薄衣が捲れ上がり、私の体は褥に横たえられる。
「俺のものにする。契りを交わしたい」
見下ろしてくる精悍な相貌が、ずきんと胸を疼かせた。
愛しい夫と体をつなぐという昂揚と緊張に、息が忙しなくなる。
「私も……」
あなたと結ばれたい――。
そう口にしたいのに、私の声は喉から絞り出したかのように掠れてしまい、最後まで紡げない。
どうしよう。緊張してはいけないと思うほど、体が強張ってしまう。
それを和らげるように、春馬の唇が首筋を優しく辿る。私の肌を大きな手が愛撫し、唇で濡らしていった。
そうされるほどに、未知の行為に恐れがにじんでしまい、さまよわせた手で縋るように、ぎゅっと枕を掴む。
やがて膝裏に手をかけられたとき、張りつめた緊迫に耐えきれなくなる。
「ひっ」
細い悲鳴をあげると、春馬は碧色の双眸をこちらに向けた。
「怖いか?」
「……ん」
なにも答えられず、曖昧に頷いてしまう。
彼は私の足を持ち上げながら体を伸ばすと、くちづけてきた。
視界が覆われ、唇には春馬の雄々しい唇が押し当てられる。
「愛している」
「あ……は、春馬……」
キスしながら睦言を囁かれ、彼への恋慕と行為への恐れがせめぎ合う。
そのとき、下肢につきりとした痛みが走り、顔をしかめる。
「うぅ……」
あまりの疼痛に呻き声が漏れた。獰猛なものに割り開かれる感触に体が軋み、歯を食いしばる。
けれど、ふいに衝撃は去っていった。
目を瞬かせると、身を起こした春馬は冷静に告げる。
「今宵は、ここまでにしよう」
「え……でも……」
私は、彼を最後まで受け入れていない。
体に力が入りすぎたのが、いけなかったのだろうか。それとも私が拒絶のような反応を見せたから、春馬は冷めてしまったのか。
戸惑いが胸に広がるが、肩は未だに震えていた。
春馬は震える肩を、そっと撫で下ろす。
「裂けてしまいそうだ……。傷つけたくない。時間をかけて、ゆっくり凜の体をほどいていこう」
私が彼を受け入れられなかったのに、春馬はいっさい責めなかった。それどころか体を気遣われ、申し訳ない思いがする。
「ごめんなさい、私……」
「謝らないでくれ。うまくやろうとしなくていい。ありのままのおまえを、俺は受け入れたい」
ぎゅっと抱きしめられ、春馬の想いが身を通して心に染みる。
抱き合うふたりの体が褥に沈んだ。
ようやく想いをつなげられたと思ったのに、またしても夫婦の契りを交わすことができなかった。
春馬は私を愛していると言ってくれた。優しく接してくれたのに、夫を受け入れることができないのは、私のせいだ。
好きだから体を許したいのに、なぜうまくいかないのだろう。
私たちは、いつ本当の初夜を迎えられるの?
焦りが胸を迫り上がり、眦から涙がこぼれ落ちてしまう。
泣いてはいけない。彼の願いを叶えられないばかりか、落涙して迷惑をかけるなんて、花嫁として失格だ。
小刻みに肩を震わせながら、春馬の強靱な胸に顔を伏せる。
春馬は大きな手で、優しく私の頭を撫でた。
「凜……泣いているのか?」
「……ううん」
泣き言が口を衝いてしまいそうで、それしか言えなかった。
頑強な胸は私の涙で濡れているのだから、とうに春馬にはわかっているのだ。
「ずっと、おまえのそばにいよう。離さないからな……」
甘くて深みのあるまろやかな声が、耳朶をくすぐる。
謝罪の代わりに、今の私が言える精一杯の想いを口にする。
「私も、あなたのそばにいたい」
彼の期待に応えたい。花嫁として、認められたい。契りを交わさなければ、春馬が望む世継ぎは生まれない。
けれど、そのような考えでは、彼を受け入れることができないのかもしれない。
「俺のものにする。契りを交わしたい」
見下ろしてくる精悍な相貌が、ずきんと胸を疼かせた。
愛しい夫と体をつなぐという昂揚と緊張に、息が忙しなくなる。
「私も……」
あなたと結ばれたい――。
そう口にしたいのに、私の声は喉から絞り出したかのように掠れてしまい、最後まで紡げない。
どうしよう。緊張してはいけないと思うほど、体が強張ってしまう。
それを和らげるように、春馬の唇が首筋を優しく辿る。私の肌を大きな手が愛撫し、唇で濡らしていった。
そうされるほどに、未知の行為に恐れがにじんでしまい、さまよわせた手で縋るように、ぎゅっと枕を掴む。
やがて膝裏に手をかけられたとき、張りつめた緊迫に耐えきれなくなる。
「ひっ」
細い悲鳴をあげると、春馬は碧色の双眸をこちらに向けた。
「怖いか?」
「……ん」
なにも答えられず、曖昧に頷いてしまう。
彼は私の足を持ち上げながら体を伸ばすと、くちづけてきた。
視界が覆われ、唇には春馬の雄々しい唇が押し当てられる。
「愛している」
「あ……は、春馬……」
キスしながら睦言を囁かれ、彼への恋慕と行為への恐れがせめぎ合う。
そのとき、下肢につきりとした痛みが走り、顔をしかめる。
「うぅ……」
あまりの疼痛に呻き声が漏れた。獰猛なものに割り開かれる感触に体が軋み、歯を食いしばる。
けれど、ふいに衝撃は去っていった。
目を瞬かせると、身を起こした春馬は冷静に告げる。
「今宵は、ここまでにしよう」
「え……でも……」
私は、彼を最後まで受け入れていない。
体に力が入りすぎたのが、いけなかったのだろうか。それとも私が拒絶のような反応を見せたから、春馬は冷めてしまったのか。
戸惑いが胸に広がるが、肩は未だに震えていた。
春馬は震える肩を、そっと撫で下ろす。
「裂けてしまいそうだ……。傷つけたくない。時間をかけて、ゆっくり凜の体をほどいていこう」
私が彼を受け入れられなかったのに、春馬はいっさい責めなかった。それどころか体を気遣われ、申し訳ない思いがする。
「ごめんなさい、私……」
「謝らないでくれ。うまくやろうとしなくていい。ありのままのおまえを、俺は受け入れたい」
ぎゅっと抱きしめられ、春馬の想いが身を通して心に染みる。
抱き合うふたりの体が褥に沈んだ。
ようやく想いをつなげられたと思ったのに、またしても夫婦の契りを交わすことができなかった。
春馬は私を愛していると言ってくれた。優しく接してくれたのに、夫を受け入れることができないのは、私のせいだ。
好きだから体を許したいのに、なぜうまくいかないのだろう。
私たちは、いつ本当の初夜を迎えられるの?
焦りが胸を迫り上がり、眦から涙がこぼれ落ちてしまう。
泣いてはいけない。彼の願いを叶えられないばかりか、落涙して迷惑をかけるなんて、花嫁として失格だ。
小刻みに肩を震わせながら、春馬の強靱な胸に顔を伏せる。
春馬は大きな手で、優しく私の頭を撫でた。
「凜……泣いているのか?」
「……ううん」
泣き言が口を衝いてしまいそうで、それしか言えなかった。
頑強な胸は私の涙で濡れているのだから、とうに春馬にはわかっているのだ。
「ずっと、おまえのそばにいよう。離さないからな……」
甘くて深みのあるまろやかな声が、耳朶をくすぐる。
謝罪の代わりに、今の私が言える精一杯の想いを口にする。
「私も、あなたのそばにいたい」
彼の期待に応えたい。花嫁として、認められたい。契りを交わさなければ、春馬が望む世継ぎは生まれない。
けれど、そのような考えでは、彼を受け入れることができないのかもしれない。