きっと、世間では〝いい感じ〟なのだと思う。私と慎くんはよく喋るようになった。〝友達〟っていうのも違う。慎くんが私の下の名前を呼ぶ姿を見て、友達である新庄くんは「付き合ったの?」と聞いてきた。

慎くんはそれに首を横にふっていた。

それでも新庄くんは「へ〜そっかそっか」と嬉しそうに私たちを見ていた。「からかうな」と怒る慎くん。


私も友達から「付き合ってるの?」と聞かれた。私も「付き合ってないよ」と笑った。









その日のお昼休み、トイレの帰り道。教室に戻ろうとした私を「日向さん!」と呼び止めた。
その声に聞き覚えがある私は、後ろに向く。
慎くんの友達である、新庄くんだった。爽やかでスポーツ少年のような、新庄くん。


歩いていた足をとめた私に、新庄が近くによる。人一人分の距離をあけたぐらい。


「日向さんって、慎のこと好きなの?」

「ええっ」


凄くどストレートに聞いてくる彼に、思わず声が出る。天然なのか、「…あ、ごめん」と、焦ったように謝ってくる新庄くんに、顔が赤くなった。


だ、誰もいない廊下で良かった…。


「いや、…ごめん、ちょっと気になって…」


反省したのか、さっきよりもだいぶ小さい声になった彼。


きっともう、新庄くんは分かりきっている。だからこんなことを聞いてくる。だから目を下に向けながら「…うん…」と言った。


「そっかそっか」


慎くんの〝おかん〟の新庄くんは、嬉しそうに笑っていた。


「付き合いたいとか、思う?」


どうして新庄くんがそんなことを聞くのか分からない。〝おかん〟だから?


付き合いたい…。
恥ずかしすぎる。
生まれてこの方、彼氏なんていた事がない。

小さく頷いけば、前からはすごく慎くんと同じような穏やかな雰囲気がしたけど。

その雰囲気は、少しだけ、緊張を含むそれに変わった。


「……もし、そうなら、…こんなこと、俺が言うことじゃないと思うんだけど」

「え?」

「慎…、絶対、日向さんのこと好きだと思うんだけど…」

「、」

「多分、慎、告んないと思うんだよね…。自分からは」


自分からは…。


「だから、日向さんから言ってあげてほしくて。…慎、きっと躊躇うだろうから」

「…戸惑う?」

「日向さんも知ってるでしょ?慎の目」


目?


「慎…、そろそろ〝卒業〟できたらいいんだけど」


卒業?

何の話か、さっぱり分からない。



「あの、」

「ん?」

「目って……、慎くん、目が悪いの?」



そう聞いた私に、新庄くんは目を大きく丸ませ、驚いた顔をする。


「え…あれ、…知らないの?」


知らない…。
どうして慎くんが、サングラスを掛けているのか。


「あ、そうなんだ…俺、てっきり知ってると…」

「サングラスをかけてる事?」

「うん…」

「うん、知らない…」

「そっか」

「…」

「…──原因とか、俺の口から言うべきじゃないね。慎から聞くべきだと思うから…。ごめん、知ってると思って…1人で舞い上がって…」

「…」

「ごめんね、…慎のこと、……本人から聞いても嫌いにならないでね」


そう言って、静かに笑う新庄くんに、何も言うことが出来なかった。

私は慎くんを知らない。
慎くんは何かの病気かもしれない。
それでも慎くんは、サングラスをかけているだけで、あとは運動ができない普通の男の子。
穏やかな、私の好きな雰囲気の男の子…。


慎くんを嫌うなんてこと、そんなの、無いというのに…。