〇長老の家(昼)

長老を見つめるアルファとベータ。

ベータ「嘘って……」

アルファ「(長老に)戦士が回復魔法を使えるとルベラに嘘を教えていたの?」

長老「この里では戦士が回復魔法を使えると子供に教えます。成人したら、戦士が解除魔法を使えると本当のことを教える決まりです」

アルファ「それはどうして?」

長老「解除魔法は里にとって切り札であり、外部に知られてはならないことです。子供から秘密が外へ伝わることを防ぐためにそうした決まりがあります。回復魔法を使える者は里に1人しかいません」

アルファ「解除魔法って、呪いとかに使う魔法ね?」

長老「はい、呪いなどを解除することができるレアな魔法です。機械でつくられた結界などは解除できません」

アルファ「その解除魔法で、ベータの力を解除したってわけか」

ベータ「!」

アルファ「秘宝を守ってる戦士が操られたように結界を解除して再び作動させたあと倒れたら、戦士たちはどう動くの?」

長老「緊急事態とみなし、戦士の誰かが秘宝を隠そうとします」

アルファ「あんたには隠された秘宝の場所が伝わる?」

長老「伝わりません。隠す戦士しか場所は知らないです」

アルファ「秘宝が隠されたら、それを探す方法はある?」

長老「ありません。すぐに秘宝を隠した戦士は里を出るので、里で秘宝の隠し場所を知る者はいなくなります」

アルファ「隠した戦士が里の外で死んだら、秘宝の隠し場所をどうやって知るの?」

長老「里には緊急時に使う大きな金庫があり、鍵を閉めたら2年間は誰も開けることができません。秘宝を隠す戦士は隠し場所を記入した紙を他の戦士に渡し、紙を金庫に入れる戦士と秘宝を隠して里を出る戦士にわかれて洞窟から出ます。なので、2年後に金庫を開けると秘宝の隠し場所がわかります」

アルファ「でも、秘宝の場所を変えれば里に恵みをもたらす効力が失われるはずでしょ?」

長老「この里の秘宝は新しい場所に移して、そこから秘宝を動かさなければ、2年後に再び恵みをもたらす効力を発揮します。秘宝を奪われたら恵みがなくなるだけでなく、里に災いがふりかかります。そうなるくらいなら、場所を移して2年だけ恵みがないことを選択するように決まっています」

アルファ「洞窟から金庫までは片道どのくらいかかる?」

長老「10分で着きます」

アルファ「戦士たちが秘宝のもとにたどり着いてから秘宝を隠して里を出るまでにどのくらい時間をかけるものなの?」

長老「30分以内に全てをやり遂げて里を出ると決まってます」

〇洞窟内(昼)

4名の戦士が秘宝のもとに向かって走っている。

戦士A「4つの結界が一度に消えたから、何者かが洞窟内に侵入してる可能性がある!」

戦士B「敵が何らかの魔法を使うことは間違いない!」

〇長老の家(昼)

長老に質問しているアルファ。

アルファ「あんたの家はどの場所からでも片道1時間かかるような仕組みになってるみたいだけど、隠し道以外でもっと早く他の場所へ行ける方法ってあるの?」

長老「ありません。洞窟以外の場所へ行くには最低でも1時間はかかります」

アルファ「戦士に秘宝を隠すのを中止させる方法はある?」

長老「ありません」

アルファ「……終わりだわ」

ベータ「!」

アルファ「もう私たちは里の秘宝を手に入れることができない」

ベータ「まだ……何か方法が……」

アルファ「ないわよ。仮に戦士が眠った瞬間に私たちが隠し道を通って洞窟に行ってたとしても、秘宝を隠す戦士を追うことは時間的に間に合わなかった。金庫に先回りすることもね」

床に崩れ落ちるアルファ。

ベータ、アルファの後ろ姿を見る。

アルファ「世界の仕組みを変えるには1年以内に秘宝を全て集めなきゃいけないのに、2年も秘宝を隠されるだなんて……もう打つ手がないわ」

ベータ「……」

アルファ「これで、みんな地獄に落ちて苦しむことになる。ベータ、あんたのせいでね」

ベータ、鳥肌が立ったような表情を浮かべる。

ベータ「(動揺した顔で)……オレのせい?」

アルファ「そうよ。あんたが甘い考えを捨てて戦士を殺してれば、私たちは秘宝を奪えてた」

ベータ「……」

アルファ「あの地下で会った小さな子供も、外で眠ってるあの子も、死んだら地獄に落ちるの。あんたが地獄に落とすようなもんよ。あんたの甘さのせいで、この世界の全ての住人は死んだあと絶望のどん底に突き落とされる」

ベータ「(戦慄する)」

アルファ、自分の顔を両手で覆う。

〇長老の家の前(昼)

眠っているルベラを妖精が揺する。

ルベラ、目が覚める。

ルベラ「……あれ、私……なんで」
と、起き上がる。

大きな警報音が鳴り始める。

ルベラ「!」

〇洞窟内(昼)

秘宝を手に取っている戦士A、秘宝を隠す場所を紙に記入している。

紙を折りたたむ戦士A。

戦士A「今から金庫に急いで行って、これを入れてくれ!」
と、隣の戦士に紙を渡す。

戦士B「わかった!」

戦士C「あとは秘宝を隠して里を出るだけだ! 急げ!」

〇長老の家(昼)

大きな警報音が聞こえる。

アルファ「戦士が秘宝を手に取ったのね」

ベータ「っ……」
と、玄関の扉に向かって走っていく。

アルファ、両手で覆っている顔に笑みを浮かべる。

〇長老の家の前(昼)

玄関から飛び出してくるベータ。

ルベラ「! ベータさん」

ベータ「(必死な表情で)ルベラさん、道案内をお願いします!」

ルベラ「え?」

ベータ「急いで他の場所に行きたいんです! 走って案内をお願いします!」

ルベラ「この場所からだと、どんなに急いでも1時間はかかりますよ」

ベータ「それでも、どうしても急いで行かなきゃいけないんです!」

ルベラ「どうしてですか?」

ベータ「……」

ルベラ「ベータさん?」

ベータ(M)「オレのせいで、みんなが地獄に落ちるなんて……」

地面に崩れ落ちるベータ。


〇老婆の家(昼)

一人で座っている老婆。

老婆「ついに秘宝を奪おうとする輩が現れたか……」

〇長老の家の前(昼)

ルベラ、ベータを見つめる。

ルベラ「……急いでる理由は秘宝と関係あるんですか?」

ベータ「!」

ルベラ「この警報音が鳴ってるのは、誰かが秘宝を移動させてるからです。急いでる理由は、この緊急事態と関係あるはずですから」

ベータ「……はい。どうしてもオレは秘宝のところへ行かなきゃいけないんです」

ルベラ「行ってどうするんですか?」

ベータ「……それは言えないです。でも、オレは行かないと」

ベータ、目を伏せて歯を食いしばる。

ルベラ「……」

ベータ「……」

ルベラ「案内します。秘宝のところへ」

ベータ「え?」

ルベラ「私について来てください」

〇階段(昼)

ルベラと並んで階段をおりるベータ。

ベータ「どこに秘宝が隠されるか知ってるんですか?」

ルベラ「知りません。でも、私は秘宝がどこにあるか感じとることができるんです」

ベータ「!?」

ルベラ「生き物はそれぞれ力を放ってます。単体では小さな力ですが、数が集まると大きな力になるんです。私は、大きな力を放ってる場所を感じとることができます」

ベータ「大きな力……」

ルベラ「たとえば、山の中のどこに動物が多くいるかとか、町に人が多いかどうかがわかります。里では私だけが唯一この特別な力をもってるみたいです」

ベータ「でも、秘宝は……」

ルベラ「はい、秘宝は生き物じゃないんですけど、なぜか大きな力を放ってるので、かなり正確な位置がわかるんです」

ベータ「……ルベラさんが秘宝の位置を感じとれるということを知ってる人はいるんですか?」

ルベラ「いないですよ。秘宝の位置がわかることは誰にも話していませんから」

ベータ「じゃあ、どうしてオレに?」

ルベラ「ベータさんが凄く深刻な顔してたので。ベータさんは悪いことするような人じゃないと信じれますから、秘宝のところへ案内します」

ベータ「……ありがとうございます」

ルベラ「(にっこりと笑む)」

〇長老の家の前(昼)

玄関から外に出てくるアルファ。

アルファ「(周囲を見回して)……」

〇山の中(昼)

ルベラの後ろをついていくベータ。

ルベラ「もうすぐです。戦士じゃなくて、敵が秘宝を持ってる可能性もあります。その場合、私は何も力になれません。ベータさんの催眠術で倒せますか?」

ベータ「……大丈夫です、オレが倒します」

ルベラ「心強いです」

ベータ「(ルベラの後ろ姿を見つめて)……」

ルベラ「敵と争うことになった場合は、私のことをかばったりしなくても大丈夫です。私が本当に危険な目に遭いそうになったら、妖精たちが助けてくれますから」

ベータ「妖精たちが?」

ルベラ「はい。なぜか昔から必ず妖精たちが守ってくれるんです」

ルベラの肩の上に現れたり消えたりする妖精。

ルベラ「あの、秘宝のところに案内したら私も旅に連れて行ってくれませんか?」

ベータ「え?」

ルベラ「私、ベータさんと一緒に旅がしたいです」

ベータ「……ルベラさんが望むなら、いいですよ」
と、目を伏せて歩く。

ルベラ「やった! 私もベータさんの仲間になれるんですね」

ベータ「(目を伏せたまま)……」

ルベラ「仲間になったら、一緒にお風呂も入れますよね?」

ベータ「(ルベラを見て)……え?」

ルベラ「(赤面して)秘宝はすぐ近くです……」

〇巨木の前(昼)

巨木を見上げているベータとルベラ。

ルベラ「この木の中に秘宝があるみたいですね」

ベータ「木の中?」

ルベラ「ここにある大木は絶対に伐採してはいけない決まりになっています」
と、1本の巨木に近づいていく。

木の幹を触っていくルベラ。

ルベラ「あ」
と、木の幹で開閉可能な部分を見つけて開く。

幹の中に1つの宝石が見える。

ベータ「!」

ルベラ「ありました」

宝石がある巨木に近づいていくベータ。

ルベラ「!」
と、幹の開閉部分を閉める

ベータ「え?」

ルベラ、ベータを通り越して巨木から離れていく。

ベータ「?」

四足歩行の魔獣の背中に乗った1人の戦士が来る。

戦士D「あら、ルベラちゃん。こんなところで何してるの?」

ルベラ「ちょっと散策です」

ベータの姿は巨木で遮られて戦士とルベラには見えない。

ベータ、宝石のある巨木の幹を開ける。

宝石が見える。

緊張した表情で宝石に手を伸ばすベータ。

魔獣に乗った戦士が猛スピードで去っていく。

ルベラ「なんとかごまかせました」
と、巨木の方を向く。

秘宝を握りしめたベータ、巨木から姿を現す。

ルベラ「え……ベータさん、もしかして秘宝を手に持ってます?」

ベータ「……やっぱりわかるんだ」

ルベラ「ダメです! さすがに秘宝を動かすのはよくないです。もどしてください」

ベータ「ルベラさんには嘘をつきたくないから、本当のことを話すよ」

ルベラ「え?」

ベータ「オレの目的は秘宝を奪うことなんだよ」

ルベラ「(衝撃を受けた顔で)……冗談ですよね?」

ベータ「聞いてくれ。全ての人を救うためなんだ」

ルベラ「まさか……」

ベータ「この世界の人たちは死んだら地獄に行く仕組みになってる。でも秘宝を集めて世界を滅ぼせば天国に行く仕組みに変わるんだ」

ルベラ「それって、悪魔の教えじゃないですか……」

ベータ「!」

ルベラ「(必死な表情で)ベータさん、騙されてますよ! 秘宝を集めても世界が滅びるだけです!」

ベータ「……」

ルベラ「悪魔の教えをベータさんに吹き込んだのは、あの仲間の人ですか!?」

ベータ「仙人も言ってたから本当の話だよ」

ルベラ「誰が言おうと嘘なんです! 正しいと証明できますか?」

ベータ「誰にも証明できないらしい」

ルベラ「それは嘘だからですよ! 秘宝をもどしてください!」

ベータ「ごめん。オレは行くよ」

ルベラ「ダメです!」
と、ベータに駆け寄ってしがみつく。

ベータ「……眠ってくれ」

倒れそうになったルベラを支えるベータ。

ベータ「(目を固く瞑って)……」

妖精たちがベータとルベラを見ている。

ベータ「(妖精に)安心して。この子を傷つけるようなことはしないよ」

〇長老の家の前(昼)

ベータとルベラ、最後の階段をのぼる。

操り人形のような表情のルベラ。

長老の家の前に立っているアルファ。

アルファ「……ベータ」

ベータ、秘宝をアルファに見せる。

アルファ「! どうやって?」

ベータ「……秘宝を持ってる戦士が倒れてるのを偶然見つけたから奪ったんだ」

アルファ「そう。運がよかったわね。でも、そういうことは二度とないわよ。十分わかったでしょ? 私たちの責任の重さが。これからは甘さを捨ててね」

ベータ「……」

アルファ「次の場所は甘さを捨てなければ絶対に秘宝を奪えないわ」

(続く)