〇回想・ルベラの家

アルファとベータ、眠っているルベラを見る。

ベータ「ルベラさん、寝言でオレたちに秘宝について詳しく教えてくれ」

ルベラ「(寝言で)はい」

アルファ「秘宝の警備はどうなってるの?」

ルベラ「秘宝は洞窟にあって、回復魔法を使える5人の戦士が守っています。洞窟へと続く1つの出入口を4人の戦士がそれぞれ結界装置を作動させて4つの結界で塞いでいます。残り1人の戦士は洞窟の外で隠れて出入口を監視しています。結界を持続させるには戦士が装置に触れている必要があります。外から結界の中に入ることはできません」

アルファ「その結界を消す方法は?」

ルベラ「結界の内側にいる戦士が結界装置に触れるのをやめたら消えます。強引に外側から消そうとしても1つの結界につき20分はかかります」

アルファ「結界から秘宝までどのくらい距離がある?」

ルベラ「4つの結界は数メートル間隔で並んでいて、結界から秘宝の場所までは15分かかります」

アルファ「秘宝の場所に行くには、その出入口を通るしか方法はないの?」

ルベラ「あとは長老しか知らない隠し出入口があって、長老の家から30分で秘宝の場所まで行けるそうです」

アルファ「結界を担当していた戦士が意識を失ったとして、結界の内側で倒れている戦士を外から回復魔法で治療することはできる?」

ルベラ「はい、魔法は結界の影響を受けません」

アルファ「秘宝周辺で異常なことが起こればどうなるの?」

ルベラ「緊急事態として、監視役の戦士が鳥を使って周囲に住む戦士たちに伝えます。そうなると、10分以内に洞窟の出入口に大勢の戦士が集まります。秘宝が奪われたら、警報音が里中に鳴るので、同じように大勢の戦士が集まります。それと、秘宝を手に取った瞬間に隠し出入口は20分間だけふさがれて、長老の家と洞窟を行き来することはできなくなるそうです」

アルファ「もし秘宝を奪おうとしている者が現れたとしたらどうなる?」

ルベラ「秘宝が奪われる可能性が高い危機的状況の場合は、すぐに戦士の中の誰かが秘宝を別の場所に隠します。秘宝を隠した戦士は里を出るので、場所は誰もわからなくなります。侵入者は拘束されたら、目と耳もふさがれます」

アルファ「一度でも失敗すれば秘宝の場所がわからなくなるってわけね……私たちのことは、あんたが連れて行こうとした婆さんに報告されてるの?」

ルベラ「おそらく私たちを見かけた誰かが報告してると思います」

アルファ「もたもたしていられないわ……長老の家はどこにある?」

ルベラ「洞窟の近くに一人で住んでいて、道が特別で里の者にしか案内できません。行き帰りの道は無数にありますが、どの道からでも最低1時間はかかります。この家からだと3時間かかります」

アルファ「結界を守ってる戦士たちの交代時間は?」

ルベラ「夜中の3時に結界を担当する4名の戦士たちが交代します」

アルファ「監視役の戦士と結界を担当する戦士が交代するときに通る道はある?」

ルベラ「この家の玄関から出て、ちょうど1キロまっすぐ進むと大きな道があり、結界を担当する交代予定の戦士たちが夜中の1時に通ります。監視役の戦士の交代時間や通る道は指定されていません」

アルファ「……なるほどね。ベータ、急いで行くわよ」
と、立ち上がる。

ベータ「何しに?」

アルファ「秘宝を守る戦士を殺すために決まってるでしょ?」

〇回想・山の中

夜中、北に向かって話しながら歩いているアルファとベータ。

アルファ「以上が作戦よ。私たちが捕まらずに秘宝を奪うにはこの方法しかない。だから、戦士たちは必ず殺すのよ」

ベータ「……」

〇回想・戦士たちが通る道の近く

深夜に草陰に隠れているアルファとベータ。

アルファ「(小声で)来たわ」

4人の戦士たちが歩いている。

ベータ、戦士を順番に見つめていく。

アルファ「(小声で)念じた?」

ベータ「(小声で)ああ」

〇回想・ルベラの家の前

深夜に帰ってくるアルファとベータ。

アルファ「あとは、あの子に明日長老の家まで案内するように念じればいい。ただ、操り人形にすることはやめた方がいいわ。あの子は里の者とコミュニケーションをとってるから、途中で里の者と会えば、会話から怪しまれる」

ベータ「じゃあ、連れて行くはずの老婆の家を、長老の家と勘違いするように念じればいいんだな?」

アルファ「その通り。帰り道も案内させるから長老の家に着いたら眠らせて」

〇回想・山の中

朝、ルベラとアルファの歩く後ろで、魔獣がのった担架をひきずっているベータ。

ベータ「限界だ、重すぎて疲れた」
と、地面に座る。

アルファ「しっかりしなさいよ」

ルベラ「ちょっと休憩しましょうか」

ベータ「ルベラさん、腕のマッサージをお願いしてもいいですか?」

ルベラ「(赤面して)え!?」

ベータ「適当でいいんで、お願いします」

ルベラ「(赤面しながら)わ、私でよければ……」

鍛冶屋の男性が引き返してくる。

鍛冶屋「なあ、そのケガしてる魔獣、回復魔法を使える婆さんのところに連れて行くんだろ?」

ルベラ「はい」

鍛冶屋「オレが連れて行くぜ。そこの兄ちゃん、非力そうだしよ。オレの方が早く運べる。ケガしてる魔獣にとっても、それが一番いいだろ」

ベータ「ありがたいです。お願いしてもいいですか?」

鍛冶屋「任せろ」
と、担架のロープを持つ。

ベータ「ルベラさん、マッサージの続きをお願いしてもいいですか?」

ルベラ「(赤面して)は、はい! こうですか?」
と、ドキドキしながらマッサージする。

鍛冶屋、魔獣がのった担架を老婆の家に向かって勢いよくひきずっていく。

アルファ(M)「……なるほど。あの男を操って、長老の家を経由せずに魔獣を回復魔法が使える者のところへ早く送って治療させるのね。マッサージをさせるのは、この子の目をそらすためか」

〇回想・長老の家の前(昼)

最後の階段をのぼるアルファとベータとルベラ。

ルベラ「この家です」

ベータ「眠ってくれ」

眠って倒れそうになったルベラを支えるベータ。

アルファ「長老を見たら、すぐに念じて」

玄関のドアの前に立つアルファとベータ。

アルファ「留守じゃなきゃいいんだけど」

ドアをノックするアルファ。

長老の声「入れ」

玄関のドアを開けるアルファ。

部屋の中に一人で座っている長老。

長老「……君たちは誰かな?」

アルファ「ちょっと、道に迷ってしまって」

ベータ「(長老を見つめる)」

アルファ「もしかして、この里で一番偉い方ですか?」

長老「……ワシはただの呆けた老人じゃよ」

アルファ「(にやりと笑む)」

(回想終了)


〇老婆の家(昼)

床で横になっている魔獣。

老婆「もう大丈夫だろう」
と、回復魔法を使うのをやめる。

魔獣「ありがとうございます」

〇長老の家(昼)

長老を見つめるアルファ。

アルファ「ベータ、念じた?」

ベータ「ああ」

長老「……何の話をしている?」

アルファ「呆けた老人には関係のない話よ」
と、懐中時計で時間を確認する。

長老「……」

アルファ「年寄りが一人でこんな場所に住んでるのは危ないんじゃないかしら?」

長老「道に迷ったと言ったな?」

アルファ「ええ」

長老「ここは道に迷ってたどり着ける場所ではないんじゃがの……」

アルファ「誰に教えてもらったか知りたいの?」

長老「……」

アルファ「そう警戒しなくてもいいわよ。雑談したら出て行くから」

長老「雑談?」

アルファ「おじいさん、昨日の夕飯は何食べた?」

長老「昨日……ワシは散歩したな」

ベータ「……」

〇ベータの回想

アルファとベータ、夜の山の中を二人で歩きながら話している。

アルファ「明日の昼に長老の家から秘宝を奪いに行く。結界の交代に行く戦士を見つけたら、『明日の正午に結界を解除したあと、もう一度結界を作動させた状態にして死ね』と念じて。そうすれば、敵の動きは予測できる」

ベータ「どんな予測だ?」

アルファ「緊急事態とみなし、結界を外から1時間かけて消して侵入者を追い詰めるか秘宝を移動させようと敵は動く。でも、私たちは秘宝を奪い20分後に隠し出入口を使って逃げるから捕まらないってわけ。敵が長老の家に来たとしても、長老を操って追い払えばいい」

ベータ「……」

アルファ「何度も言うけど、地下の時と同じように時間指定して敵を眠らせたりしても、監視役の戦士が異変に気付いて近寄って、外から回復魔法を使われでもしたら、眠ってる戦士が目を覚ます可能性がある」

ベータ「……回復魔法」

アルファ「以上が作戦よ。私たちが捕まらずに秘宝を奪うにはこの方法しかない。だから、戦士たちは必ず殺すのよ」

(回想終了)

〇長老の家(昼)

話しているアルファと長老。

アルファ「おじいさん、今年で何歳?」
と、懐中時計を確認する。

長老「ワシは巨乳の女が好きじゃ」

アルファ「(笑って)呆けたふりはもういいから」

長老「失礼な。ワシは呆けてない」

アルファ「……あと30分したら食事を届けに弟子が来る、それまで時間を稼げばいい」

長老「(驚いた表情で)!」

アルファ「あんたの頭の中なんて、最初から筒抜けよ」

長老「……貴様」

アルファ「これからあんたは弟子に偽の指示を出して、私たちはあんたしか知らない道を使って秘宝を奪いに行く」

長老「なんじゃと……」

アルファ「呆けたふりはもうしないの?」

長老「(覚悟した表情で)秘宝を奪われれば里に災いがふりかかる。たとえ、この身をバラバラに引き裂かれようと隠し道のことは教えん!」

アルファ「(勝ち誇った顔で笑み)いいや。あんたは殴られるのが怖くて秘密を全て話したと、里の者たちに泣いて詫びることになるでしょうね」

長老「……たわけたことを」

長老、操り人形のような表情になる。

アルファ「5分経過」

長老の部屋に入っていくアルファとベータ。

アルファ「あんたしか知らない秘宝への道はどこ?」

長老「この家の外にある穴から30分で秘宝の場所まで行けます」

アルファ「秘宝を守ってる戦士の状況を把握する方法はあるの?」

長老「洞窟の出入り口の映像を映す鏡が部屋にあります」

アルファ「その鏡を出して、映像を映して」

長老「はい」
と、鏡を取り出してくる。

1つの鏡に2つの映像が映る。

片方の映像には結界の内側にいる戦士たちが映り、もう片方には秘宝が映っている。

アルファ「弟子が来たら、弟子を含めて誰もこの家に近づかないように命令して」

長老「はい」

アルファ「さあ、あと5分後には秘宝を守ってる戦士が死ぬから、それを確認したら隠し道を通って秘宝を奪いに行くだけね」

〇ルベラの家(昼)

帰ってくるルベラの両親。

ルベラの母「ルベラ? どこにいるの?」

ルベラの父「里の門で案内係をしているのかもしれない」

〇長老の家(昼)

懐中時計を見るアルファ。

アルファ「時間だわ」

鏡に映っている戦士たちが結界装置から手を離して結界を解除する。

戦士たち、もう一度結界を作動させて結界装置に足を当てたまま倒れる。

アルファ「……」

ベータ「秘宝を奪いに行こう」

アルファ「まだよ。監視役が来て、回復魔法を使っても死んだ戦士が起き上がらないことを確認しないと」

ベータ「……」

しばらくして結界の外から監視役の戦士が駆け寄ってくる。

監視役の戦士、倒れている戦士に向かって結界越しに手をかざしている。

倒れていた戦士が起き上がる。

アルファ「……死んでない。どういうこと!?」

ベータ「眠れって念じたから」

アルファ「馬鹿なの!? このままだと結界を解除されて秘宝を別の場所に移されるわ!」

ベータ「(得意顔で)そうならないように、回復魔法を使われるたびに結界装置が近くにあれば、結界を持続させろって念じておいたんだ」

アルファ「……甘い考えは捨てろって忠告したわよね?」

ベータ「言っただろ。オレは世界を滅ぼすまでは誰も殺さない」

鏡に映る戦士を見つめるアルファ。

アルファ「……ちょっと待って」

目が覚めた戦士、結界を解除する。

アルファ「結界を解除してるわよ!?」

ベータ「……え?」

一番外側の結界が消えている。

ベータ「(驚きの表情で)なんで……」

結界の内側で倒れている戦士に向けて結界越しに手をかざしている2人の戦士。

2つ目の結界の内側で倒れていた戦士が起き上がる。。

アルファ「……まさか」

長老を見るアルファ。

アルファ「(長老に)戦士が使う魔法は回復魔法じゃないの!?」

長老「はい。戦士が使う魔法は解除魔法です」

ベータ「……解除魔法?」

アルファ「やられた……あの子は嘘を教えられていたのよ」

ベータ「!?」

(続く)