学校からの帰り道、ぼくはいつもどおり自転車で川沿いの道を走っていた。
この時期の河川敷は野生の花がたくさん咲いている。市場に並ぶこともなく、名前を呼ばれることも値段をつけられて売り買いされることもない雑草は、小さいけれど自由で気ままで呑気な花だ。
タンポポやシロツメクサの咲き乱れる河川敷をしばらく走り、坂を下って一番近くにある商店街、その入り口付近にある花屋が、ぼくの家。
花屋といってもモダンでお洒落(しゃれ)なフラワーショップではなくて、昔ながらの花屋のほう。祖父の代からやっている、キクカワ生花店だ。
地元の神社に供えられている榊(さかき)も、近くの寺に供えられる花も、このへんの古い家の仏壇に供えられている仏花も、このあたり周辺の墓に供えられている墓花も、たいていがうちの店の商品だ。
ぼくの通った小学校の入学式や卒業式で壇上に飾られていた花も、亡くなった祖父が生けたものだった。
ぼく自身も、小学校低学年くらいのかなり早い段階から常に店の手伝いに駆り出されていたせいで、高校生となった今では水揚げや棘(とげ)取りなどの作業はもちろん鋏(はさみ)やナイフの扱いもお手の物。
自慢するつもりはないが、フラワーアレンジの腕前だって、この商店街のおばちゃん連中からはセンスがいいと評判なのだ。