」
「ないです。にてるのはあります」
「どんなの?」
「ええと」

 スライムさんが持ってきたのは、ガラスの箱のようなものだった。
 透き通っていて、向こうがよく見える。
 面の大きさは、私がめいっぱい広げた手のひらくらい。

「これは?」
「ぼくをみてください」
「うん」

 箱の向こうにいるスライムさんを見る。
 すると、スライムさんの顔に、スライム、と見えた。

「どうですか」
「スライム、って書いてある」
「そうです! なまえがみえるんです! えいむさんは、えいむ、ってかいてあります!」
「なにそれ!」
 そしてスライムさんは名前がスライムなのか!

「名前がわかる箱なの?」
「そうです。なふだとにてますね!」
「名札よりすごいと思うけど。使わないの?」
「おちたら、われてしまうので。でも、いちいちだすのはめんどうですし」
「なるほど」
「えいむさんの、なふだのほうがすごいです!」
「そうかな……、へへ」

 すごいアイテムよりも、さりげないものの方が効果的なこともあるのか。
 そう思うと、なんだかほこらしかった。

「じゃあ、また明日も名札つけてくるね」
「はい!」
「……ちなみに、その箱が割れないようにするアイテムっていうのはないんだよね?」
「なかのものをわれなくする、とうめいなはこ、はあります」
「あるの!?」
 私がおどろくと、スライムさんは深刻そうな顔で続ける。
「でもそれにはもんだいがあるんです……」
「なに……?」

「……どこにしまったのか、わすれたんです!」
「お店のものはちゃんと管理しておかなきゃだめでしょ!」