〇街(夜)

勇者と魔王が対峙している。

二人の決闘を見守る人々。

勇者「オレがおまえを倒して世界を救う!」

テロップ『世界最強の勇者 ロイ・マリフォード』

魔王「はっはっは。不可能だ」

テロップ『史上最悪の魔王 ベネス・ドルザーク』

剣を構えるロイ。

ロイ「始めるぞ、ベネス!」

ベネス「その前に、オレ様が手に入れた新しい能力を見せてやろう」

ロイ「なに?」

ベネス「周りにいるモブキャラどもを見ろ」

ロイとベネス、決闘を見守る人々に目を向ける。

人々の体にムカデのような生物が巻き付いた形で出現する。

自分の体に巻き付いている魔生物に気づく人々。

男性A「うわっ!」

女性A「きゃーっ! なんなのこれ!?」

大騒ぎし始める人々。

ベネス「オレ様は視界に入った者に魔生物を巻き付けることができるようになった」

ロイ「何をする気だ!?」

ベネス「魔生物は爆発させることも可能だ」

男性A「(震えながら)あうあー……い、いやだー」

女性A「勇者さん、助けてー!」

ベネス「爆発の威力、モブキャラを使って見せてやろう」

ロイ「やめろー!」

ベネス、指でパチンと音を鳴らす。

人々に巻き付いた魔生物が爆発する。

真っ黒に焦げて倒れる人々。

ベネス「このように、爆発すればモブキャラなら一度で死んでしまう威力だ」

ロイ「(ベネスを睨んで)よくも!」

ベネス「では、始めようか。世界の命運を託された男、ロイ・マリフォード」

ロイ「ベネスー!」
と、斬りかかっていく。

二人の戦闘で衝撃波が起こる。

地面に倒れている虫の息の男性A。

男性A「(意識朦朧な目で)……」

〇男性Aの走馬灯・草原

仕事を終え、寝転んで親友と一緒に空を見上げる男性A。

男性A「キラキラ輝いた毎日をおくりたいなー」

親友「モブキャラのボクたちには分不相応な望みだよ」

男性A(N)「この世界にはメインキャラとモブキャラが存在する」

〇男性Aの走馬灯・道

親友と二人で歩いている男性A。

男性A(N)「メインキャラとモブキャラの区別は簡単だ。姿を見られただけで相手に名前が伝わるかどうか。つまり、メインキャラとして産まれた人間は自分の名前を相手に名乗る必要がない」

前方から美女が歩いてくる。

テロップ『呪女 ルイス・レモネード』

ルイスの姿を見る男性Aと親友。

親友「(ルイスに見惚れて)ジェン、見てよ。あの人、物凄く美人だ」

男性A「(ルイスを見て)ほんとだ。ルイス・レモネード……レモネードって、あの名家の?」

親友「ああ、お嬢様だね。メインキャラで美人な令嬢……人生バラ色だ」

男性A(N)「メインキャラは何らかの特別な才能があり、モブキャラと比べて身体能力などが優れている場合も多い」

ルイス、モブキャラは眼中にないというようすで、男性Aと親友の横を通り過ぎていく。

勇者たちに声援をおくる人々。

男性A(N)「だからメインキャラは勇者になれるし、勇者にならなくても他の分野で活躍できる」

勇者たち、周囲の声援に手を振る。

男性A(N)「メインキャラ同士が子供をつくると、その子供はメインキャラとなる。モブキャラの血が混ざればモブキャラしか産まれてこない」

〇男性Aの走馬灯・一軒家の前

夕刊の新聞配達をしている男性A。

親子が家の庭で遊んでいる。

幼く可愛らしい娘、両親から離れて男性Aのところへ走っていく。

幼女「新聞屋さんだー!」

男性Aのもとへ駆け寄る幼女。

テロップ『幼女 テンシー・ラルファータ』

男性A(M)「(テンシーを見て)! あ、メインキャラだ」

テンシー「(笑顔で)いつも新聞ありがとう」

男性A「……ど、どういたしまして」

両親「ご苦労様です」

男性A「(ぎこちなく)ありがとうございます。失礼します」

〇男性Aの走馬灯・道

親友と並んで歩いている男性A。

親友「なんか最近いいことあった?」

男性A「配達のときに会う子供に癒されるんだよ」

〇男性Aの走馬灯・一軒家の前

新聞配達している男性Aに似顔絵を渡すテンシー。

男性A「(似顔絵を見て)これ……」

テンシー「(笑顔で)新聞屋のお兄さんだよ」

男性A「(嬉しそうな顔で)嬉しいよ、ありがとう」

テンシー「(笑って)うん!」

〇男性Aの走馬灯・酒屋

お酒を飲んでいる男性A。

酒屋に駆け込んでくる親友。

親友「魔王軍が東地区を襲撃したらしい!」

男性A「!」

〇男性Aの走馬灯・街の治療所

ベッドで横になっている昏睡状態のテンシー。

男性A「(テンシーを見つめて)……」

医者「外傷はないが、呪いをかけられてて意識がもどらない。延命治療をおこなわなければ長くはもたないだろう」

男性A「ご両親は?」

医者「殺されていたよ。この子には親族がいないから延命はできない」

男性A「……オレがお金を払います」

医者「延命してどうするんだい? 呪いを解かないと意識はもどらないし、呪いを解くにも大金が必要だ」

〇男性Aの走馬灯・道

募金箱をもっている男性A。

男性A「募金、お願いしまーす!」

親友「ジェン、なんで赤の他人のためにそこまでするのさ。仕事で稼いだお金も全部あの子の延命に使ってるんでしょ?」

男性A「あの子はオレのつまらない毎日に唯一癒しをもたらしてくれた。あの子には生きて幸せになってほしいんだよ」

〇男性Aの走馬灯・街

募金活動をしている男性A。

空から地上に降り立つベネス。

女性A「魔王よ! みんな逃げてー!」

ベネス「モブキャラども、そこから一歩も動くな。動いた者から殺していく」

男性A「(震えて)……」

ベネスの前に現れるロイ。

ロイ「オレがおまえを倒して世界を救う!」

ベネス「はっはっは。不可能だ」

体に巻き付いた魔生物が爆発して地面に倒れる男性A。

〇真っ白な空間

一人で倒れている男性A。

ジェン「あああっ!」
と、目が覚めて起き上がる。

何もない真っ白な場所を見回すジェン。

ジェン「……オレは死んだのか」

テンシーの笑顔が脳裏をよぎる。

ジェン(M)「もうテンシーちゃんは助からないのか……」

ベネスの姿を思い出す。

ベネスのセリフ「爆発の威力、モブキャラを使って見せてやろう」

ジェン「(怒りの表情で)くそっ!」
と、白い床を叩く。

ジェンの目から涙があふれる。

ジェン「モブキャラだって何か背負って必死に生きてんだよ!」

床に両腕をつけて体を震わせるジェン。

ジェン「こんな死に方があるかよっ……ちくしょう!」

ベッドで横たわっている意識のないテンシーの姿が思い浮かぶ。

ジェン「(悔しくて)うわああああああああああああっ!」

真っ白な床に涙が落ちていく。

泣き叫ぶジェン。

邪神「憎いか?」

ジェン「!?」

驚いて顔をあげるジェン。

黒い翼をはやした醜い姿の邪神が目の前に現れる。

ジェン「(邪神のおぞましい姿が恐ろしくて)ああっ……」

邪神「貴様は死んだ。これから貴様の魂は消滅して無になる」

ジェン「(震えて)……あ、あなたは誰ですか?」

邪神「私は神だ」

ジェン(M)「……絶対に悪い神だ」

邪神「生き返ることを望むか?」

ジェン「で、できるんですか?」

邪神「1つだけ方法がある」

ジェン「……」

邪神「闇の力を手にするのだ」


〇街の治療所(夜)

昏睡状態のテンシーがベッドで横になっている。

〇真っ白な空間

ジェンの前に立っている邪神。

ジェン「……闇の力?」

邪神「そうだ。強力な魔の力」

ジェン「(邪神の姿を見つめて)……その力って、化け物みたいな姿になるんですか?」

邪神「自我や姿形に変化はない」

ジェン「……」

邪神「禁じられた悪魔の呪いをかけることによって、貴様は生き返ることができる」

ジェン(M)「それ、間違いなくヤバイ方法だろ……」

邪神「強力な力を手にすれば、貴様を殺した魔王も倒すことができるかもしれないぞ」

ジェン「闇の力とか、禁じられたとか、悪魔とか、呪いとか、なんでそんなヤバそうなことをわざわざ言うんですか?」

邪神「本当のことを伝えなければ力を与えられないからだ。強制してるわけではない。選択権は貴様にある」

ジェン「なにか代償が必要なんですよね?」

邪神「力を与えてみないことにはわからない」

ジェン「死んだあと地獄に落ちるとか?」

邪神「天国や地獄など存在しない。生物は死ねば、この空間にくるか、魂が消滅して無になるかのどちらかだ」

ジェン「……」

邪神「こうしている間にも世界の時間は流れている。魔王が勇者を倒して街を全て破壊するかもしれないぞ?」

ジェン「! 今、勇者と魔王の決闘はどうなってるんですか?」

邪神「この空間からでは私も知ることができない」

ジェン「っ……」

邪神「街が破壊されれば、あの子も死ぬだろうな」

ジェン「(決意した表情で)オレに力をください!」

〇街(夜)

死にかけているロイと少し負傷しているベネス。

ベネス「爆発に耐えながらオレ様とここまで戦ったことは褒めてやろう。さて、そろそろ終わらせるか」

ロイ「くっ……」

倒れている人々の場所から強い光が発せられる。

ベネスとロイ、光の方を見る。

ロイ「!?」

ベネス「……なんだ?」

ジェンが光り輝きながら立ち上がる。

ジェンの体を纏う光が消える。

ジェン(M)「(自分の体を見て)傷は治ってるし、痛みもない。おまけに服も元通りだ」

ベネス「(ジェンに)おまえは何者だ?」

ジェン「……モブキャラだよ」

魔生物がジェンの体に巻き付いた形で出現する。

ベネス「なら、死ね」
と、指を鳴らす。

ジェンの体に巻き付いた魔生物が爆発する。

ジェン「(驚いて)うっ……」

ジェン、びくびくしながら自分の体を見る。

服は破けているがジェンの体は無傷である。

ジェン「(ほっとした表情で)」

ベネス「なんだと……」

ロイ「(信じられない表情で)嘘だろ」

ジェン「……」

〇ジェンの回想

真っ白な空間に立っているジェンと邪神。

女の子の姿の小悪魔が出現する。

リリー「あなたが手に入れた闇の力について説明するね」

ジェン「手短に頼む」

リリー「簡単に言えば、ダメージを負って死ぬごとに、敵を倒す難易度が下がっていく能力」

ジェン「?」

リリー「毎回死ぬと、敵を破滅させるためにクリアしなければいけない条件が提示されるから、それを達成すればいいってわけ」

ジェン「毎回死ぬって?」

リリー「ジェンは死んだらこの空間に来るようになってて、生き返ることができるってこと」

邪神「貴様が、完全に狂うまでな」

ジェン「!」

リリー「今回の条件は魔王をビンタすること。ビンタできれば魔王は破滅する」

ジェン「……あの爆発させる攻撃があるから無理だろ」

リリー「今回、ジェンの体は魔王の爆発能力を無効化できるようになってるよ」

ジェン「……」

(回想終了)

〇街(夜)

ジェン、ベネスを見る。

ジェン(M)「オレが魔王を破滅させる!」

(続く)