〇草原(昼)
読書しているルイス。
足音がして、人影がルイスに近づく。
ルイス「!」
ロイの声「仲間が命懸けで戦っているときに読書か。どういう神経してるんだ?」
ルイス「……何の用?」
と、本を閉じる。
ロイ、地面に座る。
ロイ「ジェンに頼まれたことがあってな。彼が異世界から帰ってこれるか確認しなければならない」
〇異世界・平地(昼)
胸を貫かれたトムが地面に倒れる。
振り返るジェン。
目の前に無傷のトムが立っている。
ジェン「(トムの姿を見て)!」
ジェン、背後を見る。
倒れていたはずのトムの体が消えている。
ジェン(M)「(トムを見て)……やばい、どういう能力なんだ?」
トム「背後から人を刺すか? ふつー」
小刀についている血を見るジェン。
トム「なんでオレの背中を刺した?」
ジェン「……ご、ゴブリンを殺そうとしたから」
トム「(笑って)おまえに興味わいてきたわ。半殺しにして本当のことを吐かせてやる」
ジェン(M)「(凍り付いた表情で)だめだ……自分で自分を傷つけて闇化するしかない!」
と、小刀で自分の左足のふとももを貫く。
トム「!?」
ジェン「(痛みに耐えて)っう……」
ジェン(M)「まだだっ」
と、小刀を振り上げて反対側の脚の太ももを貫こうとする。
体が磔にされたような格好になるジェン。
ジェン「!?」
トム「思い通りにさせるかよ」
と、ジェンに手の平を向けている。
ジェン(M)「体を動かせないっ……」
トム「どんな能力もってるか知らねえけど、使えなくしてやるよ」
と、ジェンに近づいていく。
ジェン(M)「そんなことができるのか!? やばい!」
ジェン「(焦って)闇化!」
絶命するジェン。
〇真っ白な空間
目を覚ますジェン。
空間内にジェンとリリーの二人の姿。
ジェン「相手の能力を無効にする力を敵がもってたら、闇化も使えなくすることができるのか?」
リリー「安心して。闇化が使えなくなるようなことは絶対にない」
ジェン「くそっ、まだ闇化するんじゃなかった」
リリー「今回の条件はトムを気絶させること」
ジェン「あいつの能力って、どういう力なんだ?」
リリー「知らない」
ジェン「太ももだけのダメージじゃ、条件の達成難易度は高そうだな……」
リリー「今回は、これまでの戦いで得たことがある能力か武器を一つだけ選べるよ」
ジェン「……前回みたいな基本能力と特別な剣を両方得るのは無理なのか?」
リリー「うん、どちらかだけ」
ジェン(M)「次に体を動かすことができなくなる力を奴に使われたら、終わりだ」
リリー「魔王戦で得た時間をもどす力とかも候補としてあるよ」
ジェン「あいつは幻覚みたいなものを見せる力をもってる。それがどんな能力か見破らないと倒せない気がする」
ジェン(M)「さらに雷も爆発も使う……それ以外にも何か能力をもってるかもしれない。ちくしょう、これまでの敵で一番強そうだ」
〇異世界・平地(昼)
磔にされた格好で空中に浮いているジェン。
トム、小刀でジェンの体を刺している。
反応のないジェンの死体。
トム「……何だったんだ、こいつは?」
ジェンの死体が消える。
トム「なに!?」
トムの後方に光り輝きながらジェンが現れる。
振り返るトム。
トムに手の平を向けているジェン。
ジェン「ブラックショック」
と、手の平にパリパリと黒い電気が発生する。
ジェンの手の平から巨大な黒いエネルギー波が勢いよく放出される。
トム「(自分に向かってくる巨大なエネルギー波を見て)……ほう」
と、両腕を胸の前でクロスする。
黒いエネルギー波を正面から受けるトム。
ジェン「あああああああああ!」
と、黒いエネルギー波を放出しながら体を回転させていく。
全方位にブラックショックを放つジェン。
ジェン、ブラックショックを放ち終わる。
ジェン(M)「これなら、オレに幻覚を見せていて別の場所にいようと回避できない」
砂煙で周囲が見えない。
ジェン「(祈るような表情で)頼む。これで終わってくれ」
砂煙が一瞬にしてなくなる。
トム「(笑って)いや、終わるわけねえだろ」
と、遠くから無傷の姿で歩いてくる。
ジェン「(恐怖の表情で)っ……」
トムに手の平を向けて再度ブラックショックを放とうとするジェン。
トム、ジェンに向かって手の平を向ける。
ジェンの体が磔にされたような格好になる。
ジェン「(体を動かせなくて)ちくしょう……」
トム「で、また死んだふりでもするか?」
ジェン「ぶ、ブラックショック!」
と、手の平だけをトムに向ける。
トム「無理だぜ、能力を使えなくしたからな」
ジェン「(磔にされている手から何も放出されないのを見て)っ……」
トム「てめー、転生者だな?」
ガチガチと震えているジェン。
トム「時間をもどしたのも、てめえか」
トム、物凄い力で小刀をジェンに投げつける。
遠くから飛んできた小刀がジェンの太ももに突き刺さる。
ジェン「(痛くて)ぐああっ……」
トム「(笑って)さっきと違って痛いらしい。これで半殺しにできる」
ジェン「……か、雷をオレに落としてみろっ」
トム「オレを殺そうとしたんだ、楽には死なせねえよ」
ジェン(M)「(絶望した表情で)終わりだ」
ブルブルと震えながら目を固く瞑るジェン。
ジェンの目の前で何かが地面に着地したような大きな音がする。
ジェン「!?」
恐る恐る目を開くジェン。
目の前に一人の女性の後ろ姿が見える。
二十代くらいの絶世の美女がジェンに背を向けて立っている。
ジェン「(女性の後ろ姿を見て)テンシー・ラルファータ……テンシーちゃんなのか?」
テンシー「(笑顔で振り返って)はい!」
テロップ『天女 テンシー・ラルファータ』
ジェン「(テンシーの姿を見て)その姿は……」
テンシー「話は戦いが終わったあとにしましょう」
トムの方を見るテンシー。
テンシー「今度は私がジェンさんの力になります」
ジェン「テンシーちゃん……」
トム「(テンシーを見て)ほー。こりゃ見たことないくらいの美女だ。オレの女にしてやるよ」
テンシー「お断りします」
〇草原(昼)
地面に座っているロイ。
ロイ「無事で帰ってこいよ……」
〇異世界・平地(昼)
磔にされたような状態で空中に浮いているジェン。
テンシー、重ねた両手を遠くにいるトムに向ける。
テンシー「心配しないでください。すぐに終わらせますから」
ジェン「……テンシーちゃん」
テンシーの両手から透き通る青色の巨大なエネルギー波が勢いよく放たれる。
トム「(自分に向かってくる巨大なエネルギー波を見て)……ほう」
と、胸の前で腕をクロスする。
トムの体を透き通るような青色のエネルギー波が通り抜ける。
その場で崩れ落ちて地面に倒れるトム。
ジェン「!?」
テンシー「終わりました」
磔のような状態が解けて、地面に着地するジェン。
ジェン「……テンシーちゃん、油断しちゃダメだ。あいつは幻覚を見せるような能力をもってるかもしれない」
テンシー「幻覚ですか」
ジェン「オレが背後から小刀で胸を貫いたけど、刺されたあいつの体は消えて、いつの間にか背後にあいつは立ってたんだ」
テンシー「なるほど」
ジェン「それに魔王が使うエネルギー波を正面から受けてもあいつは無傷だった。倒されたふりをしているだけかもしれない」
テンシー「わかりました」
と、エネルギーで剣をつくりだす。
ジェンとテンシー、周囲を見回す。
トム、カッと目を開ける。
トム「ひゃああああああああああ!」
テンシー「(トムを見て)!?」
ジェン「!」
絶叫しているトム。
テンシー「あれは……」
ジェン「……倒したんだ。オレの呪いが発動してる」
テンシー「これまで誰かに与えた苦痛を受けているのですね」
と、ジェンの方を向く。
ジェン「うん。テンシーちゃんの力はいったい……」
テンシー「私の能力は相手の意識を奪う力です」
小刀が刺さっているジェンの太ももに手をあてるテンシー。
ジェン「!」
青いエネルギーが太ももを包む。
ジェン「(意識が薄れつつ)あまり痛みを感じなくなった」
小刀を抜いて太ももに包帯を巻くテンシー。
テンシー「私が放つエネルギー波は、どんなものでもすり抜けます。そして、エネルギー波に当たった生物は意識がなくなります」
ジェン「!」
テンシー「おそらく幻覚のような能力は相手の攻撃を受けてから発動するタイプのものだと思います。私の攻撃を受けて、能力を発動させる前に気を失ったんです」
ジェン「さっき、つくりだした剣は……」
テンシー「あの剣は切れ味がありますけど、生物の体だけはすり抜けます。斬られた箇所に応じて意識が薄れるんです。通常の剣で致命傷になるような箇所を斬れば、それだけで気を失います」
ジェン(M)「……前回の平衡感覚を狂わせる剣みたいなものか」
テンシー「エネルギー波をかわすような素早い敵には剣で対応します。大勢の敵や近づかない方がいい敵にはエネルギー波を放ちます。力の消費を抑えたい場合は弓で対応します」
ジェン「弓もつくれるんだ」
テンシー「他にもつくれますよ」
ジェン「いい能力だね」
テンシー「はい。私は敵も傷つけたくないので、そのような力が発現したんだと思います」
ジェン(M)「テンシーちゃんらしい優しい能力だ」
ジェン「でも、一番気になるのはテンシーちゃんの姿だけど」
テンシー「(笑って)私は……!」
山の方を見るテンシー。
ゴブリンの姿が見える。
ゴブリンE「(ジェンたちに)よくも仲間を!」
ジェン「オレたちがやったんじゃないです」
ゴブリンCが生き返って起き上がる。
ジェン「!」
ゴブリンC「生き返った……」
ジェンの傷口がなくなる。
トムの死体を見るジェン。
ゴブリンC「この方たちは我々を救ってくれたんだ!」
〇異世界・山の中(昼)
3匹のゴブリンの遺体をジェンとゴブリンCとゴブリンEが運ぶ。
テンシー、ジェンのあとをついていく。
涙ながらジェンに感謝の言葉を述べるゴブリンC。
前方にリーダーのゴブリンが立っている。
テロップ『ゴブリン ガドルフ・バーバー』
ジェン(M)「ゴブリンのメインキャラだ」
ゴブリンC「この人たちが我々を転生者から救ってくれたんです!」
ガドルフ「感謝申し上げます」
と、深々と頭を下げる。
ゴブリンC「本当にありがとうございました!」
ジェン「いえ、早く新しい坑道へ移動した方がいいです」
ジェンとテンシーの体が消え始める。
ジェン・テンシー「!」
感謝の言葉を聞きながら消えるジェンとテンシー。
〇草原(昼)
ジェンとテンシーが現れる。
ロイ「よかった、二人とも無事で」
ジェン「マリフォードさん」
ルイス「……お疲れ」
ジェン「(テンシーを見て)テンシーちゃん、その姿についてまだ聞いてないけど……!」
眠っている幼児姿のテンシーが目に入る。
ジェン「テンシーちゃんが二人!?」
テンシー「(幼児のテンシーを見て)そこの私が、20年後の自分をつくりだしたんです」
ジェン「!?」
テンシー「私は20年後の世界から来ました」
ジェン「20年後?」
テンシー「そこの私がもつ能力は、自分が存在する仮想世界をつくりだして、その世界の時間を進めて成長した自分を、この世界に出現させる力です」
ジェン「凄すぎる……」
テンシー「仮想世界での私はその能力を有していませんが、修行して意識を奪う力を獲得しました」
ロイ「ラルファータを一目見たとき、ありえないほどの才能を感じたから、子供でもわかるようにジェンの事情を簡単に話したんだよ」
ジェン「……」
ロイ「そしたら、この子は自分が力になりたいって言って、20年後の自分を出現させちまったってわけさ」
テンシー「20年後の私が存在する間は、幼児の私は眠った状態になります」
ジェン「その仮想世界では、オレは生きてる?」
テンシー「闇の力が原因なのか、ジェンさんとレモネードさんは存在してませんでした」
ジェン「眠ってるテンシーちゃんは目覚めるの?」
テンシー「はい。私が消滅すれば目覚めます。あの子がまた私をつくりだせば、今の記憶も引き継がれます。幼児の私には記憶が共有されませんけどね」
ジェン「異世界は危険だから来ちゃだめだ」
テンシー「大丈夫です。私は痛みを感じない体ですし、もし私がいない方が都合のいい場合は、自分で消滅して異世界から抜け出すこともできると思います」
ジェン「無事に抜け出せるんだ」
ロイ「ジェン、おまえが命懸けで仲間のために異世界で戦っているときに、レモネードは読書してたぜ」
ジェン「!?」
ルイス「わ、悪かったわよ。謝るわ。ごめんなさい」
ジェン「……ルイス、一つ言いたいことがある」
ルイス「!?」
(続く)
読書しているルイス。
足音がして、人影がルイスに近づく。
ルイス「!」
ロイの声「仲間が命懸けで戦っているときに読書か。どういう神経してるんだ?」
ルイス「……何の用?」
と、本を閉じる。
ロイ、地面に座る。
ロイ「ジェンに頼まれたことがあってな。彼が異世界から帰ってこれるか確認しなければならない」
〇異世界・平地(昼)
胸を貫かれたトムが地面に倒れる。
振り返るジェン。
目の前に無傷のトムが立っている。
ジェン「(トムの姿を見て)!」
ジェン、背後を見る。
倒れていたはずのトムの体が消えている。
ジェン(M)「(トムを見て)……やばい、どういう能力なんだ?」
トム「背後から人を刺すか? ふつー」
小刀についている血を見るジェン。
トム「なんでオレの背中を刺した?」
ジェン「……ご、ゴブリンを殺そうとしたから」
トム「(笑って)おまえに興味わいてきたわ。半殺しにして本当のことを吐かせてやる」
ジェン(M)「(凍り付いた表情で)だめだ……自分で自分を傷つけて闇化するしかない!」
と、小刀で自分の左足のふとももを貫く。
トム「!?」
ジェン「(痛みに耐えて)っう……」
ジェン(M)「まだだっ」
と、小刀を振り上げて反対側の脚の太ももを貫こうとする。
体が磔にされたような格好になるジェン。
ジェン「!?」
トム「思い通りにさせるかよ」
と、ジェンに手の平を向けている。
ジェン(M)「体を動かせないっ……」
トム「どんな能力もってるか知らねえけど、使えなくしてやるよ」
と、ジェンに近づいていく。
ジェン(M)「そんなことができるのか!? やばい!」
ジェン「(焦って)闇化!」
絶命するジェン。
〇真っ白な空間
目を覚ますジェン。
空間内にジェンとリリーの二人の姿。
ジェン「相手の能力を無効にする力を敵がもってたら、闇化も使えなくすることができるのか?」
リリー「安心して。闇化が使えなくなるようなことは絶対にない」
ジェン「くそっ、まだ闇化するんじゃなかった」
リリー「今回の条件はトムを気絶させること」
ジェン「あいつの能力って、どういう力なんだ?」
リリー「知らない」
ジェン「太ももだけのダメージじゃ、条件の達成難易度は高そうだな……」
リリー「今回は、これまでの戦いで得たことがある能力か武器を一つだけ選べるよ」
ジェン「……前回みたいな基本能力と特別な剣を両方得るのは無理なのか?」
リリー「うん、どちらかだけ」
ジェン(M)「次に体を動かすことができなくなる力を奴に使われたら、終わりだ」
リリー「魔王戦で得た時間をもどす力とかも候補としてあるよ」
ジェン「あいつは幻覚みたいなものを見せる力をもってる。それがどんな能力か見破らないと倒せない気がする」
ジェン(M)「さらに雷も爆発も使う……それ以外にも何か能力をもってるかもしれない。ちくしょう、これまでの敵で一番強そうだ」
〇異世界・平地(昼)
磔にされた格好で空中に浮いているジェン。
トム、小刀でジェンの体を刺している。
反応のないジェンの死体。
トム「……何だったんだ、こいつは?」
ジェンの死体が消える。
トム「なに!?」
トムの後方に光り輝きながらジェンが現れる。
振り返るトム。
トムに手の平を向けているジェン。
ジェン「ブラックショック」
と、手の平にパリパリと黒い電気が発生する。
ジェンの手の平から巨大な黒いエネルギー波が勢いよく放出される。
トム「(自分に向かってくる巨大なエネルギー波を見て)……ほう」
と、両腕を胸の前でクロスする。
黒いエネルギー波を正面から受けるトム。
ジェン「あああああああああ!」
と、黒いエネルギー波を放出しながら体を回転させていく。
全方位にブラックショックを放つジェン。
ジェン、ブラックショックを放ち終わる。
ジェン(M)「これなら、オレに幻覚を見せていて別の場所にいようと回避できない」
砂煙で周囲が見えない。
ジェン「(祈るような表情で)頼む。これで終わってくれ」
砂煙が一瞬にしてなくなる。
トム「(笑って)いや、終わるわけねえだろ」
と、遠くから無傷の姿で歩いてくる。
ジェン「(恐怖の表情で)っ……」
トムに手の平を向けて再度ブラックショックを放とうとするジェン。
トム、ジェンに向かって手の平を向ける。
ジェンの体が磔にされたような格好になる。
ジェン「(体を動かせなくて)ちくしょう……」
トム「で、また死んだふりでもするか?」
ジェン「ぶ、ブラックショック!」
と、手の平だけをトムに向ける。
トム「無理だぜ、能力を使えなくしたからな」
ジェン「(磔にされている手から何も放出されないのを見て)っ……」
トム「てめー、転生者だな?」
ガチガチと震えているジェン。
トム「時間をもどしたのも、てめえか」
トム、物凄い力で小刀をジェンに投げつける。
遠くから飛んできた小刀がジェンの太ももに突き刺さる。
ジェン「(痛くて)ぐああっ……」
トム「(笑って)さっきと違って痛いらしい。これで半殺しにできる」
ジェン「……か、雷をオレに落としてみろっ」
トム「オレを殺そうとしたんだ、楽には死なせねえよ」
ジェン(M)「(絶望した表情で)終わりだ」
ブルブルと震えながら目を固く瞑るジェン。
ジェンの目の前で何かが地面に着地したような大きな音がする。
ジェン「!?」
恐る恐る目を開くジェン。
目の前に一人の女性の後ろ姿が見える。
二十代くらいの絶世の美女がジェンに背を向けて立っている。
ジェン「(女性の後ろ姿を見て)テンシー・ラルファータ……テンシーちゃんなのか?」
テンシー「(笑顔で振り返って)はい!」
テロップ『天女 テンシー・ラルファータ』
ジェン「(テンシーの姿を見て)その姿は……」
テンシー「話は戦いが終わったあとにしましょう」
トムの方を見るテンシー。
テンシー「今度は私がジェンさんの力になります」
ジェン「テンシーちゃん……」
トム「(テンシーを見て)ほー。こりゃ見たことないくらいの美女だ。オレの女にしてやるよ」
テンシー「お断りします」
〇草原(昼)
地面に座っているロイ。
ロイ「無事で帰ってこいよ……」
〇異世界・平地(昼)
磔にされたような状態で空中に浮いているジェン。
テンシー、重ねた両手を遠くにいるトムに向ける。
テンシー「心配しないでください。すぐに終わらせますから」
ジェン「……テンシーちゃん」
テンシーの両手から透き通る青色の巨大なエネルギー波が勢いよく放たれる。
トム「(自分に向かってくる巨大なエネルギー波を見て)……ほう」
と、胸の前で腕をクロスする。
トムの体を透き通るような青色のエネルギー波が通り抜ける。
その場で崩れ落ちて地面に倒れるトム。
ジェン「!?」
テンシー「終わりました」
磔のような状態が解けて、地面に着地するジェン。
ジェン「……テンシーちゃん、油断しちゃダメだ。あいつは幻覚を見せるような能力をもってるかもしれない」
テンシー「幻覚ですか」
ジェン「オレが背後から小刀で胸を貫いたけど、刺されたあいつの体は消えて、いつの間にか背後にあいつは立ってたんだ」
テンシー「なるほど」
ジェン「それに魔王が使うエネルギー波を正面から受けてもあいつは無傷だった。倒されたふりをしているだけかもしれない」
テンシー「わかりました」
と、エネルギーで剣をつくりだす。
ジェンとテンシー、周囲を見回す。
トム、カッと目を開ける。
トム「ひゃああああああああああ!」
テンシー「(トムを見て)!?」
ジェン「!」
絶叫しているトム。
テンシー「あれは……」
ジェン「……倒したんだ。オレの呪いが発動してる」
テンシー「これまで誰かに与えた苦痛を受けているのですね」
と、ジェンの方を向く。
ジェン「うん。テンシーちゃんの力はいったい……」
テンシー「私の能力は相手の意識を奪う力です」
小刀が刺さっているジェンの太ももに手をあてるテンシー。
ジェン「!」
青いエネルギーが太ももを包む。
ジェン「(意識が薄れつつ)あまり痛みを感じなくなった」
小刀を抜いて太ももに包帯を巻くテンシー。
テンシー「私が放つエネルギー波は、どんなものでもすり抜けます。そして、エネルギー波に当たった生物は意識がなくなります」
ジェン「!」
テンシー「おそらく幻覚のような能力は相手の攻撃を受けてから発動するタイプのものだと思います。私の攻撃を受けて、能力を発動させる前に気を失ったんです」
ジェン「さっき、つくりだした剣は……」
テンシー「あの剣は切れ味がありますけど、生物の体だけはすり抜けます。斬られた箇所に応じて意識が薄れるんです。通常の剣で致命傷になるような箇所を斬れば、それだけで気を失います」
ジェン(M)「……前回の平衡感覚を狂わせる剣みたいなものか」
テンシー「エネルギー波をかわすような素早い敵には剣で対応します。大勢の敵や近づかない方がいい敵にはエネルギー波を放ちます。力の消費を抑えたい場合は弓で対応します」
ジェン「弓もつくれるんだ」
テンシー「他にもつくれますよ」
ジェン「いい能力だね」
テンシー「はい。私は敵も傷つけたくないので、そのような力が発現したんだと思います」
ジェン(M)「テンシーちゃんらしい優しい能力だ」
ジェン「でも、一番気になるのはテンシーちゃんの姿だけど」
テンシー「(笑って)私は……!」
山の方を見るテンシー。
ゴブリンの姿が見える。
ゴブリンE「(ジェンたちに)よくも仲間を!」
ジェン「オレたちがやったんじゃないです」
ゴブリンCが生き返って起き上がる。
ジェン「!」
ゴブリンC「生き返った……」
ジェンの傷口がなくなる。
トムの死体を見るジェン。
ゴブリンC「この方たちは我々を救ってくれたんだ!」
〇異世界・山の中(昼)
3匹のゴブリンの遺体をジェンとゴブリンCとゴブリンEが運ぶ。
テンシー、ジェンのあとをついていく。
涙ながらジェンに感謝の言葉を述べるゴブリンC。
前方にリーダーのゴブリンが立っている。
テロップ『ゴブリン ガドルフ・バーバー』
ジェン(M)「ゴブリンのメインキャラだ」
ゴブリンC「この人たちが我々を転生者から救ってくれたんです!」
ガドルフ「感謝申し上げます」
と、深々と頭を下げる。
ゴブリンC「本当にありがとうございました!」
ジェン「いえ、早く新しい坑道へ移動した方がいいです」
ジェンとテンシーの体が消え始める。
ジェン・テンシー「!」
感謝の言葉を聞きながら消えるジェンとテンシー。
〇草原(昼)
ジェンとテンシーが現れる。
ロイ「よかった、二人とも無事で」
ジェン「マリフォードさん」
ルイス「……お疲れ」
ジェン「(テンシーを見て)テンシーちゃん、その姿についてまだ聞いてないけど……!」
眠っている幼児姿のテンシーが目に入る。
ジェン「テンシーちゃんが二人!?」
テンシー「(幼児のテンシーを見て)そこの私が、20年後の自分をつくりだしたんです」
ジェン「!?」
テンシー「私は20年後の世界から来ました」
ジェン「20年後?」
テンシー「そこの私がもつ能力は、自分が存在する仮想世界をつくりだして、その世界の時間を進めて成長した自分を、この世界に出現させる力です」
ジェン「凄すぎる……」
テンシー「仮想世界での私はその能力を有していませんが、修行して意識を奪う力を獲得しました」
ロイ「ラルファータを一目見たとき、ありえないほどの才能を感じたから、子供でもわかるようにジェンの事情を簡単に話したんだよ」
ジェン「……」
ロイ「そしたら、この子は自分が力になりたいって言って、20年後の自分を出現させちまったってわけさ」
テンシー「20年後の私が存在する間は、幼児の私は眠った状態になります」
ジェン「その仮想世界では、オレは生きてる?」
テンシー「闇の力が原因なのか、ジェンさんとレモネードさんは存在してませんでした」
ジェン「眠ってるテンシーちゃんは目覚めるの?」
テンシー「はい。私が消滅すれば目覚めます。あの子がまた私をつくりだせば、今の記憶も引き継がれます。幼児の私には記憶が共有されませんけどね」
ジェン「異世界は危険だから来ちゃだめだ」
テンシー「大丈夫です。私は痛みを感じない体ですし、もし私がいない方が都合のいい場合は、自分で消滅して異世界から抜け出すこともできると思います」
ジェン「無事に抜け出せるんだ」
ロイ「ジェン、おまえが命懸けで仲間のために異世界で戦っているときに、レモネードは読書してたぜ」
ジェン「!?」
ルイス「わ、悪かったわよ。謝るわ。ごめんなさい」
ジェン「……ルイス、一つ言いたいことがある」
ルイス「!?」
(続く)