「本番三分前です!」

 熱気のこもった会場のバックステージ裏で、ぱたぱたとスタッフさんが準備に追われるのを横目に、私はマイクのスイッチに親指をあてる。

 ヘアセットも大丈夫。襟にも乱れはない。鏡に映る紫と青が重なるフリルドレスを纏った自分をじっくり見つめ、鏡の前で最終確認をして水を飲む。

「炎上を跳ね返した奇跡の歌姫再降臨……? 炎上はいささか字面が悪いので恐れ入りますがなしでお願いします……はい。奇跡の歌姫再降臨、復活ライブでお願いします。はい。よろしくお願いいたします。失礼いたします〜はい、失礼します〜」

 隣で電話をしていたマネージャーが、スマホから顔を話してこちらに振り向いた。

「すみません。 明日の新聞の見出しについて最終調整をしていまして……」

「いえ、ありがとうございます」

 私は頭を下げる。今日のライブを行うことに、事務所のトップたちは難色を示していた。 炎上によって、ファンクラブの会員の五分の一の人たちが、いなくなったから。

 コンサート会場を借りて本当に客席が埋まるのかと、何度も会議をしたらしい。

 けれど、マネージャーが何度もかけあってくれたそうだ。遥も、後半応援に駆けつけるから、このコンサートによって果崎あかりは完全復活をアピールするのだと、新しくなった統括チーフの家にまで押し掛けたと聞いた。

「本番一分前です!」

 スタッフさんの声が裏手に響く。私は登場装置の台にのった。周りをみると、スタッフさんたちは私に注目した。

 今日、この日を迎えるまで、ずっと尽力してくれた人たちだ。

 この人たちのおかげで、私は今からファンの人たちの前へ行くことが出来る。装置が起動して、ステージへと押し上げられていく。スポットライトのまばゆい光に包まれ、一瞬だけ目を閉じる。

 明滅が終わり目を開けば、目の前には何千、何万とファンの人たちが、私の色であるブルーのペンライトやうちわをもって、私に向かって歓声をあげてくれた。私は一歩ずつ前に進んでいって、マイクを口元にあてる。

「皆さん! こうして待っていてくれて、嬉しいです。ありがとうございます!」

 マイクを通して、私は今日集まってくれた人たち、私を待っていてくれた人たちに、声を届ける。わぁっと歓声がさらに大きくなり、まるで身体全部を元気に包まれているような、漲る想いを全身に感じた。

「ありがとうございます!」

 言葉にするたび、歓声が帰ってくる。大好きなコンサート。大好きなこの場所に、私は戻ることが出来た。皆のおかげで。

「私は、皆さんとお会いしていない間、色々な人たちと話す機会がありました。自分の行動について、見つめなおしました。そうして出会いや別れを重ねていく中で、出来た曲を今から披露します。この曲は、私の心のすべてを注いで書いたものです。どうか私の歌が、誰かの心に繋がることが出来ますように、そして──あなたに届きますように。それでは聴いてください」

 私は観客のみんなを見渡してから、最前席にいる、ラミネートされた手作りチケットを首に下げた姿を見て、また前を見据える。

「タイトルは──」