三年生になった。
あの時、結果として流されるようにそのまま私立コースへと進級することにした私は、また梓と同じクラスになった。
そして、よもやの小泉くんまで同じクラス。
三年生に上がる始業式の日に「先輩に振られちゃったよ」と少しすっきりした表情で私に告げる梓の顔を見ると、なぜだか小泉くんの顔が頭をよぎった。
報われない恋をしているのは、私の方だ。
梓を憎むこともできず、小泉くんを嫌いになることもできず。
ただ、あのから日と同じ。
ここから動けないだけ。
誰にも言えない、報われない思いを抱えながら。
ぶつかって玉砕するのも、言えずに燻り続けるのも、すべては自分が出した答えだ。
ぶつかれる梓を潔いと尊敬するし、かといって、言えない想いを抱えている自分を悲観する気もない。
ただ静かに、消化するのを待つ。
それが私が出した結論だ。
二人とも、好きだから。
この関係が、とても、好きだから。
そう言い訳して、臆病な自分には見て見ぬふりをする。
三年生になってしばらく。
梓が、小泉くんの方をよく見るようになった。
その変化は、他の人からしたら、何でもないことかもしれないことで。
でも、私にとっては、大きなきっかけになったことは間違いない。
私の席は、二人と離れていて、二人から斜め線上の一番後ろの席。
小泉くんを視線で追えば、自然目に入る梓の姿。
もともと、窓の外を見つめているふりをしながらその奥を見つめていた小泉くん。
ふて寝していた理由の大半は、これだと言うことを、私は知っている。
けれど、最近はその後ろの席から、窓の外の桜をしょっちゅう見つめていた梓が、ちらりちらりと前を向くようになった。
きっと、受験のプレッシャーと戦う自信をつけるために勉強する、それだけじゃない。
先輩の姿を見るのが辛い、と言っていた梓は、不意に気づいたのだろう。
先輩以外の人の、自分に向けられた優しさに。
梓の気持ちの変化に気付いても、小泉くんの気持ちが変わらないことを知っていても……
私の気持ちもまだ変わらずに、いた。
相変わらず、誰にも何も言えない日々。
梓に、私の気持ちを先に言うのはフェアじゃない。
そんな風に、言い訳をして。
けれど梓も私に気持ちを話すわけでもない。
彼女はいつも、きちんと自分自身で答えを見つけてから真正面からぶつかっていくから。
先輩の時のように。
だから、今はあの子のタイミングが、私に話すときじゃないんだな、と思う。
けれどそれを良いことに、延び続けているのは私の執行猶予期間。
ぶつかって、砕けてしまえば、本当は楽になれるのかもしれない。
梓に言わずに、ぶつかって玉砕して、梓に何も言わなければ、それで彼女も真正面からぶつかっていけるのかもしれない。
だけど……
もし私が、振られたときに言わなかったら、梓はきっと怒るだろう。
一緒に泣くんだろう。
そういう子だから。
でも、その先の梓の行動がわからなくて。
それでも自分もぶつかりに行くのか、諦めてしまうのか。
分からなくて。
そしてそのときの自分が、背中を押してあげられるのか、が一番分からなくて。
本当は親友なんだから、背中を押してあげなきゃいけないのに、それができるかどうか、分からなくて。
そんな自分が本当に嫌でたまらない。
……だから、言えない。
誰にも気持ちを伝えることができない。
自然に消化できる時を、待つしかないんだ。
桜の花びらが、満開を通りすぎて次第にはらはらと散りだした、もどかしい愛しい苦みを覚えた、18歳、春―――…。
あの時、結果として流されるようにそのまま私立コースへと進級することにした私は、また梓と同じクラスになった。
そして、よもやの小泉くんまで同じクラス。
三年生に上がる始業式の日に「先輩に振られちゃったよ」と少しすっきりした表情で私に告げる梓の顔を見ると、なぜだか小泉くんの顔が頭をよぎった。
報われない恋をしているのは、私の方だ。
梓を憎むこともできず、小泉くんを嫌いになることもできず。
ただ、あのから日と同じ。
ここから動けないだけ。
誰にも言えない、報われない思いを抱えながら。
ぶつかって玉砕するのも、言えずに燻り続けるのも、すべては自分が出した答えだ。
ぶつかれる梓を潔いと尊敬するし、かといって、言えない想いを抱えている自分を悲観する気もない。
ただ静かに、消化するのを待つ。
それが私が出した結論だ。
二人とも、好きだから。
この関係が、とても、好きだから。
そう言い訳して、臆病な自分には見て見ぬふりをする。
三年生になってしばらく。
梓が、小泉くんの方をよく見るようになった。
その変化は、他の人からしたら、何でもないことかもしれないことで。
でも、私にとっては、大きなきっかけになったことは間違いない。
私の席は、二人と離れていて、二人から斜め線上の一番後ろの席。
小泉くんを視線で追えば、自然目に入る梓の姿。
もともと、窓の外を見つめているふりをしながらその奥を見つめていた小泉くん。
ふて寝していた理由の大半は、これだと言うことを、私は知っている。
けれど、最近はその後ろの席から、窓の外の桜をしょっちゅう見つめていた梓が、ちらりちらりと前を向くようになった。
きっと、受験のプレッシャーと戦う自信をつけるために勉強する、それだけじゃない。
先輩の姿を見るのが辛い、と言っていた梓は、不意に気づいたのだろう。
先輩以外の人の、自分に向けられた優しさに。
梓の気持ちの変化に気付いても、小泉くんの気持ちが変わらないことを知っていても……
私の気持ちもまだ変わらずに、いた。
相変わらず、誰にも何も言えない日々。
梓に、私の気持ちを先に言うのはフェアじゃない。
そんな風に、言い訳をして。
けれど梓も私に気持ちを話すわけでもない。
彼女はいつも、きちんと自分自身で答えを見つけてから真正面からぶつかっていくから。
先輩の時のように。
だから、今はあの子のタイミングが、私に話すときじゃないんだな、と思う。
けれどそれを良いことに、延び続けているのは私の執行猶予期間。
ぶつかって、砕けてしまえば、本当は楽になれるのかもしれない。
梓に言わずに、ぶつかって玉砕して、梓に何も言わなければ、それで彼女も真正面からぶつかっていけるのかもしれない。
だけど……
もし私が、振られたときに言わなかったら、梓はきっと怒るだろう。
一緒に泣くんだろう。
そういう子だから。
でも、その先の梓の行動がわからなくて。
それでも自分もぶつかりに行くのか、諦めてしまうのか。
分からなくて。
そしてそのときの自分が、背中を押してあげられるのか、が一番分からなくて。
本当は親友なんだから、背中を押してあげなきゃいけないのに、それができるかどうか、分からなくて。
そんな自分が本当に嫌でたまらない。
……だから、言えない。
誰にも気持ちを伝えることができない。
自然に消化できる時を、待つしかないんだ。
桜の花びらが、満開を通りすぎて次第にはらはらと散りだした、もどかしい愛しい苦みを覚えた、18歳、春―――…。