クリニックの医院長である西山香苗は、

耳を突き刺すほどの大きな音に驚き診察室を飛び出すと、

そこにはまさかの光景が広がっていた。

　そこには車止めを乗り越えた黒いミニバンが床上数センチから天井まである大きな窓を突き破り止まっており、

窓際に設置していた長椅子に座っていた患者たちが突っ込んできた車にはねられていた。

　バックで駐車しようとした和義だったが、

その際アクセルとブレーキを踏み間違えてしまいこのような事態になってしまった。

　突然の出来事に驚きながらもすぐに手当てをする西山だったが、

このクリニックでは対応しきれないため救急車が呼ばれることとなり、

その中にはお向かいのおばあさんである高野早苗の姿もあった。

　そこへ車を降りた和義がふらふらと歩きながらやってくると、

何をするわけでもなく呆然と立ちすくんでいた。

「渡辺さんだったの？　どうして車なんて乗ってきたの、ご自宅からお嫁さんが心配して電話あったのよ、免許証返納したって言ってたのにどうして運転なんかしたの？」

　西山は被害にあった患者を手当てしながらも怒りの声で尋ねる。

「すみません、すみません」

　何度も謝罪の言葉を口にする和義であったが、

それでも西山の怒りは収まらなかった。