〇村(昼)
向き合うアルファとベータ。
アルファ「……なにが嫌なの?」
ベータ「捕まったら死罪なんだろ?」
アルファ「でも、私たちは死ねば天国に行ける」
ベータ「それ嘘だろ」
アルファ「……嘘じゃないわ」
ベータ「仙人に本当の話を聞いてきた」
アルファ「!」
ベータ「オレたちは死んだら無になるんだな」
驚いた顔を浮かべるアルファ。
アルファ「トイレじゃなくて洞窟に行ってたの!?」
ベータ、アルファを問い詰めるような目で見ている。
アルファ「……仙人が嘘をついてるのよ」
ベータ、首を左右に振る。
ベータ「オレの能力を使って確かめたから嘘じゃない」
アルファ「っ……」
ベータ「それに、わざとオレの記憶を消したらしいな」
アルファ「(顔を歪めて)……あのジジイ」
ベータ「オレの能力を使って無理矢理に話させたんだ。仙人は悪くない」
アルファ「……」
ベータ「そんな大事なことを嘘つくなんて……」
ベータ、不信感を募らせたような表情でアルファを見ている。
アルファ「……しょうがなかったのよ! 絶対に協力してもらわなきゃいけなかったし!」
ベータ「もし捕まって、人から罵られながら殺されるなんてごめんだ」
アルファ「この世界の人たちが地獄に落ちるのを見過ごすの!?」
ベータ「……勝手に君に転生させられたんだ。オレには関係ない」
アルファ「あなたの力が必要なの! あなたには世界中の生物を救う力があるの!」
ベータ「戦いとかになって痛い思いをするのは嫌だ」
アルファ「あなたの能力は無敵よ。痛い思いなんてしないわ」
ベータ「無敵じゃない! 念じても5分経つ前に殺されたらアウトだろ!?」
アルファを睨んでいるベータ。
ベータ「とにかくオレはやらない!」
涙目になって体を震わせるアルファ。
アルファ「……なんで、あんたみたいな奴が転生しちゃったのよ」
ベータ「そんなのオレが聞きたい」
アルファ「もういい! 無理でも私一人でやるから! 好きなように生きれば!? バカ!」
秘宝のある建物に向かって走っていくアルファ。
ベータ、アルファの後ろ姿を見つめる。
〇秘宝のある建物の裏庭(昼)
裏口の前に衛兵が一人立っている。裏庭に接した道を歩いている老女の姿。
建物の角に隠れているアルファ、老女に向かって石を投げる。
老女の頭に石が当たる。
老女「(痛くて)ぎゃあっ!」
地面に倒れる老女。
衛兵A「大丈夫ですか!?」
と、裏口から離れて老女に駆け寄っていく。
その隙に裏口から秘宝のある建物内に入るアルファ。
〇秘宝のある建物内(昼)
早足で奥へと進んでいくアルファ。
前方の角から2名の衛兵が現れる。
アルファ「!」
衛兵B「貴様! 何者だ!?」
と、武器を構える。
アルファ、立ち止まって両手をあげる。
アルファ「村長の愛人よ。私を傷つければ、あなたたちは村にいられなくなるわ」
衛兵B「村長は独り身だぞ?」
アルファ「……間違えた。村長の恋人よ」
衛兵B「出まかせを」
衛兵C「誰であっても、ここに許可なく入れば第二級の罪だぞ!」
衛兵B「念のため村長に報告してくれ。あなたの恋人を名乗る女が許可なく侵入したとな」
衛兵C「わかった。その女を牢に入れといてくれ」
アルファ「……」
〇村(昼)
秘宝のある建物の表口を見つめるベータ。
アルファの姿が思い浮かぶ。
アルファのセリフ「この世界の人たちが地獄に落ちるのを見過ごすの!?」
ベータ(M)「……まるでオレが滅茶苦茶ひどい奴みたいだ」
アルファのセリフ「あなたの力が必要なの! あなたには世界中の生物を救う力があるの!」
ベータ(M)「最悪なことに、オレはとんでもない力をもってしまった……」
目を固く瞑るベータ。涙目で震えるアルファの姿が思い浮かぶ。
秘宝のある建物の中から衛兵Cが出てくる。
衛兵C「間抜けな侵入者を1名拘束中だ。今から村長に報告しにいく」
と、表口に立っている2人の衛兵に声をかける。
ベータ「!」
村の道を歩いていく衛兵C。
衛兵C「みんな、聞いてくれよ。間抜けな女が許可なく侵入して牢屋に入れられたんだ」
と、村人たちに大きな声で話しかけながら歩く。
ベータ「(溜息をついて)……くそっ」
立ち上がったベータ、表口に立つ衛兵を見つめる。
ベータ(M)「眠れ!」
〇秘宝のある建物の表口(昼)
眠っている2人の衛兵を秘宝のある建物の中に引きずるベータ。
ベータ(M)「外で眠ってたら目立つからな」
ベータ「……今回だけは助けてやるか」
〇秘宝のある建物内(昼)
一人で慎重に奥へと進むベータ。つきあたりの壁が見える。
ベータ(M)「アルファの話が本当なら、残る衛兵は7人」
緊張した表情を浮かべて進むベータ。
後方のつきあたりから話し声が聞こえてくる。
ベータ(M)「やばい!」
と、近くの一室に入る。
〇秘宝のある建物・休憩室(昼)
誰もいない部屋を見回すベータ。
ベータ、物置へ隠れる。
ベータ「(祈るように小声で)頼むから、入って来るなよ」
休憩室に入ってくる衛兵たち。
ベータ(M)「(焦った表情で)入ってくんのかよ!」
衛兵D「侵入者の女、可愛かったな」
衛兵E「村長の恋人ってのが嘘だったらどうする?」
衛兵F「口説くのか?」
笑っている衛兵たち。
物置の隙間から衛兵たちを見るベータ。
ベータ(M)「眠れ!」
〇秘宝のある建物内・牢がある部屋(昼)
手をロープで縛られたアルファ、衛兵Bに連れてこられる。
衛兵B「入れ」
牢の中に入るアルファ。
〇秘宝のある建物・休憩室(昼)
談笑している衛兵たち。
ベータ(M)「まだ時間にならないのかよ!? タイムラグが長いのは最悪の弱点だ!」
物置の近くに来る衛兵D。
ベータ「(焦った表情で)!」
衛兵D、別の場所に移動する。
ベータ(M)「……やっぱり能力発動までに5分かかるのは長すぎる!」
物置を開ける衛兵E。
ベータ「!?」
衛兵E「(ベータを見て驚く)なんだおまえ!?」
談笑している衛兵たち一斉に物置を見る。
両手をあげているベータ。
ベータ「(震えながら)……あ、そ、村長の隠し子です」
〇秘宝のある建物・牢がある部屋(昼)
アルファ、牢の外にいる衛兵Bを見つめている。
アルファ「ねえ、私はあなたの秘密を知ってるわ。ばらされたくなければ、私の言う通りにした方がいいわよ?」
衛兵B「何の秘密だ? 言ってみろ」
アルファ「あなたの浮気」
衛兵B「! 出まかせを」
アルファ「今夜7時に愛人のところに行くんでしょ?」
衛兵B「!? 貴様……なぜそれを」
アルファ「この牢を開けて私の言うことを聞いてくれれば、秘密にしてあげるわよ?」
衛兵B「……ふん、罪人の言葉など誰も信じん」
立ち上がった衛兵B、牢の扉を開ける。
衛兵B「(戸惑った表情で)なんだ?」
アルファ「秘宝のところまで護衛してほしいなー」
と、牢の中から出る。
衛兵B、地面に倒れる。
アルファ「え?」
牢のある部屋に入ってくるベータ。
ベータ「彼が牢屋を開けたのは君の脅しに屈したからじゃない、オレが念じたからだ」
アルファ「……ベータ」
ベータ「今回だけは協力する」
と、アルファの手を縛っているローブをほどく。
アルファ「ありがとう」
〇秘宝のある建物内(昼)
もどってきた衛兵C、眠っている2人の衛兵を強く揺さぶる。
衛兵C「何があった!? 起きろ!」
目を覚ます2人の衛兵。
〇秘宝のある建物内の階段(昼)
地下に続く階段をおりるアルファとベータ。
アルファ「衛兵は何人排除した?」
ベータ「8人」
アルファ「残り2人のうち1人は裏口に立っている衛兵ね」
ベータ「あと1人は外に行ったよ」
アルファ「じゃあ、楽勝ね」
〇秘宝のある建物・休憩室(昼)
眠っている衛兵たちを揺さぶって起こしていく衛兵C。
衛兵D「村長の隠し子だとほざく侵入者が物置の中にいたんだよ!」
衛兵E「引きずり出そうと思ったんだが、そこからの記憶がない」
衛兵C「村長は恋人なんていないってよ。どうとでも処分しろと言われたぞ」
衛兵F「じゃあ、あの二人は共犯だな!」
衛兵C「仲間を助けに行ってるはずだ。急いで牢に向かうぞ」
〇秘宝のある部屋(昼)
部屋に入るアルファとベータ。
小さな宝石が一つ置いてある。
アルファ「あれが秘宝よ」
と、宝石のもとに近づいていく。
ベータ「……」
階段をおりる複数人の足音が聞こえる。
アルファ・ベータ「(振り返って)!?」
衛兵Cの声「秘宝を狙ってるぞ! 第一級の罪だ!」
衛兵Bの声「妖術を使う! 見つけ次第殺せ!」
アルファ「ちょっと、どういうこと!? かなりの人数が来てるみたいだけど!」
ベータ「外に行った衛兵がもどってきて、眠らせた兵士たちを起こしたんだ……」
アルファ「眠らせた!? なんで息の根を止めてないの!?」
ベータ「人を殺すのは抵抗があったし」
アルファ「そういう良心は捨てろって言ったでしょ! どうすんのよ!? 念じても5分は必要よ!?」
部屋に入ってくる9人の衛兵。
衛兵B「いたぞ! 妖術を使わせる前に一斉にかかれ!」
アルファ「わ、私の話を聞かないと浮気をばらすわよ!」
衛兵B「ぶっ殺せ!」
襲いかかる衛兵たち。
アルファ「(必死な表情で)ちょっと! 私たちの正体を教えるから」
ベータ「動くな!」
動きを止める8人の衛兵。
アルファ「やめ……?」
衛兵C「え?」
と、他の衛兵たちが動きを止めたのを見て、立ち止まる。
ベータ「その兵士をおさえてロープで縛れ」
と、衛兵Cを指差す。
8人の衛兵、衛兵Cを捕まえようと飛びかかる。
衛兵C「!?」
衛兵D「(驚いた表情で)なんだよ、これ!?」
と、衛兵Cの体をおさえる。
衛兵C「何するんだ! 放せ!」
衛兵B「(困惑した表情で)体が勝手に!」
と、衛兵Cを動けないようにおさえている。
衛兵E「(おびえながら)妖術だ!」
とロープで衛兵Cを縛っていく。
アルファ「……どういうこと?」
ベータ「『眠れ』って念じたあとに、『目が覚めたらオレの指示には従え』って念じてたから」
アルファ「……そういうことね。驚かせないでよ、死ぬかと思ったじゃない」
衛兵8人、衛兵Cをロープで縛り上げる。
ベータ「よし、全員眠れ」
衛兵8人、地面に倒れて眠る。
アルファ、秘宝のもとに歩いていく。
衛兵C「やめろ! 秘宝を奪えば、村に災いが!」
アルファ「そんなことどうでもいいわ」
ベータ「……」
宝石を手に取るアルファ。
アルファ「ベータ、そいつらを全員殺して。私たちが秘宝を奪った情報を報告されたら、私とあなたは指名手配されることになる」
ベータ「殺す必要はないだろ? 今日の記憶を忘れさせるとかでもいいはずだ」
アルファ「……まあ、それでもいいわ。念じておいて」
〇村の出入口(昼)
門を出て向き合うアルファとベータ。
アルファ「ベータ、ありがとう。じゃあ、私は次の秘宝の場所に行くから」
ベータに背を向けて去っていくアルファ。
ベータ「(アルファを見て)……」
弱弱しく見えるアルファの歩いていく後ろ姿。
ベータ「……オレも秘宝を集める旅をするよ!」
アルファ、立ち止まる。
ベータ「この世界の仕組みを見過ごしたままじゃ、晴れやかな気持ちで生きていけそうにないし」
振り返ったアルファ、涙ぐんだ表情をしている。
アルファ「ベータ、ありがとう!」
ベータ、アルファのもとに歩いていく。
アルファ「あ、私、トイレに行きたくなっちゃった。ちょっと、ここで待ってて」
村の出入口の方角へ走っていくアルファ。
ベータ、空を見上げる。
曇り空から雨粒が一滴、ベータの顔に落ちる。
〇洞窟(昼)
一人で座っている仙人。
仙人「……」
仙人の背後に近づいていくアルファの姿。
〇村の出入口近くの道(昼)
木の下で雨宿りしているベータ。
ベータ(N)「なにか不吉な雨のような気がした」
雨傘をさして走って来るアルファ。
ベータ「アルファ、トイレ長すぎ。どれだけ気張ってたんだ?」
アルファ「(笑って)もう、女の子にそういうこと言わないの! 傘を探してたのよ」
と、ベータに雨傘を渡す。
〇崖下(昼)
仙人が仰向けで地面に倒れており、目をカッと開けて絶命している。
胸には小刀が突き刺さっている。
雷が仙人を照らす。
〇道(昼)
雨傘を差して歩いているアルファとベータ。
ベータ「次の秘宝の場所はどんなところなんだろうな?」
アルファ「教えてほしい? 行ったことあるわ」
ベータ「どんな場所なんだ?」
アルファ「人を殺さなきゃ、秘宝を奪えない場所よ」
ベータ「!?」
(続く)
向き合うアルファとベータ。
アルファ「……なにが嫌なの?」
ベータ「捕まったら死罪なんだろ?」
アルファ「でも、私たちは死ねば天国に行ける」
ベータ「それ嘘だろ」
アルファ「……嘘じゃないわ」
ベータ「仙人に本当の話を聞いてきた」
アルファ「!」
ベータ「オレたちは死んだら無になるんだな」
驚いた顔を浮かべるアルファ。
アルファ「トイレじゃなくて洞窟に行ってたの!?」
ベータ、アルファを問い詰めるような目で見ている。
アルファ「……仙人が嘘をついてるのよ」
ベータ、首を左右に振る。
ベータ「オレの能力を使って確かめたから嘘じゃない」
アルファ「っ……」
ベータ「それに、わざとオレの記憶を消したらしいな」
アルファ「(顔を歪めて)……あのジジイ」
ベータ「オレの能力を使って無理矢理に話させたんだ。仙人は悪くない」
アルファ「……」
ベータ「そんな大事なことを嘘つくなんて……」
ベータ、不信感を募らせたような表情でアルファを見ている。
アルファ「……しょうがなかったのよ! 絶対に協力してもらわなきゃいけなかったし!」
ベータ「もし捕まって、人から罵られながら殺されるなんてごめんだ」
アルファ「この世界の人たちが地獄に落ちるのを見過ごすの!?」
ベータ「……勝手に君に転生させられたんだ。オレには関係ない」
アルファ「あなたの力が必要なの! あなたには世界中の生物を救う力があるの!」
ベータ「戦いとかになって痛い思いをするのは嫌だ」
アルファ「あなたの能力は無敵よ。痛い思いなんてしないわ」
ベータ「無敵じゃない! 念じても5分経つ前に殺されたらアウトだろ!?」
アルファを睨んでいるベータ。
ベータ「とにかくオレはやらない!」
涙目になって体を震わせるアルファ。
アルファ「……なんで、あんたみたいな奴が転生しちゃったのよ」
ベータ「そんなのオレが聞きたい」
アルファ「もういい! 無理でも私一人でやるから! 好きなように生きれば!? バカ!」
秘宝のある建物に向かって走っていくアルファ。
ベータ、アルファの後ろ姿を見つめる。
〇秘宝のある建物の裏庭(昼)
裏口の前に衛兵が一人立っている。裏庭に接した道を歩いている老女の姿。
建物の角に隠れているアルファ、老女に向かって石を投げる。
老女の頭に石が当たる。
老女「(痛くて)ぎゃあっ!」
地面に倒れる老女。
衛兵A「大丈夫ですか!?」
と、裏口から離れて老女に駆け寄っていく。
その隙に裏口から秘宝のある建物内に入るアルファ。
〇秘宝のある建物内(昼)
早足で奥へと進んでいくアルファ。
前方の角から2名の衛兵が現れる。
アルファ「!」
衛兵B「貴様! 何者だ!?」
と、武器を構える。
アルファ、立ち止まって両手をあげる。
アルファ「村長の愛人よ。私を傷つければ、あなたたちは村にいられなくなるわ」
衛兵B「村長は独り身だぞ?」
アルファ「……間違えた。村長の恋人よ」
衛兵B「出まかせを」
衛兵C「誰であっても、ここに許可なく入れば第二級の罪だぞ!」
衛兵B「念のため村長に報告してくれ。あなたの恋人を名乗る女が許可なく侵入したとな」
衛兵C「わかった。その女を牢に入れといてくれ」
アルファ「……」
〇村(昼)
秘宝のある建物の表口を見つめるベータ。
アルファの姿が思い浮かぶ。
アルファのセリフ「この世界の人たちが地獄に落ちるのを見過ごすの!?」
ベータ(M)「……まるでオレが滅茶苦茶ひどい奴みたいだ」
アルファのセリフ「あなたの力が必要なの! あなたには世界中の生物を救う力があるの!」
ベータ(M)「最悪なことに、オレはとんでもない力をもってしまった……」
目を固く瞑るベータ。涙目で震えるアルファの姿が思い浮かぶ。
秘宝のある建物の中から衛兵Cが出てくる。
衛兵C「間抜けな侵入者を1名拘束中だ。今から村長に報告しにいく」
と、表口に立っている2人の衛兵に声をかける。
ベータ「!」
村の道を歩いていく衛兵C。
衛兵C「みんな、聞いてくれよ。間抜けな女が許可なく侵入して牢屋に入れられたんだ」
と、村人たちに大きな声で話しかけながら歩く。
ベータ「(溜息をついて)……くそっ」
立ち上がったベータ、表口に立つ衛兵を見つめる。
ベータ(M)「眠れ!」
〇秘宝のある建物の表口(昼)
眠っている2人の衛兵を秘宝のある建物の中に引きずるベータ。
ベータ(M)「外で眠ってたら目立つからな」
ベータ「……今回だけは助けてやるか」
〇秘宝のある建物内(昼)
一人で慎重に奥へと進むベータ。つきあたりの壁が見える。
ベータ(M)「アルファの話が本当なら、残る衛兵は7人」
緊張した表情を浮かべて進むベータ。
後方のつきあたりから話し声が聞こえてくる。
ベータ(M)「やばい!」
と、近くの一室に入る。
〇秘宝のある建物・休憩室(昼)
誰もいない部屋を見回すベータ。
ベータ、物置へ隠れる。
ベータ「(祈るように小声で)頼むから、入って来るなよ」
休憩室に入ってくる衛兵たち。
ベータ(M)「(焦った表情で)入ってくんのかよ!」
衛兵D「侵入者の女、可愛かったな」
衛兵E「村長の恋人ってのが嘘だったらどうする?」
衛兵F「口説くのか?」
笑っている衛兵たち。
物置の隙間から衛兵たちを見るベータ。
ベータ(M)「眠れ!」
〇秘宝のある建物内・牢がある部屋(昼)
手をロープで縛られたアルファ、衛兵Bに連れてこられる。
衛兵B「入れ」
牢の中に入るアルファ。
〇秘宝のある建物・休憩室(昼)
談笑している衛兵たち。
ベータ(M)「まだ時間にならないのかよ!? タイムラグが長いのは最悪の弱点だ!」
物置の近くに来る衛兵D。
ベータ「(焦った表情で)!」
衛兵D、別の場所に移動する。
ベータ(M)「……やっぱり能力発動までに5分かかるのは長すぎる!」
物置を開ける衛兵E。
ベータ「!?」
衛兵E「(ベータを見て驚く)なんだおまえ!?」
談笑している衛兵たち一斉に物置を見る。
両手をあげているベータ。
ベータ「(震えながら)……あ、そ、村長の隠し子です」
〇秘宝のある建物・牢がある部屋(昼)
アルファ、牢の外にいる衛兵Bを見つめている。
アルファ「ねえ、私はあなたの秘密を知ってるわ。ばらされたくなければ、私の言う通りにした方がいいわよ?」
衛兵B「何の秘密だ? 言ってみろ」
アルファ「あなたの浮気」
衛兵B「! 出まかせを」
アルファ「今夜7時に愛人のところに行くんでしょ?」
衛兵B「!? 貴様……なぜそれを」
アルファ「この牢を開けて私の言うことを聞いてくれれば、秘密にしてあげるわよ?」
衛兵B「……ふん、罪人の言葉など誰も信じん」
立ち上がった衛兵B、牢の扉を開ける。
衛兵B「(戸惑った表情で)なんだ?」
アルファ「秘宝のところまで護衛してほしいなー」
と、牢の中から出る。
衛兵B、地面に倒れる。
アルファ「え?」
牢のある部屋に入ってくるベータ。
ベータ「彼が牢屋を開けたのは君の脅しに屈したからじゃない、オレが念じたからだ」
アルファ「……ベータ」
ベータ「今回だけは協力する」
と、アルファの手を縛っているローブをほどく。
アルファ「ありがとう」
〇秘宝のある建物内(昼)
もどってきた衛兵C、眠っている2人の衛兵を強く揺さぶる。
衛兵C「何があった!? 起きろ!」
目を覚ます2人の衛兵。
〇秘宝のある建物内の階段(昼)
地下に続く階段をおりるアルファとベータ。
アルファ「衛兵は何人排除した?」
ベータ「8人」
アルファ「残り2人のうち1人は裏口に立っている衛兵ね」
ベータ「あと1人は外に行ったよ」
アルファ「じゃあ、楽勝ね」
〇秘宝のある建物・休憩室(昼)
眠っている衛兵たちを揺さぶって起こしていく衛兵C。
衛兵D「村長の隠し子だとほざく侵入者が物置の中にいたんだよ!」
衛兵E「引きずり出そうと思ったんだが、そこからの記憶がない」
衛兵C「村長は恋人なんていないってよ。どうとでも処分しろと言われたぞ」
衛兵F「じゃあ、あの二人は共犯だな!」
衛兵C「仲間を助けに行ってるはずだ。急いで牢に向かうぞ」
〇秘宝のある部屋(昼)
部屋に入るアルファとベータ。
小さな宝石が一つ置いてある。
アルファ「あれが秘宝よ」
と、宝石のもとに近づいていく。
ベータ「……」
階段をおりる複数人の足音が聞こえる。
アルファ・ベータ「(振り返って)!?」
衛兵Cの声「秘宝を狙ってるぞ! 第一級の罪だ!」
衛兵Bの声「妖術を使う! 見つけ次第殺せ!」
アルファ「ちょっと、どういうこと!? かなりの人数が来てるみたいだけど!」
ベータ「外に行った衛兵がもどってきて、眠らせた兵士たちを起こしたんだ……」
アルファ「眠らせた!? なんで息の根を止めてないの!?」
ベータ「人を殺すのは抵抗があったし」
アルファ「そういう良心は捨てろって言ったでしょ! どうすんのよ!? 念じても5分は必要よ!?」
部屋に入ってくる9人の衛兵。
衛兵B「いたぞ! 妖術を使わせる前に一斉にかかれ!」
アルファ「わ、私の話を聞かないと浮気をばらすわよ!」
衛兵B「ぶっ殺せ!」
襲いかかる衛兵たち。
アルファ「(必死な表情で)ちょっと! 私たちの正体を教えるから」
ベータ「動くな!」
動きを止める8人の衛兵。
アルファ「やめ……?」
衛兵C「え?」
と、他の衛兵たちが動きを止めたのを見て、立ち止まる。
ベータ「その兵士をおさえてロープで縛れ」
と、衛兵Cを指差す。
8人の衛兵、衛兵Cを捕まえようと飛びかかる。
衛兵C「!?」
衛兵D「(驚いた表情で)なんだよ、これ!?」
と、衛兵Cの体をおさえる。
衛兵C「何するんだ! 放せ!」
衛兵B「(困惑した表情で)体が勝手に!」
と、衛兵Cを動けないようにおさえている。
衛兵E「(おびえながら)妖術だ!」
とロープで衛兵Cを縛っていく。
アルファ「……どういうこと?」
ベータ「『眠れ』って念じたあとに、『目が覚めたらオレの指示には従え』って念じてたから」
アルファ「……そういうことね。驚かせないでよ、死ぬかと思ったじゃない」
衛兵8人、衛兵Cをロープで縛り上げる。
ベータ「よし、全員眠れ」
衛兵8人、地面に倒れて眠る。
アルファ、秘宝のもとに歩いていく。
衛兵C「やめろ! 秘宝を奪えば、村に災いが!」
アルファ「そんなことどうでもいいわ」
ベータ「……」
宝石を手に取るアルファ。
アルファ「ベータ、そいつらを全員殺して。私たちが秘宝を奪った情報を報告されたら、私とあなたは指名手配されることになる」
ベータ「殺す必要はないだろ? 今日の記憶を忘れさせるとかでもいいはずだ」
アルファ「……まあ、それでもいいわ。念じておいて」
〇村の出入口(昼)
門を出て向き合うアルファとベータ。
アルファ「ベータ、ありがとう。じゃあ、私は次の秘宝の場所に行くから」
ベータに背を向けて去っていくアルファ。
ベータ「(アルファを見て)……」
弱弱しく見えるアルファの歩いていく後ろ姿。
ベータ「……オレも秘宝を集める旅をするよ!」
アルファ、立ち止まる。
ベータ「この世界の仕組みを見過ごしたままじゃ、晴れやかな気持ちで生きていけそうにないし」
振り返ったアルファ、涙ぐんだ表情をしている。
アルファ「ベータ、ありがとう!」
ベータ、アルファのもとに歩いていく。
アルファ「あ、私、トイレに行きたくなっちゃった。ちょっと、ここで待ってて」
村の出入口の方角へ走っていくアルファ。
ベータ、空を見上げる。
曇り空から雨粒が一滴、ベータの顔に落ちる。
〇洞窟(昼)
一人で座っている仙人。
仙人「……」
仙人の背後に近づいていくアルファの姿。
〇村の出入口近くの道(昼)
木の下で雨宿りしているベータ。
ベータ(N)「なにか不吉な雨のような気がした」
雨傘をさして走って来るアルファ。
ベータ「アルファ、トイレ長すぎ。どれだけ気張ってたんだ?」
アルファ「(笑って)もう、女の子にそういうこと言わないの! 傘を探してたのよ」
と、ベータに雨傘を渡す。
〇崖下(昼)
仙人が仰向けで地面に倒れており、目をカッと開けて絶命している。
胸には小刀が突き刺さっている。
雷が仙人を照らす。
〇道(昼)
雨傘を差して歩いているアルファとベータ。
ベータ「次の秘宝の場所はどんなところなんだろうな?」
アルファ「教えてほしい? 行ったことあるわ」
ベータ「どんな場所なんだ?」
アルファ「人を殺さなきゃ、秘宝を奪えない場所よ」
ベータ「!?」
(続く)