ところがこの小さなミスをきっかけに和義の心に悪魔がささやいた。

(由美さんも今忙しいみたいだし手を煩わせるのも申し訳ない、免許は返納してしまったが一回くらい車を運転したって大丈夫だよな?)

 脳裏にささやく悪魔の声に打ち勝つことの出来なかった和義は、

家族に黙って車のカギを持ち出し走り去ってしまった。

車の音に気付きすぐに玄関を飛び出した由美であったが時すでに遅く、

和義の運転する車は走り去った後であった。

 すぐに仕事中の和也に電話をする由美。

『もしもしどうした?』

「パパどうしよう、お義父さんが車を運転して出て行ってしまったの」

『なんだって! もう免許は返納してしまったんだから無免許じゃないか、違反になることくらいわかっているはずなのに何やってるんだ親父は、車だって自分のじゃないんだから乗りなれないはずなのに』

電話口から聞こえるその声からはとても焦っている様子がうかがえた。

 同様に由美の声にもものすごい焦りが感じられた。