周りにいる人たちはみな、看護師や警備員を呼ぼうと動き出し、男を警戒していた。
「お、俺ずっとファンで、え、えっと最初からCDも買ってます。さ、最初のホールのライブ、行きました! えっと……」
彼は私のファンらしい。
感激した様子で手をあわあわと動かしては、右へ左へ行ったり来たりを繰り返している。息も荒く、興奮状態に他ならない。
でも他の人間には私の姿が見えない以上、壁に向かって興奮しているようにしか見えない。
「あ、あの、ちょっといいですか」
このままだと、彼は間違いなく不審者として捕まる。私は咄嗟に彼の手を握った。