「それに俺達がこれから住む街の方がここよりもずっと公共交通機関だって充実しているし、住宅街の中にクリニックやスーパーだってあるんだ、住むには困らないはずだよ。これはさすがに住宅街の中ってわけにいかないけど、もし体に何かあっても近くに大きな総合病院だってあるから心配ないしね」

「それなら安心じゃない、あたしたちももう若くはないんだから」

 幸代の言葉にただただ頷く和義。そんな和義に和也はさらに続ける。

「親父がここを離れたくないと言う気持ちも分からなくないよ、俺にとってもそうであるように、親父にとっても生まれ育った家なんだからね、でもここは大雨が降るといつ崖が崩れるか分からない危険な土地なんだ、人が住むには適さないんだよ!」

幸代や和也の説得に和義の心は揺れ動き始めていた。

「それにな親父、前から言っている通り免許証も返納して車の運転もやめてほしいんだ、そうすれば車の維持費だって掛からずに済むだろ? あまり乗らないのに税金や保険代ばかり払っていてももったいないじゃない」

「確かにそうだけど」

 一言呟くと俯き考え込んでしまう和義。

 それでもすぐに答えが出るはずもなかった。

「和也がそこまで言うなら考えてみるか?」

「良い返事待ってるよ」

「分かった、前向きに考えてみるよ、今日は泊まっていくんだろ?」

「急にきて悪いがそうさせてもらうよ、日曜日までおじゃまさせてもらおうと思うんだけど良いかな親父」

「もちろんだ、ゆっくりしていくと良い」

「ありがとう、月曜にはまた仕事だから日曜の午前中には出なきゃいけないけど」

「忙しいのにわざわざ悪かったな」

「良いよ別に、そう思うならいい返事頼むよ」

「そうだな?」