いつもどおり、店を手伝うときに使う黒いエプロンを腰に巻き、自分専用の鋏とナイフの入った皮のシザーケースを腰にぶら下げた。
カウンターの前に立ち、いつものように花の入ったバケツの水替えをしながら、茎を斜めに切り戻していく。花の茎は斜めに切ることで水を吸うための面積が増え、さらにバケツや花瓶の底に切った茎がぴたりとくっついてしまうのを防ぐことができるため菌の繁殖を防ぐのにも効果的。それだけでも花の持ちや咲き具合が変わってくるのだ。
「父さん、これどうする?」
ぼくはカットしていたガーベラの茎を見て父に言った。
花はいつか必ず枯れる。それが速いか遅いかというだけだ。
暖かくなってくると途端に切り花の持ちは悪くなる。飾るぶんには一見まだまだ綺麗なそのガーベラも、今が最高に美しい満開のバラの花も、お客さんが買って帰ってすぐにだめになるような花を店に置いてはおけない。
「ああ、捨てるか自分の部屋にでも飾っとけ」
父がそう言ったので、ぼくは捨てかけたガーベラの茎をその半分ほどの長さにカットした。ガラスの透明な花瓶に底一センチ程度の浅い水を張り、生ける。
赤、オレンジ、白、ピンク。残り物だから色もバラバラで、だけど散りゆく間際の花の姿は、どんなに精巧に造られた高価な造花にも表現できない、特別な美しさだ。