「もう大丈夫だよ」


そう言った私の手には、まだ慎くんのサングラスがあったままだった。
慎くんの顔をずっと見つめていた。
恐る恐る、ゆっくり。
まるでここが本当に暗いかどうかを確認しているように、ゆっくりと手を離していく。


──初めて見る慎くんの目は、二重で、タレ目で綺麗な目だと思った。黒くて、濁りのない。

ぱち、ぱち、と、何回か瞬きをした慎くんは私の手元にあるサングラスを見て…。


「……ごめん、助かった…ありがとう」と、深い息をこぼした。


「大丈夫?慎くん…」

「うん、ありがとう…」

「保健室行く?」

「いや…、うん、…大丈夫…」


苦笑いする慎くんに、私も眉が下がった。


「慎くん、光とか、そういうの苦手なの…?」

「うん」

「サングラス、今から買ってこようか?帰れないよね?」

「大丈夫、家に代わりのあるから。家に電話して持ってきてもらうよ」


初めて見た慎くんの素顔に、嬉しさを感じた…。それでもずっと辛そうに笑う慎くんに、私は笑えなかった。


慎くん体操着のポケットからスマホを取りだしたけど、その指は止まり。
そのスマホをポケットにしまった慎くんに、顔を傾けた。


「電話、しないの?」

「うん」

「慎くん?」

「メガネ、なかったらスマホ見れないの」


スマホも、ヒカリだから。
ヒカリを見るのを嫌がる慎くんは、サングラスが無ければ、スマホの画面を見れないらしい…。


「…私が、するよ?貸してくれれば…」

「ううん、大丈夫」

「大丈夫じゃないよ…」

「もどって陽葵、ごめんね何とかするから…」


何とかするって、どうするんだろう?
1人で、サングラスが無ければ、歩けないのに…。



「行かないよ、慎くんを1人にさせるわけない…」


慎くんの、綺麗に目が、私の方にむく。


「……陽葵」

「慎くん、」

「…、…」



下を向く、慎くんは、「………優しいね…」と、そんな言葉を零す。


「学校で外したの、初めてかも…」


私の手からサングラスを受け取った慎くんは、「粉々」と、軽く笑った。


「私、慎くんのこと、本当に大事に思ってるよ…」

「…」

「…だから、私に遠慮なんかしないでほしい」


私は、慎くんの顔を見つめたまま。
慎くんは私の顔を見直すと、何かを決めたのように、薄い唇を開いた。


「俺ね、これが無かったら倒れちゃうの」


倒れちゃう?
そう言った慎くんは、笑っていた。


「昔、脳腫瘍ができて。良性だったんだけどそれを取り除いて…、後遺症が残った」

「後遺症?」

「そう、ヒカリを見ると、目眩がして。最悪気絶しちゃう。そんな後遺症」


ヒカリ…
太陽…
気絶…。


「運動できないのも?」

「うん、それは脳の問題。結構開けたから、激しい運動はだめだって」


慎くんは、自分の手で、髪の毛をかきあげた。黒い髪からのぞくそこは、一筋の線がある。

手術痕…。