〇街の治療所(夜)

ジェンを背負ったロイが入ってくる。

ジェン「目配せで気づくなんてさすがです」

ロイ「(苦笑して)オレは世界最強の勇者だぞ?」

マリフォードの姿に気づく医者。

医者「マリフォードさん! ご無事で! お怪我は?」

ロイ「オレは無傷だ。この男の足を治療してやってくれ」
と、床にジェンをおろす。

医者「は、はい!」

ロイの体に傷が現れ、激痛が走る。

ロイ「ぐうああああっ!」
と、床に崩れ落ちる。

医者「マリフォードさん!?」

ロイ「(死にかけた状態で)どうなってんだ……」

ジェン「魔王が破滅したことでオレの能力が解除されて、元通りになったんです」

ロイ「(苦笑して)なるほど……」

医者「すぐに治療を!」

医者たち、ロイを担架にのせて運んでいく。

自分の足の傷が治っていることに気づくジェン。

ジェン(M)「……足の傷が治ってる。敵が破滅したら自分が負った傷は治るのか」
と、立ち上がってテンシーのいる病室に歩いていく。

ベッドで横になっているテンシーを見つめるジェン。

ジェン「よかった、無事で」

〇街(昼)

二日後。

一人で歩いているジェン。

ジェン(N)「魔王死亡という衝撃のニュースは瞬く間に全世界に伝わった」

子供たちが盛り上がっている。

ジェン(N)「勇者軍と魔王軍の長期にわたる戦争を引き起こして世界を恐怖に陥れた史上最悪の魔王は新聞配達員によって倒されたと……」

子供A「モブキャラが世界を救ったんだ!」

ジェン「……」

〇ジェンの回想

勇者軍本部にある部屋に座っているジェン。

勇者A「マリフォードの報告によれば、君が一人でベネスを倒したそうだな」

ジェン「!?」

勇者A「モブキャラが魔王を倒したと世界中で大騒ぎになってるよ」

ジェン「二人で倒しました!」

勇者B「そうなのかね? まあ、どちらでもいい」

勇者A「時間をもどせるそうだな」

ジェン「……もう全ての特殊能力を失いました」

勇者A「失った? とぼけなさんな」

ジェン(M)「闇の力で得た能力は敵が破滅したら失う一時的なものだし」

(回想終了)

〇街の治療所にある個室(昼)

ジェン、個室に入っていく。

ベッドから起き上がるロイ。

ロイ「全ての能力を失ったんだって?」

ジェン「なんでオレが一人で魔王を倒したと報告したんですか!?」

ロイ「君なら一人でも勝っていただろ?」

ジェン「そんなのわかりませんよ」

ロイ「オレはチャンスを横取りしたようなもんだからな」

ジェン「横取りって……連携してくれたんでしょ?」

ロイ「あの勝利は、二人で倒したとオレの口からは言えないな」

腕を組むロイ。

ロイ「で、オレに何か頼みがあるんだろ?」

ジェン「……」

〇ジェンの回想

真っ白な空間でリリーと話しているジェン。

ジェン「それで代償は?」

リリー「一か月に一回は誰かの魂を神に捧げること」

ジェン「魂?」

リリー「闇の力を使って敵を破滅させれば、敵の魂は神に捧げられる」

ジェン「じゃあ、悪い奴を倒せばいいんだな……」

リリー「もしそれがなされなかった場合、完全に狂うまで苦痛を受けてジェンの魂が消滅することになるから、気をつけてね」

ジェン「……完全に狂うまでって」

リリー「耐えきれず悲鳴をあげるほどの苦痛を1日中受け続けた人間はどうなると思う?」

ベネスの絶叫する姿が思い浮かぶ。

ジェン「(戦慄する)」

リリー「ジェン、頑張って魂を捧げてね」

(回想終了)

〇街の治療所にある個室(昼)

ロイの顔を見るジェン。

ジェン「オレを勇者軍に入れてくれませんか?」

ロイ「なぜだ?」

ジェン「魔王軍の残党を倒したいんです」

ロイ「それは無理だな」

ジェン「え?」

〇とある村(昼)

村人たちが魔王軍から逃げている。

村人A「勇者軍はまだなのか!?」

村人B「とっくに魔王軍の総攻撃で本部ごと壊滅したってよ!」

魔王軍の兵隊A「もう勇者どもが派遣されることもない。この世界は魔王様のものだ!」


〇街の治療所の前(昼)

入り口で勇者2名が立っている。

治療所に入る人たちを確認している勇者たち。

その様子を見ているルイス。

〇街の治療所にある個室(昼)

二人で話しているジェンとロイ。

ジェン「たしかにオレは全ての能力を失いました。でも、また戦闘になったら強くなれるんです!」

ロイ「そういう問題じゃないんだ。まだニュースになってないが……」

ジェン「?」

ロイ「今朝、魔王軍は全員拘束されて一人残らず粛正された」

ジェン「……え」

ロイ「歴代魔王の中でも類を見ない強さを誇ったベネスが敗北して死んだことで、魔王軍は完全に戦意喪失したようだ」

ジェン「そんな……」

ロイ「これで世界から争いがなくなり、平和になるだろう。勇者の仕事もなくなるかもな」

ジェン(M)「それじゃあ、オレは悪い奴を見つけられなくなる……」

ロイ「君のことを調べさせてもらったよ。呪いを受けて昏睡状態になってるラルファータって女の子を助けたいんだろ?」

ジェン「!」

ロイ「魔王を倒した功績で莫大な報酬金が出るだろう。そのお金で巫女に依頼すれば呪いを解くことができる」

ジェン「本当ですか!?」

ロイ「ああ。それに巫女を優先的に派遣してもらえるだろ。世界を救ったんだから当然だ」

ジェン「(嬉しそうな顔で)よかった」

ロイ「ところで、オレにだけは君の秘密を教えてくれよ。また戦闘になったら強くなれるってどういうことだ? 誰にも言わないからさ」

ジェン「……本部の人たちには言わないでくださいね?」

ロイ「ああ、約束する」

死んでからの一部始終をロイに話しているジェン。

ジェン(N)「テンシーちゃんが回復して元気になることが嬉しかったオレは、本当のことを話してしまった」

個室の外の壁に背をあずけて盗み聞きしているルイス。

ロイ「……それで、化け物みたいな姿をした奴に禁じられた悪魔の呪いをかけられて、闇の力を手にしたってわけか」

ジェン「はい。その化け物は自分のことを神と言ってたんですけど、絶対に悪い神ですよ」

ロイ「よく信じたな、そんな悪い神の話」

ジェン「なんでかわからないですけど、話の内容は全部本当のことだと信じれたんです……」

ロイ「信じれたとしても、オレなら代償もわからず闇の力を手にしようとは思わないけどな」

ジェン「耐えきれない代償なら、自ら命を絶てばいいと思っていたので」

ロイ「そしたら、死んでも気が狂うまでは生き返る体になってしまったと」

ジェン「はい。考えが甘かったです」

ロイ「勇者軍に入りたいと言ったのは、悪者の魂を化け物に捧げるためか」

ジェン「そうです。でないと、オレは頭がおかしくなるほど苦痛を受けることになるみたいなんで」

ロイ「そりゃ、おっかねえ話だな」

ジェン「……」

ロイ「しかし、まいったな。これから訪れる平和な世界で、処刑されるほどの悪い奴が出てくるかどうか……」

ジェン「……ちょっとトイレに行ってきます」
と立ち上がって個室から出ていく。

〇街の治療所にある個室の外廊下

個室から外廊下に出るジェン。

壁を背に立っているルイスの姿が目に入る。

ジェン「(ルイスを見て)?」

ルイス「(ジェンに)初めまして」
と、ジェンの肩を掴む。

ジェン「え?」

ジェンとルイスの姿が外廊下から消える。

〇草原(昼)

ジェンとルイスの姿が現れる。

ジェン「(周囲を見回して)!?」

ルイス「マリフォードとの話は聞かせてもらったわ」

ジェン「(ルイスを見て)……何が起こったんですか?」

ルイス「アタシの能力を使って移動したの」

ジェン「何のために?」

ルイス「あなたとじっくり話すために」

ジェン「(ルイスを見て)ルイス・レモネード……どこかで見かけたことがあります」

ルイス「そうなの? ルイスでいいわ」

ジェン「それで、オレと何を話したいんですか?」

ルイス「アタシはあなたと同じよ。闇の力を手にした者なの」

ジェン「本当ですか!?」

ルイス「ええ」

ジェンをじっと見つめるルイス。

ルイス「てっきりメインキャラじゃなきゃ、あの空間には行けないと思っていたんだけど、モブキャラでも行けるのね。もしかして両親のどちらかがメインキャラ?」

ジェン「いや、オレの家系は200年前くらいまで遡れますけど、全員がモブキャラです」

ルイス「そう。なら、関係ないのか」

ジェン「それで……」

ルイス「あなたはアタシが探し求めた最強の仲間よ」

ジェン「?」

ルイス「神に捧げる悪者を探してるんでしょ? アタシの能力を使えば、いくらでも悪者を見つけられるわ」

ジェン「本当に!?」

ルイス「ええ。アタシの能力は異世界に移動させることもできる」

ジェン「異世界?」

ルイス「別次元にはね、無数の異世界があるの」

〇とある平地

逃げるゴブリンたち。

ゴブリンA「逃げろ! 転生者だ!」

ゴブリンB「子供、女を避難させろ!」

一人のイケメンが空に手をあげる。

テロップ『転生者 トム・オーガ』

ゴブリンC「(トムに)やめてくれー!」

雷がゴブリンたちに落ちる。

真っ黒に焦げて倒れるゴブリンたち。

トム「(笑って)オレ、TUEEEえええええええ!」

〇草原(昼)

向き合って話しているジェンとルイス。

ルイス「この世界と同じように勇者軍や魔王軍がいる異世界もあれば、勇者も魔王も存在しない異世界だってある」

ジェン「……そうなんですか」

ルイス「アタシは異世界で無念の死を遂げたモブキャラたちの悲痛な声が聞こえるの」

ジェン「モブキャラの?」

ルイス「だから、あなたは異世界でモブキャラたちを殺した悪者を倒せばいい」

〇とある山(朝)

聖軍から逃げる人々。

一人の聖兵士が剣をぬく。

テロップ『聖兵士 ナーガ・ホーリーナイト』

ナーガ「作戦を開始したと王に伝えろ。全滅させるまで気を抜くなよ!」

聖兵士A「はっ!」

逃げる中年男性を剣で貫くナーガ。

中年男性「ああっ!」
と倒れて絶命する。

聖兵士B「ナーガ様、第二部隊が到着したようです!」

ナーガ「第二部隊は西へ進め! 魔人どもを一人たりとも逃がすな!」

逃げる人たちを次から次へと斬り殺していくナーガ。

〇草原(昼)

ルイス、何かに気づいた表情になる。

ルイス「モブキャラの無念の声が聞こえたわ」

ジェン「え?」

ルイス「あなたの出番ね。モブキャラを救うわよ」

(続く)