多少の得意不得意はあるけど平凡な成績、お世辞でしか褒められない平凡な顔。友達はそこそこいて、たまにトラブってもなんだかんだ上手くいってきた。小さな波を繰り返すような穏やかな日常で、いつも遊んだり友達と話したりして、間違いなく楽しいと言える。
 そんなどこにでもいる生徒の僕は、秀でた能力を持つ英雄を見上げて生きてきた。定期の学校集会では、生徒が千人近くいる中でことあるごとに表彰される英雄たちを、壇の下から見ている。

 特別な力を持っていれば退屈しない人生を送るのだろう。と剣術の得意な同級生たちを見て思う。
 この三時間目は男子にとって息抜きの時間である剣術の授業で、僕は友達と代わる代わる試合をしている。
 僕たちの番になって、挨拶の後、親友クリスの見慣れた剣捌きが始まりそれに応えていると、剣を振るうクリスの姿が二重三重に現れ、ちらつく。こんなときに目眩か……視界の異常に戸惑いながらも、中退するほどの体調不良ではないし、負けてもいいやという気持ちで続行した。

 しばらくすると視界の異常は感じなくなったものの、今度は打って変わって相手の行動が読めるようになった。

 次は右から強いのが来る、と思って力のこもった攻撃を防ぐ。ここを攻めたら倒れるだろうと隙を突くなど全てにおいて相手の先を行く。
 そして今まで腕は互角だったクリスを圧倒してしまった。僕は思いがけない結果に茫然として、いつもみたいに喜ぶことも出来なかった。

「ぐわ〜っ、なんであれを防がれるんだよ〜!いけると思ったのにな〜」

 クリスは髪を掻き上げて驚きとガッカリした声を上げた。

「やべーよ……!クリスの渾身の一撃に驚きもしてない……」

「見えづらいところから攻撃されたのに、なんでそんなスルッと受け止められるんだよ!」

 お馴染みの友達からも驚きの声が出てきた。
 今日は調子がいいな。体力や精神的にはもう少し戦えそうだったが、自分の中のノルマは達成した、これ以上試合をするのは僕の柄じゃない。

 マンモス校で授業用の剣も相応にあるとはいえ、状態のいい剣には限りがある。僕は持っていた剣を友達に譲り、試合の見学に移る。
 グラウンドの中心では、剣術のクラブ活動でも活躍するジョシュとリアンが戦っていて、授業ながら真剣な勝負だった。

 僕が座って見ていると、クリスが背後から覗き込み、

「今日もやってんなー。どっちが勝つかな?」

「ジョシュの方じゃないか?」

 横に腰を下ろしてきたクリスに、何となくそんな予感がして言ってみると、結果は本当にジョシュが勝った。今日はやけに冴えている。
 ジョシュたちの試合が終わると、先生の声で授業の終わりが呼びかけられた。
 
 授業の最後には先生の前に集まり、毎度のことだがくどい話を聞く。
 戦いは心持ちが大切だー。とか、毎年恒例抜き打ち避難訓練だが今日あたり来そうだから気を引き締めていくように。などと言うので、当たるかなと思って
 「次に避難訓練の放送が入ります」
と言ってみた。

 すると直後に避難訓練のサイレンが鳴り、僕は意識が遠のく。みんなの注目、先生の心配する声と共にその場に倒れ込んだ。