体育委員と言っても、運動場で体育を行うのか、体育館で体育を行うのか、それを体育の先生に聞きに行くのが主な仕事だった。体育委員と言っても特に走るとかそんなものはなくて。
体育委員になって、数日。
「先生に聞きに行かなくても、雨だから体育館だよね」
慎くんは私と一緒に廊下を歩きながら、窓の外を見て呟いた。私もつられてみると、外はたくさんの水溜まりができていて、空は大雨が降っている。
どんよりとした、空間。
「ほんとだね」
「分かってるのに聞かなきゃなんだよな」
「体育館、使えなくて自習の場合とかもあるからかな?」
「あーなるほど」
「それにしても雨、凄いね。帰りには止むといいけど…」
外を見つめれば、風はないものの、凄く雨がふっている。これ、注意報でてるんじゃないの?っていうぐらい。
「日向さんは、雨キライ?」
サングラス越しで、私を見つめる慎くんと目が合う。他愛のない話だけど、私はこうして慎くんと話す事が好きだった。
慎くんが穏やかだからか、それが伝染るというか、私まで心が安らぐ。
「どちらかというと。自転車も滑って危ないし、傘をさしても鞄とか、服とか濡れちゃうし」
「靴も濡れていくもんね」
「ほんとそれだよ。朝も濡れちゃって…。靴下濡れて代わりのに履き替えたもん。慎くんも雨キライ?」
「んー…、昔は嫌いだったけど、今は普通かな」
「普通なの?」
靴が濡れるとか、嫌じゃないの?
「雨がふると、安心する」
慎くんの言っている意味が、分からなくて。雨だと安心するの?どうして?
「そうなの?」
「うん、俺は太陽を見ることができないから」
慎くんは、太陽が見えないらしい。
ううん、見ることができないらしい。
──それは、サングラスと関係してるの?
そう聞こうとしたのに、何故か言えなかった。〝障害〟に、関するものだったからか。
あんまり深く聞けない。
足のない人に、「どうして足がないの?」って聞くのと同じような感覚だった。
──どうしてサングラスをかけてるの?
太陽がいない、今も、どうしてサングラスをかけてるの?
こうして慎くんと廊下を歩くのは初めてじゃないのに。私はそれを聞くことが出来なかった。