「……」
街と街を繋ぐ舗装された道路の脇を、フヨフヨと飛んで進む。
時折、馬車や冒険者と思しきやつらが通りかかるけれど、ワタシの存在に気づいた素振りはない。
誰もかれも、まるでワタシが存在しないかのように、一瞥も視線を寄越すことなく通り過ぎていく。
その通りかかるやつらを、煩わしいと思いつつも、ワタシは逐一観察した。
いない。いない。
……いない。
「……あれ?」
「ん? どうかしたか?」
「……なにもいない? うーん……気のせいだったみたい。気にしないで」
ワタシが注意を向けた時、反応を示したやつがいた。
魔力の感知能力が高いのか、第六感が優れているのか。
杖を持っているから前者か。
たまに、こうしてワタシの気配に感づくやつはいる。
感知能力が高いエルフや、第六感に優れた獣人の場合が多いが、人間のような特筆すべき個性を持たない輩も、たまにこうしてワタシの存在に気づく。
そういうやつは得てして才能がある。
ワタシの存在に違和感を持った、あの魔法使いっぽいやつも、見たところまだまだ未熟ではあるが、いずれ一流と呼ばれる程度の実力は身につけるだろう。
世間一般で言うところの、将来有望というやつだ。
……あの子に比べたら……いや。
あの子とは、比べることすらおこがましい陳腐な才能に過ぎないが。
「……」
あちらはなにかしら違和感を覚えたようだったが、ワタシとしては別に興味も関心もなかったので、そのまま近くを飛んで行って過ぎ去る。
しばらくそうして人間観察しながら進んでいたが、残念ながら、ワタシが探していた人物は見当たらなかった。
まあ、わかっていたことだ。
あの子は戦うのが嫌いだった。生き物を殺すことも。血を見ることも。
初めて魔物を殺した時でさえ、顔を真っ青にして吐いていたくらいだ。
脆く、弱く……争いで溢れたこの世界には似つかわしくない、まったくもって脆弱極まりない精神。
そんなあの子が、積極的に冒険者活動なんてするはずがない。
もし、あの子がいるとしたら……。
「……やっぱり、あの街か」
道路の先にある、少し大きな街を遠目に見て、一人呟く。
……うん。そうだ。この魔力、この波動……間違いない。
遠くからでも感じ取れるこれは、紛れもなくあの子のものだ。
やっと、見つけた。
「今、会いに行くからね」
あの日離れ離れになってしまってから、もう数年ほど時が経ってしまっている。
ワタシにとっては大した時間ではないけれど、あの子にとってはきっとそうではない。
あの子は今、どんな風になっているだろう。少しは背も伸びて、成長してるのかな。
……しっかりしてるように見えて見通しが甘いところが多々あるから、騙されて奴隷にでもされてないか心配だ。
別れる間際くらいには多少はマシになっていたけど、出会った当初は四六時中ワタシが守ってやらなければ、今にも死んでしまいそうなくらい危なっかしくて……当時は本当にめんどくさかった。
あくまで当時は、だけれど。
昔のことを思い返して、自然と笑みがこぼれる。
なんにせよ、もしあの子自身の意思以外で奴隷になんかされてしまっていたら、街ごと焼き尽くしてあの子を連れ出すだけだ。
この世界に、あの子以外に価値あるものなんてないんだから。唯一価値あるあの子を害するなら、そんなものは滅んでいい。
「フフ、フフフ、アハハハ……!」
翅を羽ばたかせ、魔力の粒子を撒き散らしながら、くるりくるりとその場で回る。
もしもたとえ犯され、汚され、廃人になっていたって……ワタシはいつまでもそばにいてあげるからね。
忘れたいと願うなら、ワタシが全部忘れさせてあげる。
汚されたことが苦痛だったら、そんなこと気にならなくなるくらい、ワタシがぐちゃぐちゃに汚し直してあげる。
いつかすべてが嫌になったなら、ワタシが世界を滅ぼしてあげるからね。
あなたがワタシを解放してくれたあの日から、ワタシはあなただけのものだもの。
あなたのためなら、ワタシはなんだってしてあげられるの。
だからね……フフ。待っててね……ハロ。
「――お師匠さまの二つ名の由来……ですか?」
「……ん」
それは、ある晴れた日のことでした。
いつものように外で魔法の修行をしていると、シィナちゃんが私のところにやってきて、そんなことを聞いてきました。
魔法の修行を中断し、私が聞き返すと、シィナちゃんは短い返事とともにこくりと頷きます。
「確か、お師匠さまの二つ名と言うと……《至全の魔術師》、でしたよね?」
以前小耳に挟んだ呼び名を挙げてみます。
至全の魔術師と書いて、シュプリームウィザード……お師匠さまに与えられた二つ名だけあって、とても凛々しくかっこいいです!
「そう……それ」
なにか知らない? と言いたげに、シィナちゃんが私を見つめてきます。
おそらく、お師匠さまの弟子である私であれば知っていると思って、こうして聞きに来てくれたのでしょう。
そんなシィナちゃんの期待を裏切ってしまうのは少々心苦しかったのですが、私はフルフルと首を横に振りました。
「ごめんなさいシィナちゃん。お師匠さまがそう呼ばれていることは知ってますが、それ以上のことは私も……」
「……そう……」
ほんのちょっとだけ猫耳と尻尾がシュンと垂れ下がります。
落ち込んでいる彼女を見て、こう思ってしまうのはちょっと後ろめたいのですが……正直、ちょっと微笑ましいです。
どうやらシィナちゃんは、獣人としての耳や尻尾に感情の機微が現れることが多いようでした。
出会ったばかりの頃はここまで露骨ではなかった気がするので、おそらくこの家で暮らすうちに少しずつ……と言った感じのように思います。
シィナちゃんはいつも感情が抜け落ちたかのような無表情で、真っ赤に染まった目もちょっと怖い感じで……あんな風になってしまうくらい、相当な辛い経験をしてきただろうことは容易に想像がつきます。
そんなシィナちゃんでも、徐々に普通の感情を取り戻していっているのだと思うと、私も自分のことのように嬉しいです。
シィナちゃんとはお師匠さまの気持ちを取り合う、いわゆるライバルではありますが……私を家族と呼んでくれるように、シィナちゃんも、私にとっては家族ですから。
「そうですね……お師匠さまに直接聞いてみるのはいかがでしょう? お師匠さまの二つ名なんですから、お師匠さまなら当然知ってるはずです!」
「…………」
「……えっと、シィナちゃん?」
名案……というよりは、当たり前の意見ですね。
私がそれを口にすると、どうしてかシィナちゃんは答えに窮したように口ごもりました。
その反応を私が不思議に思っていると、シィナちゃんは軽く周りを見回した後、少し声を潜めるようにして言いました。
「……ハロ、ちゃ……は、じぶんの、ふたつ、な……あんまり、すきじゃ、ない……みたい、だから」
「そうなんですか?」
「……でも……もしか、したら……べつの、りゆうも……あるかも……しれな、くて。だから……フィリアちゃ、に……」
シィナちゃんは、あんまりおしゃべりが得意じゃありません。おそらく、これまでまともな人付き合いができないような過酷な環境にいたのでしょう。
たどたどしく、少し要領を得ない回答でしたが……なんとなく、言いたいことは伝わってきました。
要は、お師匠さまに気を遣わせてしまうかもしれないから、お師匠さまには内緒で知りたいみたいです。
だからお師匠さまじゃなくて、シィナちゃんの知り合いの中でお師匠さまの次に知っている可能性が高いであろう私に聞きにきたんですね。
同時に、さっきシィナちゃんが周りを見渡していたのも、お師匠さまが近くにいないか確認していたのだということに気づきます。
以前であれば、お師匠さまに付きっきりで修行を見てもらったりもしていましたが……最近のお師匠さまは忙しいことが多く、軽く指示をもらう程度で私一人で魔法の修行を行うことも少なくありません。
今日もそういう日でした。今、近くにお師匠さまはいません。
「んー……そうですね。シィナちゃん、今日はこの後って時間ありますか?」
「この、あと? ……きょう、は……ひま」
「じゃあ、一緒にお出かけしませんか?」
「おでか、け?」
シィナちゃんの猫耳が、ピコーン、と反応を示します。
「はい! お師匠さまの二つ名の謎に迫るため、二人で情報収集です!」
「……じょうほう、しゅうしゅう」
一見淡白そうな反応とは裏腹に、実際には興味津々のようで、尻尾がピンと立っています。
「でも、しゅぎょう、は……いいの?」
「大丈夫ですよ。元々お師匠さまからは、今朝教えて頂いた内容が終わったら自由時間にしていいと言われてまして、それに関してはもう終わっていますから」
お師匠さまに師事し始めた当初は、慣れないうちは危険だということで簡単な下級魔法しか教えてもらえませんでしたが、最近では中級以上の魔法も教えていただいています。
ただ、中級以上の、特に攻撃魔法の練習となると、やはり少なからず危険が存在することもあって、こういったお師匠さまが直接見れない時には簡単なことしか教えてもらえません。
今朝お師匠さまに教えていただいた内容も、修行を始めて数十分程度で習得が終わってしまって、現在は教わったことの反復練習をしていたところでした。
本当に簡単な内容だったので、一日でも早くお師匠さまに近づきたい身としては、ちょっとだけ不満だったのですが……私を心配しているからこそのことだと思うと、ちょっとだけ嬉しくなってしまいます。
「そういうわけなので、少し早めに切り上げるくらいなら大丈夫ですよ」
「……そっか。じゃあ、おでか、け……いい?」
「もちろんです!」
思えば、こうして自発的に外に出ることは初めてのように思います。
元々、外出の許可はもらっていましたが……お師匠さまと一緒に買い物などに出かける以外は、魔法の修行や勉強ばかりしていました。
お師匠さまは魔法の修行をしてはいけない日を決めたりと、私が頑張りすぎないようにといつも気を遣ってくださっています。
それもこれも、以前私が別の理由で顔を赤くしてしまったところを、無理のしすぎで熱を出したとお師匠さまに勘違いさせてしまったことが原因なのですが……。
……いつも心配してくれるお師匠さまのために、こうして定期的に自分の時間を作ってみることも、もしかしたら大事なことなのかもしれませんね。
街と街を繋ぐ舗装された道路の脇を、フヨフヨと飛んで進む。
時折、馬車や冒険者と思しきやつらが通りかかるけれど、ワタシの存在に気づいた素振りはない。
誰もかれも、まるでワタシが存在しないかのように、一瞥も視線を寄越すことなく通り過ぎていく。
その通りかかるやつらを、煩わしいと思いつつも、ワタシは逐一観察した。
いない。いない。
……いない。
「……あれ?」
「ん? どうかしたか?」
「……なにもいない? うーん……気のせいだったみたい。気にしないで」
ワタシが注意を向けた時、反応を示したやつがいた。
魔力の感知能力が高いのか、第六感が優れているのか。
杖を持っているから前者か。
たまに、こうしてワタシの気配に感づくやつはいる。
感知能力が高いエルフや、第六感に優れた獣人の場合が多いが、人間のような特筆すべき個性を持たない輩も、たまにこうしてワタシの存在に気づく。
そういうやつは得てして才能がある。
ワタシの存在に違和感を持った、あの魔法使いっぽいやつも、見たところまだまだ未熟ではあるが、いずれ一流と呼ばれる程度の実力は身につけるだろう。
世間一般で言うところの、将来有望というやつだ。
……あの子に比べたら……いや。
あの子とは、比べることすらおこがましい陳腐な才能に過ぎないが。
「……」
あちらはなにかしら違和感を覚えたようだったが、ワタシとしては別に興味も関心もなかったので、そのまま近くを飛んで行って過ぎ去る。
しばらくそうして人間観察しながら進んでいたが、残念ながら、ワタシが探していた人物は見当たらなかった。
まあ、わかっていたことだ。
あの子は戦うのが嫌いだった。生き物を殺すことも。血を見ることも。
初めて魔物を殺した時でさえ、顔を真っ青にして吐いていたくらいだ。
脆く、弱く……争いで溢れたこの世界には似つかわしくない、まったくもって脆弱極まりない精神。
そんなあの子が、積極的に冒険者活動なんてするはずがない。
もし、あの子がいるとしたら……。
「……やっぱり、あの街か」
道路の先にある、少し大きな街を遠目に見て、一人呟く。
……うん。そうだ。この魔力、この波動……間違いない。
遠くからでも感じ取れるこれは、紛れもなくあの子のものだ。
やっと、見つけた。
「今、会いに行くからね」
あの日離れ離れになってしまってから、もう数年ほど時が経ってしまっている。
ワタシにとっては大した時間ではないけれど、あの子にとってはきっとそうではない。
あの子は今、どんな風になっているだろう。少しは背も伸びて、成長してるのかな。
……しっかりしてるように見えて見通しが甘いところが多々あるから、騙されて奴隷にでもされてないか心配だ。
別れる間際くらいには多少はマシになっていたけど、出会った当初は四六時中ワタシが守ってやらなければ、今にも死んでしまいそうなくらい危なっかしくて……当時は本当にめんどくさかった。
あくまで当時は、だけれど。
昔のことを思い返して、自然と笑みがこぼれる。
なんにせよ、もしあの子自身の意思以外で奴隷になんかされてしまっていたら、街ごと焼き尽くしてあの子を連れ出すだけだ。
この世界に、あの子以外に価値あるものなんてないんだから。唯一価値あるあの子を害するなら、そんなものは滅んでいい。
「フフ、フフフ、アハハハ……!」
翅を羽ばたかせ、魔力の粒子を撒き散らしながら、くるりくるりとその場で回る。
もしもたとえ犯され、汚され、廃人になっていたって……ワタシはいつまでもそばにいてあげるからね。
忘れたいと願うなら、ワタシが全部忘れさせてあげる。
汚されたことが苦痛だったら、そんなこと気にならなくなるくらい、ワタシがぐちゃぐちゃに汚し直してあげる。
いつかすべてが嫌になったなら、ワタシが世界を滅ぼしてあげるからね。
あなたがワタシを解放してくれたあの日から、ワタシはあなただけのものだもの。
あなたのためなら、ワタシはなんだってしてあげられるの。
だからね……フフ。待っててね……ハロ。
「――お師匠さまの二つ名の由来……ですか?」
「……ん」
それは、ある晴れた日のことでした。
いつものように外で魔法の修行をしていると、シィナちゃんが私のところにやってきて、そんなことを聞いてきました。
魔法の修行を中断し、私が聞き返すと、シィナちゃんは短い返事とともにこくりと頷きます。
「確か、お師匠さまの二つ名と言うと……《至全の魔術師》、でしたよね?」
以前小耳に挟んだ呼び名を挙げてみます。
至全の魔術師と書いて、シュプリームウィザード……お師匠さまに与えられた二つ名だけあって、とても凛々しくかっこいいです!
「そう……それ」
なにか知らない? と言いたげに、シィナちゃんが私を見つめてきます。
おそらく、お師匠さまの弟子である私であれば知っていると思って、こうして聞きに来てくれたのでしょう。
そんなシィナちゃんの期待を裏切ってしまうのは少々心苦しかったのですが、私はフルフルと首を横に振りました。
「ごめんなさいシィナちゃん。お師匠さまがそう呼ばれていることは知ってますが、それ以上のことは私も……」
「……そう……」
ほんのちょっとだけ猫耳と尻尾がシュンと垂れ下がります。
落ち込んでいる彼女を見て、こう思ってしまうのはちょっと後ろめたいのですが……正直、ちょっと微笑ましいです。
どうやらシィナちゃんは、獣人としての耳や尻尾に感情の機微が現れることが多いようでした。
出会ったばかりの頃はここまで露骨ではなかった気がするので、おそらくこの家で暮らすうちに少しずつ……と言った感じのように思います。
シィナちゃんはいつも感情が抜け落ちたかのような無表情で、真っ赤に染まった目もちょっと怖い感じで……あんな風になってしまうくらい、相当な辛い経験をしてきただろうことは容易に想像がつきます。
そんなシィナちゃんでも、徐々に普通の感情を取り戻していっているのだと思うと、私も自分のことのように嬉しいです。
シィナちゃんとはお師匠さまの気持ちを取り合う、いわゆるライバルではありますが……私を家族と呼んでくれるように、シィナちゃんも、私にとっては家族ですから。
「そうですね……お師匠さまに直接聞いてみるのはいかがでしょう? お師匠さまの二つ名なんですから、お師匠さまなら当然知ってるはずです!」
「…………」
「……えっと、シィナちゃん?」
名案……というよりは、当たり前の意見ですね。
私がそれを口にすると、どうしてかシィナちゃんは答えに窮したように口ごもりました。
その反応を私が不思議に思っていると、シィナちゃんは軽く周りを見回した後、少し声を潜めるようにして言いました。
「……ハロ、ちゃ……は、じぶんの、ふたつ、な……あんまり、すきじゃ、ない……みたい、だから」
「そうなんですか?」
「……でも……もしか、したら……べつの、りゆうも……あるかも……しれな、くて。だから……フィリアちゃ、に……」
シィナちゃんは、あんまりおしゃべりが得意じゃありません。おそらく、これまでまともな人付き合いができないような過酷な環境にいたのでしょう。
たどたどしく、少し要領を得ない回答でしたが……なんとなく、言いたいことは伝わってきました。
要は、お師匠さまに気を遣わせてしまうかもしれないから、お師匠さまには内緒で知りたいみたいです。
だからお師匠さまじゃなくて、シィナちゃんの知り合いの中でお師匠さまの次に知っている可能性が高いであろう私に聞きにきたんですね。
同時に、さっきシィナちゃんが周りを見渡していたのも、お師匠さまが近くにいないか確認していたのだということに気づきます。
以前であれば、お師匠さまに付きっきりで修行を見てもらったりもしていましたが……最近のお師匠さまは忙しいことが多く、軽く指示をもらう程度で私一人で魔法の修行を行うことも少なくありません。
今日もそういう日でした。今、近くにお師匠さまはいません。
「んー……そうですね。シィナちゃん、今日はこの後って時間ありますか?」
「この、あと? ……きょう、は……ひま」
「じゃあ、一緒にお出かけしませんか?」
「おでか、け?」
シィナちゃんの猫耳が、ピコーン、と反応を示します。
「はい! お師匠さまの二つ名の謎に迫るため、二人で情報収集です!」
「……じょうほう、しゅうしゅう」
一見淡白そうな反応とは裏腹に、実際には興味津々のようで、尻尾がピンと立っています。
「でも、しゅぎょう、は……いいの?」
「大丈夫ですよ。元々お師匠さまからは、今朝教えて頂いた内容が終わったら自由時間にしていいと言われてまして、それに関してはもう終わっていますから」
お師匠さまに師事し始めた当初は、慣れないうちは危険だということで簡単な下級魔法しか教えてもらえませんでしたが、最近では中級以上の魔法も教えていただいています。
ただ、中級以上の、特に攻撃魔法の練習となると、やはり少なからず危険が存在することもあって、こういったお師匠さまが直接見れない時には簡単なことしか教えてもらえません。
今朝お師匠さまに教えていただいた内容も、修行を始めて数十分程度で習得が終わってしまって、現在は教わったことの反復練習をしていたところでした。
本当に簡単な内容だったので、一日でも早くお師匠さまに近づきたい身としては、ちょっとだけ不満だったのですが……私を心配しているからこそのことだと思うと、ちょっとだけ嬉しくなってしまいます。
「そういうわけなので、少し早めに切り上げるくらいなら大丈夫ですよ」
「……そっか。じゃあ、おでか、け……いい?」
「もちろんです!」
思えば、こうして自発的に外に出ることは初めてのように思います。
元々、外出の許可はもらっていましたが……お師匠さまと一緒に買い物などに出かける以外は、魔法の修行や勉強ばかりしていました。
お師匠さまは魔法の修行をしてはいけない日を決めたりと、私が頑張りすぎないようにといつも気を遣ってくださっています。
それもこれも、以前私が別の理由で顔を赤くしてしまったところを、無理のしすぎで熱を出したとお師匠さまに勘違いさせてしまったことが原因なのですが……。
……いつも心配してくれるお師匠さまのために、こうして定期的に自分の時間を作ってみることも、もしかしたら大事なことなのかもしれませんね。