〇道(昼)
向かい合うアルファとベータ。
ベータ「……人を殺さないと秘宝を奪えない場所?」
アルファ「そう。次の行き先は人殺しをしないと秘宝を奪うことが困難な場所なの」
ベータ「どういうことだ?」
歩き始めるアルファ。
ベータ、アルファについていく。
アルファ「秘宝は地下にあって、エレベーターを使用して地上から地下におりる必要がある」
ベータ「エレベーター……」
懐中時計を取り出すアルファ。
地下の簡単な図面がホログラムで懐中時計から浮かびあがる。
ベータに図面を見せるアルファ。
アルファ「秘宝は地下20階にあるんだけど、警備室が地下15階にあって、そこにいる人たちが機械を操作して秘宝を守ってる」
20階と15階の間のフロアが居住区と表示されている。
アルファ「エレベーターには『一般用』、『警備兵用』、『特別用』の3つがあって、地下20階に行けるのは特別用だけ。特別用は権力者が来訪した時に使用するもので、エレベーターの操縦者がいるわ。今回、私たちは特別用を不正に利用する」
3つあるエレベーターのうち特別用のエレベーターだけが20階までのびている。
アルファ「でも許可なく地下20階に行くと、警備室で警報が鳴るから、機械を操作される。すると20階は閉ざされ、エレベーターごと閉じ込められてしまうわ」
20階と19階の間に開閉可能な長方形の岩の絵が表示されている。
アルファ「だから、秘宝を守る機械を操作されないように、警備室の人間を排除する必要がある。警備室に行く方法は、一人しか乗れない警備兵用のエレベーターに乗るしかないわ。でも、そのエレベーターだけは機械による顔認証で動くから、私たちの能力を使っても警備室に侵入することは不可能なの」
警備兵用のエレベーターだけが警備室へとのびている。
アルファ「だけど、特別用のエレベーターに乗って地下におりてる途中でガラス張りの警備室が10秒くらい見える。そこで、ベータの能力を使うってわけ」
特別用のエレベーターが警備室の前を通過するようにのびている。
アルファ「警備室に設置されてる機械は、ある程度の人数がいないと動かせない仕組みになってる。数人の警備兵が悪巧みして機械を操作するような事案を防止するためにね。だから、機械を動かせないようにするため、ベータには警備室にいる人間をできるだけ多く殺してもらう」
ベータ「殺さなくても、眠らせればいいだろ?」
アルファ「『眠れ』とか『気絶しろ』じゃ、誰かに起こされでもしたら、機械を操作されて、あっという間に閉じ込められて逃げ場がなくなるわ。警備室には30人以上いると思うし、10秒くらいしか念じる時間がないから、『死ね』と短く念じて、できるだけ多くの人間を殺す必要がある」
ベータ「……エレベーターで何回か往復して、そのたびに『眠れ』って念じればいい」
アルファ「1回しか往復できないわ。特別用のエレベーターは上の階にのぼれば、それより下の階にはおりられなくなるシステムなの」
ベータ「アルファは特別用のエレベーターを利用したことがあるのか?」
アルファ「昔の話だけど、一度だけ不正に利用したことがあるわ。特別用は一日に一度しか動かないの。私たちはエレベーターの運転手を操って許可なく利用する。その事実は必ずその日に発覚するはず。そうなると原因が解明されるまで特別用は凍結される」
ベータ「……じゃあ、前日に下見で利用することもできないってことか」
アルファ「そう。だから一度でも失敗すれば、その秘宝は奪えなくなる」
ベータ「警備室の人間に『動くな』って念じたらどうだ?」
アルファ「……それって、殺すことより残酷な結果になるかもよ? ベータが次の命令を念じない限り、その人は意識があるままずっと動けなくなるわ」
ベータ「……」
アルファ「動けなくなった人が警備室から別の場所に移されたら、帰りのエレベーターでは、次の命令をその人に念じられないでしょ。そうなれば一生意識があるまま動けない状態ね」
ベータ「……寝たきりになった人でも死にたいと思わない人だっているよ」
アルファ「病気や負傷とかでじゃないのよ? 何の異常もない健康体なのに動けなくなって、一生わけがわからない気持ちを抱えて生きるのは酷でしょ。通常の寝たきりの人とは違うわ」
ベータ「……」
アルファ「その人に未練があったらどうするの? 夢があったらどうなるの? 一生死ぬまで、その人を苦しめようっていうの? 殺すことより残酷よ」
ベータ「……でも、人を殺すなんて」
アルファ「いいかげん地球での善悪の考え方は捨てて。責任の大きさを自覚してよ! この世界の住人が天国に行くか地獄に行くかは、私たちにかかってるのよ!?」
ベータ「だけど、もし世界を滅ぼすことに失敗したら、オレが殺す人たちは……」
アルファ「失敗なんて許されないの! 絶対に世界を滅ぼさなきゃいけないのよ!」
ベータ「……」
アルファ「甘さは捨てて。『死ね』って短い言葉を念じて、警備室の人間をできる限り多く殺すのよ。時間的に全員は無理でも、8割近く殺せば機械を操作できなくなるはずだから」
ベータ「(葛藤する表情で)」
〇川岸(夜)
一人で地面に座って川を見つめているベータ。
ベータ(M)「殺すしかないのか……」
仙人の姿が思い浮かぶ。
仙人のセリフ「彼女の言う通り、世界を滅ぼす道を選ぶなら、地球での善悪の基準などは忘れなさい。でないと、君の心は壊れてしまうだろう」
ベータ(M)「……」
アルファの姿が思い浮かぶ。
アルファのセリフ「いいかげん地球での善悪の考え方は捨てて。責任の大きさを自覚してよ! この世界の住人が天国に行くか地獄に行くかは、私たちにかかってるのよ!?」
ベータ(M)「……世界の全ての住人を救うためなんだ……明日、オレは人を殺す」
歩いていてくるアルファ。
アルファ「ベータ、こっちに来て。明日の流れを説明するわ」
決意の表情を浮かべて立ち上がるベータ。
アルファのもとへ歩いていくベータの後ろ姿。
〇草原(夜)
遠くに見える3つの光の柱を指差すアルファ。ベータ、光の柱を見る。
アルファ「あの光の下にエレベーターがある。今日は遅いから、しっかりと睡眠をとって、明日の昼に決行するわよ」
懐中時計にホログラムを浮かびあがらせるアルファ。
アルファ「まず、特別用のエレベーターの運転手をベータに従うだけの意志をもたない操り人形になるように念じて。それで、地下19階へおりるように指示する。地下20階を閉ざすには20分くらい警備室の機械を操作し続ける必要があるんだけど、念のために警備兵が死ぬまで19階で5分待機する」
19階で5分待機とある。
アルファ「5分経ったら、20階におりて秘宝を奪う。特別用のエレベーターは侵入者対策として20階におりた場合、ちょうど1時間動かないシステムになってる。秘宝を奪った後は20階で1時間待ってから、エレベーターで地上に出るという流れよ」
ベータ「……秘宝は20階のどこにあるんだ?」
アルファ「エレベーターのすぐ目の前にあるわ。だからエレベーターからおりたら、すぐに秘宝を取って、1時間エレベーターの中で待機するの」
〇荒地(翌日・昼)
地面に設置されている特別用のエレベーターに向かって歩くアルファとベータ。
運転手がエレベーターの前で座っている。
ベータとアルファ、運転手の前で立ち止まる。
ベータ「オレとアルファを特別用のエレベーターで19階まで送れ」
運転手「(人形のように)はい、わかりました」
特別用のエレベーターに乗り込む3人。
3人だけが乗った特別用のエレベーターが地下に進み始める。
〇エレベーター内(昼)
緊張した表情のベータ。
各フロアが遠くで上に流れていくのが見える。
アルファ「次よ!」
ベータ「(目を見開いて)」
ガラス張りの警備室があるフロアが見えてくる。
アルファ「そこが警備室よ!」
警備室で働いている警備兵たちが見える。
ベータ、顔に汗をにじませながら必死で目を動かして一人一人の警備兵を見ていく。
〇警備室(昼)
仕事をしている警備兵たち。
警備兵A「!」
特別用のエレベーターの上部を視界にとらえるが、すぐに見えなくなる。
警備兵A「今、VIP用のエレベーターが動いてなかったか?」
警備兵B「まさか。急な来訪だとしたら、地上から連絡があるだろ」
〇エレベーター内(昼)
疲れた表情を浮かべているベータ。
アルファ「想定より警備兵の数が少なかったわね。全員、殺れた?」
ベータ「ああ」
アルファ「全ての生物を救うためよ。あなたは正しいことをしたの」
掲示板に19階と表示される。
エレベーターが止まり、扉が開く。フロアには壁にドアが一定間隔おきについている。
アルファ「ベータ、指示を」
と、懐中時計を見る。
ベータ「(運転手に)ここで5分待機して、次は20階にオレとアルファを送れ」
運転手「わかりました」
前方に一人で立っている幼く可愛らしい女の子。
女の子、ベータたちの姿に気づいて駆け寄ってくる。
ベータ「!」
女の子「(嬉しそうに)わー、エレベーターが開いてる!」
ベータの前に来る女の子。
女の子「お兄ちゃん、外から来たの?」
ベータ「そうだよ。一人でいたら危ないよ、お父さんとお母さんは?」
女の子「(笑顔で)パパとママは15階で私たちを守ってるの!」
と、上を指差す。
ベータ「!」
目を伏せるベータ。
ベータ「……警備室で守ってるんだ」
女の子「うん! パパもママも忙しいけど、お休みの日はいっぱい遊んでくれる!」
ベータ「いいお父さんとお母さんだね」
女の子「うん! パパとママがいれば幸せなの!」
ベータ「……そっか」
女の子「あ、もうおやつの時間だ!」
と、走り去っていく。
〇地下20階(昼)
エレベーターの扉が開いて、アルファとベータが出てくる。
アルファ、目の前にある秘宝を手に取る。
アルファ「秘宝を手に入れたわ。ベータ、指示を」
ベータ「(運転手に)1時間経過したら、オレとアルファを地上に送れ」
運転手「わかりました」
〇警備室(昼)
警報が鳴り響いている。
〇エレベーター内(昼)
懐中時計を見つめるアルファ。
アルファ「20分経過。20階が閉ざされないから問題なく死んでるようね」
〇警備室前の廊下(昼)
歩いてくる警備兵C。警備室の中から警報が聞こえる。
警備兵C「! 警報が鳴ってる?」
〇警備室(昼)
警備室のドアを開ける警備兵C。
20人近い警備兵が全員、床に倒れている。
警備兵C「おい、何があった?」
と、倒れている女性警備兵を強く揺する。
〇エレベーター内(昼)
懐中時計を見つめるアルファ。
アルファ「30分経過。警報音を聞いて休憩室にいた警備兵が警備室に入ってきてるはずだけど、人数が足りなくて機械を動かせないはず」
〇警備室(昼)
警備兵C、倒れている年配の男性警備兵を強く揺さぶっている。
警備兵C「隊長! しっかりしてください!」
揺さぶられても反応がない年配の男性警備兵。
警備兵C「くそーっ!」
〇エレベーター内(昼)
懐中時計を見つめるアルファ。
アルファ「1時間経過」
アルファとベータと運転手が乗ったエレベーターの扉が閉まる。
19階を通過するエレベーター。
アルファ「秘宝の奪取は無事成功ね」
15階付近を通過するエレベーター。警備室が見えてくる。
アルファ「!?」
警備室で年配の男性警備兵を中心にして20人近い警備兵たちが騒いで混乱している。
アルファ「死んでない……どういうこと!?」
ベータ「眠れって念じたから」
アルファ「は!? じゃあ、何で20階は閉ざされなかったの!?」
ベータ「誰かが警備室に入ってきても大丈夫なように、『1時間眠れ』って念じたから」
アルファ「!」
ベータ「警備兵の人数が多かったら殺すつもりだったよ。でも人数が少なかったら、そう念じようって決めてたんだ」
アルファ「まだそんな甘いことを……」
ベータ「(決意の表情で)決めたよ。オレ、世界を滅ぼすまで絶対に誰かを殺したりしない」
アルファ「(納得いかない表情で)……」
ベータ「誰にでも大切な人がいるかもしれないんだ。絶対に世界を滅ぼせるわけじゃないなら、誰かの幸せを奪いたくない」
エレベーターが地上に着く。
アルファとベータ、エレベーターからおりる。
ベータ「(運転手に)眠ったあとに目が覚めたら、意志のある自分にもどれ」
運転手「はい」
と、地面に倒れて眠る。
ベータに背を向けて歩いていくアルファ。
アルファ(M)「(冷笑を浮かべて)……次の場所で思い知ればいい」
(続く)
向かい合うアルファとベータ。
ベータ「……人を殺さないと秘宝を奪えない場所?」
アルファ「そう。次の行き先は人殺しをしないと秘宝を奪うことが困難な場所なの」
ベータ「どういうことだ?」
歩き始めるアルファ。
ベータ、アルファについていく。
アルファ「秘宝は地下にあって、エレベーターを使用して地上から地下におりる必要がある」
ベータ「エレベーター……」
懐中時計を取り出すアルファ。
地下の簡単な図面がホログラムで懐中時計から浮かびあがる。
ベータに図面を見せるアルファ。
アルファ「秘宝は地下20階にあるんだけど、警備室が地下15階にあって、そこにいる人たちが機械を操作して秘宝を守ってる」
20階と15階の間のフロアが居住区と表示されている。
アルファ「エレベーターには『一般用』、『警備兵用』、『特別用』の3つがあって、地下20階に行けるのは特別用だけ。特別用は権力者が来訪した時に使用するもので、エレベーターの操縦者がいるわ。今回、私たちは特別用を不正に利用する」
3つあるエレベーターのうち特別用のエレベーターだけが20階までのびている。
アルファ「でも許可なく地下20階に行くと、警備室で警報が鳴るから、機械を操作される。すると20階は閉ざされ、エレベーターごと閉じ込められてしまうわ」
20階と19階の間に開閉可能な長方形の岩の絵が表示されている。
アルファ「だから、秘宝を守る機械を操作されないように、警備室の人間を排除する必要がある。警備室に行く方法は、一人しか乗れない警備兵用のエレベーターに乗るしかないわ。でも、そのエレベーターだけは機械による顔認証で動くから、私たちの能力を使っても警備室に侵入することは不可能なの」
警備兵用のエレベーターだけが警備室へとのびている。
アルファ「だけど、特別用のエレベーターに乗って地下におりてる途中でガラス張りの警備室が10秒くらい見える。そこで、ベータの能力を使うってわけ」
特別用のエレベーターが警備室の前を通過するようにのびている。
アルファ「警備室に設置されてる機械は、ある程度の人数がいないと動かせない仕組みになってる。数人の警備兵が悪巧みして機械を操作するような事案を防止するためにね。だから、機械を動かせないようにするため、ベータには警備室にいる人間をできるだけ多く殺してもらう」
ベータ「殺さなくても、眠らせればいいだろ?」
アルファ「『眠れ』とか『気絶しろ』じゃ、誰かに起こされでもしたら、機械を操作されて、あっという間に閉じ込められて逃げ場がなくなるわ。警備室には30人以上いると思うし、10秒くらいしか念じる時間がないから、『死ね』と短く念じて、できるだけ多くの人間を殺す必要がある」
ベータ「……エレベーターで何回か往復して、そのたびに『眠れ』って念じればいい」
アルファ「1回しか往復できないわ。特別用のエレベーターは上の階にのぼれば、それより下の階にはおりられなくなるシステムなの」
ベータ「アルファは特別用のエレベーターを利用したことがあるのか?」
アルファ「昔の話だけど、一度だけ不正に利用したことがあるわ。特別用は一日に一度しか動かないの。私たちはエレベーターの運転手を操って許可なく利用する。その事実は必ずその日に発覚するはず。そうなると原因が解明されるまで特別用は凍結される」
ベータ「……じゃあ、前日に下見で利用することもできないってことか」
アルファ「そう。だから一度でも失敗すれば、その秘宝は奪えなくなる」
ベータ「警備室の人間に『動くな』って念じたらどうだ?」
アルファ「……それって、殺すことより残酷な結果になるかもよ? ベータが次の命令を念じない限り、その人は意識があるままずっと動けなくなるわ」
ベータ「……」
アルファ「動けなくなった人が警備室から別の場所に移されたら、帰りのエレベーターでは、次の命令をその人に念じられないでしょ。そうなれば一生意識があるまま動けない状態ね」
ベータ「……寝たきりになった人でも死にたいと思わない人だっているよ」
アルファ「病気や負傷とかでじゃないのよ? 何の異常もない健康体なのに動けなくなって、一生わけがわからない気持ちを抱えて生きるのは酷でしょ。通常の寝たきりの人とは違うわ」
ベータ「……」
アルファ「その人に未練があったらどうするの? 夢があったらどうなるの? 一生死ぬまで、その人を苦しめようっていうの? 殺すことより残酷よ」
ベータ「……でも、人を殺すなんて」
アルファ「いいかげん地球での善悪の考え方は捨てて。責任の大きさを自覚してよ! この世界の住人が天国に行くか地獄に行くかは、私たちにかかってるのよ!?」
ベータ「だけど、もし世界を滅ぼすことに失敗したら、オレが殺す人たちは……」
アルファ「失敗なんて許されないの! 絶対に世界を滅ぼさなきゃいけないのよ!」
ベータ「……」
アルファ「甘さは捨てて。『死ね』って短い言葉を念じて、警備室の人間をできる限り多く殺すのよ。時間的に全員は無理でも、8割近く殺せば機械を操作できなくなるはずだから」
ベータ「(葛藤する表情で)」
〇川岸(夜)
一人で地面に座って川を見つめているベータ。
ベータ(M)「殺すしかないのか……」
仙人の姿が思い浮かぶ。
仙人のセリフ「彼女の言う通り、世界を滅ぼす道を選ぶなら、地球での善悪の基準などは忘れなさい。でないと、君の心は壊れてしまうだろう」
ベータ(M)「……」
アルファの姿が思い浮かぶ。
アルファのセリフ「いいかげん地球での善悪の考え方は捨てて。責任の大きさを自覚してよ! この世界の住人が天国に行くか地獄に行くかは、私たちにかかってるのよ!?」
ベータ(M)「……世界の全ての住人を救うためなんだ……明日、オレは人を殺す」
歩いていてくるアルファ。
アルファ「ベータ、こっちに来て。明日の流れを説明するわ」
決意の表情を浮かべて立ち上がるベータ。
アルファのもとへ歩いていくベータの後ろ姿。
〇草原(夜)
遠くに見える3つの光の柱を指差すアルファ。ベータ、光の柱を見る。
アルファ「あの光の下にエレベーターがある。今日は遅いから、しっかりと睡眠をとって、明日の昼に決行するわよ」
懐中時計にホログラムを浮かびあがらせるアルファ。
アルファ「まず、特別用のエレベーターの運転手をベータに従うだけの意志をもたない操り人形になるように念じて。それで、地下19階へおりるように指示する。地下20階を閉ざすには20分くらい警備室の機械を操作し続ける必要があるんだけど、念のために警備兵が死ぬまで19階で5分待機する」
19階で5分待機とある。
アルファ「5分経ったら、20階におりて秘宝を奪う。特別用のエレベーターは侵入者対策として20階におりた場合、ちょうど1時間動かないシステムになってる。秘宝を奪った後は20階で1時間待ってから、エレベーターで地上に出るという流れよ」
ベータ「……秘宝は20階のどこにあるんだ?」
アルファ「エレベーターのすぐ目の前にあるわ。だからエレベーターからおりたら、すぐに秘宝を取って、1時間エレベーターの中で待機するの」
〇荒地(翌日・昼)
地面に設置されている特別用のエレベーターに向かって歩くアルファとベータ。
運転手がエレベーターの前で座っている。
ベータとアルファ、運転手の前で立ち止まる。
ベータ「オレとアルファを特別用のエレベーターで19階まで送れ」
運転手「(人形のように)はい、わかりました」
特別用のエレベーターに乗り込む3人。
3人だけが乗った特別用のエレベーターが地下に進み始める。
〇エレベーター内(昼)
緊張した表情のベータ。
各フロアが遠くで上に流れていくのが見える。
アルファ「次よ!」
ベータ「(目を見開いて)」
ガラス張りの警備室があるフロアが見えてくる。
アルファ「そこが警備室よ!」
警備室で働いている警備兵たちが見える。
ベータ、顔に汗をにじませながら必死で目を動かして一人一人の警備兵を見ていく。
〇警備室(昼)
仕事をしている警備兵たち。
警備兵A「!」
特別用のエレベーターの上部を視界にとらえるが、すぐに見えなくなる。
警備兵A「今、VIP用のエレベーターが動いてなかったか?」
警備兵B「まさか。急な来訪だとしたら、地上から連絡があるだろ」
〇エレベーター内(昼)
疲れた表情を浮かべているベータ。
アルファ「想定より警備兵の数が少なかったわね。全員、殺れた?」
ベータ「ああ」
アルファ「全ての生物を救うためよ。あなたは正しいことをしたの」
掲示板に19階と表示される。
エレベーターが止まり、扉が開く。フロアには壁にドアが一定間隔おきについている。
アルファ「ベータ、指示を」
と、懐中時計を見る。
ベータ「(運転手に)ここで5分待機して、次は20階にオレとアルファを送れ」
運転手「わかりました」
前方に一人で立っている幼く可愛らしい女の子。
女の子、ベータたちの姿に気づいて駆け寄ってくる。
ベータ「!」
女の子「(嬉しそうに)わー、エレベーターが開いてる!」
ベータの前に来る女の子。
女の子「お兄ちゃん、外から来たの?」
ベータ「そうだよ。一人でいたら危ないよ、お父さんとお母さんは?」
女の子「(笑顔で)パパとママは15階で私たちを守ってるの!」
と、上を指差す。
ベータ「!」
目を伏せるベータ。
ベータ「……警備室で守ってるんだ」
女の子「うん! パパもママも忙しいけど、お休みの日はいっぱい遊んでくれる!」
ベータ「いいお父さんとお母さんだね」
女の子「うん! パパとママがいれば幸せなの!」
ベータ「……そっか」
女の子「あ、もうおやつの時間だ!」
と、走り去っていく。
〇地下20階(昼)
エレベーターの扉が開いて、アルファとベータが出てくる。
アルファ、目の前にある秘宝を手に取る。
アルファ「秘宝を手に入れたわ。ベータ、指示を」
ベータ「(運転手に)1時間経過したら、オレとアルファを地上に送れ」
運転手「わかりました」
〇警備室(昼)
警報が鳴り響いている。
〇エレベーター内(昼)
懐中時計を見つめるアルファ。
アルファ「20分経過。20階が閉ざされないから問題なく死んでるようね」
〇警備室前の廊下(昼)
歩いてくる警備兵C。警備室の中から警報が聞こえる。
警備兵C「! 警報が鳴ってる?」
〇警備室(昼)
警備室のドアを開ける警備兵C。
20人近い警備兵が全員、床に倒れている。
警備兵C「おい、何があった?」
と、倒れている女性警備兵を強く揺する。
〇エレベーター内(昼)
懐中時計を見つめるアルファ。
アルファ「30分経過。警報音を聞いて休憩室にいた警備兵が警備室に入ってきてるはずだけど、人数が足りなくて機械を動かせないはず」
〇警備室(昼)
警備兵C、倒れている年配の男性警備兵を強く揺さぶっている。
警備兵C「隊長! しっかりしてください!」
揺さぶられても反応がない年配の男性警備兵。
警備兵C「くそーっ!」
〇エレベーター内(昼)
懐中時計を見つめるアルファ。
アルファ「1時間経過」
アルファとベータと運転手が乗ったエレベーターの扉が閉まる。
19階を通過するエレベーター。
アルファ「秘宝の奪取は無事成功ね」
15階付近を通過するエレベーター。警備室が見えてくる。
アルファ「!?」
警備室で年配の男性警備兵を中心にして20人近い警備兵たちが騒いで混乱している。
アルファ「死んでない……どういうこと!?」
ベータ「眠れって念じたから」
アルファ「は!? じゃあ、何で20階は閉ざされなかったの!?」
ベータ「誰かが警備室に入ってきても大丈夫なように、『1時間眠れ』って念じたから」
アルファ「!」
ベータ「警備兵の人数が多かったら殺すつもりだったよ。でも人数が少なかったら、そう念じようって決めてたんだ」
アルファ「まだそんな甘いことを……」
ベータ「(決意の表情で)決めたよ。オレ、世界を滅ぼすまで絶対に誰かを殺したりしない」
アルファ「(納得いかない表情で)……」
ベータ「誰にでも大切な人がいるかもしれないんだ。絶対に世界を滅ぼせるわけじゃないなら、誰かの幸せを奪いたくない」
エレベーターが地上に着く。
アルファとベータ、エレベーターからおりる。
ベータ「(運転手に)眠ったあとに目が覚めたら、意志のある自分にもどれ」
運転手「はい」
と、地面に倒れて眠る。
ベータに背を向けて歩いていくアルファ。
アルファ(M)「(冷笑を浮かべて)……次の場所で思い知ればいい」
(続く)