異世界最悪の大罪人

〇村(昼)

向き合うアルファとベータ。

アルファ「……なにが嫌なの?」

ベータ「捕まったら死罪なんだろ?」

アルファ「でも、私たちは死ねば天国に行ける」

ベータ「それ嘘だろ」

アルファ「……嘘じゃないわ」

ベータ「仙人に本当の話を聞いてきた」

アルファ「!」

ベータ「オレたちは死んだら無になるんだな」

驚いた顔を浮かべるアルファ。

アルファ「トイレじゃなくて洞窟に行ってたの!?」

ベータ、アルファを問い詰めるような目で見ている。

アルファ「……仙人が嘘をついてるのよ」

ベータ、首を左右に振る。

ベータ「オレの能力を使って確かめたから嘘じゃない」

アルファ「っ……」

ベータ「それに、わざとオレの記憶を消したらしいな」

アルファ「(顔を歪めて)……あのジジイ」

ベータ「オレの能力を使って無理矢理に話させたんだ。仙人は悪くない」

アルファ「……」

ベータ「そんな大事なことを嘘つくなんて……」

ベータ、不信感を募らせたような表情でアルファを見ている。

アルファ「……しょうがなかったのよ! 絶対に協力してもらわなきゃいけなかったし!」

ベータ「もし捕まって、人から罵られながら殺されるなんてごめんだ」

アルファ「この世界の人たちが地獄に落ちるのを見過ごすの!?」

ベータ「……勝手に君に転生させられたんだ。オレには関係ない」

アルファ「あなたの力が必要なの! あなたには世界中の生物を救う力があるの!」

ベータ「戦いとかになって痛い思いをするのは嫌だ」

アルファ「あなたの能力は無敵よ。痛い思いなんてしないわ」

ベータ「無敵じゃない! 念じても5分経つ前に殺されたらアウトだろ!?」

アルファを睨んでいるベータ。

ベータ「とにかくオレはやらない!」

涙目になって体を震わせるアルファ。

アルファ「……なんで、あんたみたいな奴が転生しちゃったのよ」

ベータ「そんなのオレが聞きたい」

アルファ「もういい! 無理でも私一人でやるから! 好きなように生きれば!? バカ!」

秘宝のある建物に向かって走っていくアルファ。

ベータ、アルファの後ろ姿を見つめる。

〇秘宝のある建物の裏庭(昼)

裏口の前に衛兵が一人立っている。裏庭に接した道を歩いている老女の姿。

建物の角に隠れているアルファ、老女に向かって石を投げる。

老女の頭に石が当たる。

老女「(痛くて)ぎゃあっ!」

地面に倒れる老女。

衛兵A「大丈夫ですか!?」
と、裏口から離れて老女に駆け寄っていく。

その隙に裏口から秘宝のある建物内に入るアルファ。

〇秘宝のある建物内(昼)

早足で奥へと進んでいくアルファ。

前方の角から2名の衛兵が現れる。

アルファ「!」

衛兵B「貴様! 何者だ!?」
と、武器を構える。

アルファ、立ち止まって両手をあげる。

アルファ「村長の愛人よ。私を傷つければ、あなたたちは村にいられなくなるわ」

衛兵B「村長は独り身だぞ?」

アルファ「……間違えた。村長の恋人よ」

衛兵B「出まかせを」

衛兵C「誰であっても、ここに許可なく入れば第二級の罪だぞ!」

衛兵B「念のため村長に報告してくれ。あなたの恋人を名乗る女が許可なく侵入したとな」

衛兵C「わかった。その女を牢に入れといてくれ」

アルファ「……」

〇村(昼)

秘宝のある建物の表口を見つめるベータ。

アルファの姿が思い浮かぶ。

アルファのセリフ「この世界の人たちが地獄に落ちるのを見過ごすの!?」

ベータ(M)「……まるでオレが滅茶苦茶ひどい奴みたいだ」

アルファのセリフ「あなたの力が必要なの! あなたには世界中の生物を救う力があるの!」

ベータ(M)「最悪なことに、オレはとんでもない力をもってしまった……」

目を固く瞑るベータ。涙目で震えるアルファの姿が思い浮かぶ。

秘宝のある建物の中から衛兵Cが出てくる。

衛兵C「間抜けな侵入者を1名拘束中だ。今から村長に報告しにいく」
と、表口に立っている2人の衛兵に声をかける。

ベータ「!」

村の道を歩いていく衛兵C。

衛兵C「みんな、聞いてくれよ。間抜けな女が許可なく侵入して牢屋に入れられたんだ」
と、村人たちに大きな声で話しかけながら歩く。

ベータ「(溜息をついて)……くそっ」

立ち上がったベータ、表口に立つ衛兵を見つめる。

ベータ(M)「眠れ!」

〇秘宝のある建物の表口(昼)

眠っている2人の衛兵を秘宝のある建物の中に引きずるベータ。

ベータ(M)「外で眠ってたら目立つからな」

ベータ「……今回だけは助けてやるか」

〇秘宝のある建物内(昼)

一人で慎重に奥へと進むベータ。つきあたりの壁が見える。

ベータ(M)「アルファの話が本当なら、残る衛兵は7人」

緊張した表情を浮かべて進むベータ。

後方のつきあたりから話し声が聞こえてくる。

ベータ(M)「やばい!」
と、近くの一室に入る。

〇秘宝のある建物・休憩室(昼)

誰もいない部屋を見回すベータ。

ベータ、物置へ隠れる。

ベータ「(祈るように小声で)頼むから、入って来るなよ」

休憩室に入ってくる衛兵たち。

ベータ(M)「(焦った表情で)入ってくんのかよ!」

衛兵D「侵入者の女、可愛かったな」

衛兵E「村長の恋人ってのが嘘だったらどうする?」

衛兵F「口説くのか?」

笑っている衛兵たち。

物置の隙間から衛兵たちを見るベータ。

ベータ(M)「眠れ!」

〇秘宝のある建物内・牢がある部屋(昼)

手をロープで縛られたアルファ、衛兵Bに連れてこられる。

衛兵B「入れ」

牢の中に入るアルファ。

〇秘宝のある建物・休憩室(昼)

談笑している衛兵たち。

ベータ(M)「まだ時間にならないのかよ!? タイムラグが長いのは最悪の弱点だ!」

物置の近くに来る衛兵D。

ベータ「(焦った表情で)!」

衛兵D、別の場所に移動する。

ベータ(M)「……やっぱり能力発動までに5分かかるのは長すぎる!」

物置を開ける衛兵E。

ベータ「!?」

衛兵E「(ベータを見て驚く)なんだおまえ!?」

談笑している衛兵たち一斉に物置を見る。

両手をあげているベータ。

ベータ「(震えながら)……あ、そ、村長の隠し子です」


〇秘宝のある建物・牢がある部屋(昼)

アルファ、牢の外にいる衛兵Bを見つめている。

アルファ「ねえ、私はあなたの秘密を知ってるわ。ばらされたくなければ、私の言う通りにした方がいいわよ?」

衛兵B「何の秘密だ? 言ってみろ」

アルファ「あなたの浮気」

衛兵B「! 出まかせを」

アルファ「今夜7時に愛人のところに行くんでしょ?」

衛兵B「!? 貴様……なぜそれを」

アルファ「この牢を開けて私の言うことを聞いてくれれば、秘密にしてあげるわよ?」

衛兵B「……ふん、罪人の言葉など誰も信じん」

立ち上がった衛兵B、牢の扉を開ける。

衛兵B「(戸惑った表情で)なんだ?」

アルファ「秘宝のところまで護衛してほしいなー」
と、牢の中から出る。

衛兵B、地面に倒れる。

アルファ「え?」

牢のある部屋に入ってくるベータ。

ベータ「彼が牢屋を開けたのは君の脅しに屈したからじゃない、オレが念じたからだ」

アルファ「……ベータ」

ベータ「今回だけは協力する」
と、アルファの手を縛っているローブをほどく。

アルファ「ありがとう」

〇秘宝のある建物内(昼)

もどってきた衛兵C、眠っている2人の衛兵を強く揺さぶる。

衛兵C「何があった!? 起きろ!」

目を覚ます2人の衛兵。

〇秘宝のある建物内の階段(昼)

地下に続く階段をおりるアルファとベータ。

アルファ「衛兵は何人排除した?」

ベータ「8人」

アルファ「残り2人のうち1人は裏口に立っている衛兵ね」

ベータ「あと1人は外に行ったよ」

アルファ「じゃあ、楽勝ね」

〇秘宝のある建物・休憩室(昼)

眠っている衛兵たちを揺さぶって起こしていく衛兵C。

衛兵D「村長の隠し子だとほざく侵入者が物置の中にいたんだよ!」

衛兵E「引きずり出そうと思ったんだが、そこからの記憶がない」

衛兵C「村長は恋人なんていないってよ。どうとでも処分しろと言われたぞ」

衛兵F「じゃあ、あの二人は共犯だな!」

衛兵C「仲間を助けに行ってるはずだ。急いで牢に向かうぞ」

〇秘宝のある部屋(昼)

部屋に入るアルファとベータ。

小さな宝石が一つ置いてある。

アルファ「あれが秘宝よ」
と、宝石のもとに近づいていく。

ベータ「……」

階段をおりる複数人の足音が聞こえる。

アルファ・ベータ「(振り返って)!?」

衛兵Cの声「秘宝を狙ってるぞ! 第一級の罪だ!」

衛兵Bの声「妖術を使う! 見つけ次第殺せ!」

アルファ「ちょっと、どういうこと!? かなりの人数が来てるみたいだけど!」

ベータ「外に行った衛兵がもどってきて、眠らせた兵士たちを起こしたんだ……」

アルファ「眠らせた!? なんで息の根を止めてないの!?」

ベータ「人を殺すのは抵抗があったし」

アルファ「そういう良心は捨てろって言ったでしょ! どうすんのよ!? 念じても5分は必要よ!?」

部屋に入ってくる9人の衛兵。

衛兵B「いたぞ! 妖術を使わせる前に一斉にかかれ!」

アルファ「わ、私の話を聞かないと浮気をばらすわよ!」

衛兵B「ぶっ殺せ!」

襲いかかる衛兵たち。

アルファ「(必死な表情で)ちょっと! 私たちの正体を教えるから」

ベータ「動くな!」

動きを止める8人の衛兵。

アルファ「やめ……?」

衛兵C「え?」
と、他の衛兵たちが動きを止めたのを見て、立ち止まる。

ベータ「その兵士をおさえてロープで縛れ」
と、衛兵Cを指差す。

8人の衛兵、衛兵Cを捕まえようと飛びかかる。

衛兵C「!?」

衛兵D「(驚いた表情で)なんだよ、これ!?」
と、衛兵Cの体をおさえる。

衛兵C「何するんだ! 放せ!」

衛兵B「(困惑した表情で)体が勝手に!」
と、衛兵Cを動けないようにおさえている。

衛兵E「(おびえながら)妖術だ!」
とロープで衛兵Cを縛っていく。

アルファ「……どういうこと?」

ベータ「『眠れ』って念じたあとに、『目が覚めたらオレの指示には従え』って念じてたから」

アルファ「……そういうことね。驚かせないでよ、死ぬかと思ったじゃない」

衛兵8人、衛兵Cをロープで縛り上げる。

ベータ「よし、全員眠れ」

衛兵8人、地面に倒れて眠る。

アルファ、秘宝のもとに歩いていく。

衛兵C「やめろ! 秘宝を奪えば、村に災いが!」

アルファ「そんなことどうでもいいわ」

ベータ「……」

宝石を手に取るアルファ。

アルファ「ベータ、そいつらを全員殺して。私たちが秘宝を奪った情報を報告されたら、私とあなたは指名手配されることになる」

ベータ「殺す必要はないだろ? 今日の記憶を忘れさせるとかでもいいはずだ」

アルファ「……まあ、それでもいいわ。念じておいて」

〇村の出入口(昼)

門を出て向き合うアルファとベータ。

アルファ「ベータ、ありがとう。じゃあ、私は次の秘宝の場所に行くから」

ベータに背を向けて去っていくアルファ。

ベータ「(アルファを見て)……」

弱弱しく見えるアルファの歩いていく後ろ姿。

ベータ「……オレも秘宝を集める旅をするよ!」

アルファ、立ち止まる。

ベータ「この世界の仕組みを見過ごしたままじゃ、晴れやかな気持ちで生きていけそうにないし」

振り返ったアルファ、涙ぐんだ表情をしている。

アルファ「ベータ、ありがとう!」

ベータ、アルファのもとに歩いていく。

アルファ「あ、私、トイレに行きたくなっちゃった。ちょっと、ここで待ってて」

村の出入口の方角へ走っていくアルファ。

ベータ、空を見上げる。

曇り空から雨粒が一滴、ベータの顔に落ちる。

〇洞窟(昼)

一人で座っている仙人。

仙人「……」

仙人の背後に近づいていくアルファの姿。

〇村の出入口近くの道(昼)

木の下で雨宿りしているベータ。

ベータ(N)「なにか不吉な雨のような気がした」

雨傘をさして走って来るアルファ。

ベータ「アルファ、トイレ長すぎ。どれだけ気張ってたんだ?」

アルファ「(笑って)もう、女の子にそういうこと言わないの! 傘を探してたのよ」
と、ベータに雨傘を渡す。

〇崖下(昼)

仙人が仰向けで地面に倒れており、目をカッと開けて絶命している。

胸には小刀が突き刺さっている。

雷が仙人を照らす。

〇道(昼)

雨傘を差して歩いているアルファとベータ。

ベータ「次の秘宝の場所はどんなところなんだろうな?」

アルファ「教えてほしい? 行ったことあるわ」

ベータ「どんな場所なんだ?」

アルファ「人を殺さなきゃ、秘宝を奪えない場所よ」

ベータ「!?」

(続く)