〇森の中(朝)
一人で地面に手をかざす美少女の姿。
アルファが手をかざしている地面は光っている。
アルファ「転生開始……個人に関する記憶は消滅させて」
美青年の姿をした男が光り輝きながらアルファの前に出現する。
男「……?」
アルファ「ようこそ、異世界へ」
男「異世界?」
アルファ「私があなたを地球から転生させたの。自分について何か思い出せる?」
男、思い出そうと額に手を当てる。
男「……何も思い出せない」
アルファ「残念だけど、転生技術の誤作動で個人に関する記憶は消えたみたいね」
男「なんでオレを転生させた?」
アルファ「異世界を滅ぼす手伝いをしてもらいたいから。全ての生物を救うために」
男「どういうことだ?」
アルファ「この世界に住む生物は死んだら地獄に行く仕組みになってるの。だけど、世界を滅ぼせば、その仕組みが変わって、全ての生物は天国に行けるようになるわ」
男「……天国と地獄」
アルファ「私のことは『アルファ』って呼んで。あなたのことは『ベータ』って呼ぶから」
男「ベータ?」
歩き始めるアルファ。混乱した表情を浮かべてついていくベータ。
アルファ「世界を滅ぼすためには、あなたの特殊能力が必要なの。転生の際に発現したはず」
前方に斧で薪を割っている一人の中年男性の姿。
アルファ「ちょうどいいわ、あの男を実験台に能力を試してみて。あなたの能力は、相手の姿を見て念じれば、相手が念じた通りになる力よ」
ベータ「……相手を思い通りにできる能力ってことか?」
アルファ「そう。最強でしょ? あなたは私が求めた最強の仲間」
ベータ「(困惑した表情で)」
草陰に隠れるアルファとベータ。
アルファ「たとえば、あの男に『死ね!』って念じてみて。5分後に死ぬから」
ベータ「なんで殺すんだよ? 『眠れ』とかでいいだろ?」
アルファ「なんでもいいわ。とにかく強く何か念じてみて」
前方の中年男性を見るベータ。
ベータ「眠れ!」
アルファ「声に出さなくてもいいわよ。5分後にあの男が念じた通りに眠るわ」
と、懐中時計を取り出して確認する。
ベータ「なんで5分後?」
アルファ「あなたの能力は発動するまで5分間のタイムラグがあるの」
ベータ「誰でも思い通りにできるのか?」
アルファ「私には効かない。あなたを転生させた私は主にあたるから」
ベータ「アルファの能力は転生させる力?」
アルファ「違うわ、転生は科学技術の力。私の能力は、相手を見れば心を読むことができる。ただし、あなたの心だけは読むことができない。転生者だからね」
ベータ「じゃあ、あの男が何を考えてるか読めるのか?」
薪を割る男性の姿をじっと見つめるアルファ。
アルファ「今のところ無心で薪を割ってるわね。もう少し待って」
しばらく男性を見つめるアルファ。
アルファ「……あー、ウンコしたくなってきた」
ベータ「え……トイレに行けば?」
アルファ「私じゃないわよ! あの男がそう思ったの!」
ベータ「ああ、なんだ」
中年男性、薪割りをやめて藪の中に入っていく。
アルファ「野グソしに行く気ね」
懐中時計で時間を確認するアルファ。
アルファ「追うわよ。もうすぐ5分だから、あなたの能力が発動するわ」
ベータ「でも、他人の排泄行為を覗くのは、人としてちょっと……」
アルファ「地球の一般的なモラルは覚えてるみたいだけど、そんなものは捨てて。でないと、これからの旅で絶対に心を病むわ。これは忠告よ」
ベータ「……なんだよ、それ」
〇藪の中(朝)
草木に隠れているアルファとベータ。
大便している中年男性。
アルファ「5分になる」
地面に倒れる男性。
ベータ「!」
アルファとベータ、男性に近寄る。いびきをかいて眠っている男性。
アルファ「大便してる最中に眠る人なんて初めて見たわ」
と、鼻をつまんでいる。
ベータ「起きてください」
と、男性の体を強く揺する。
男性、目を覚ます。
中年男性「ああ!」
と、驚いてズボンを腰まであげる。
アルファ「実験終了。行くわよ、ベータ」
アルファとベータ、立ち去っていく。
何が起きたかわからないという表情の男性。
〇森の中(朝)
アルファについていくベータ。
ベータ「地球でのオレって、どんな人間だった?」
アルファ「さあ? 私も知らない。転生者はランダムで選ばれるから」
ベータ「……これからどうするんだ?」
アルファ「世界を滅ぼすために必要な秘宝を全て集める。タイムリミットは1年。まず秘宝のありかを知るために仙人のいる洞窟へ行く。仙人は全てを見通すことができて、たいていの質問には答えられるっていう噂だから」
ベータ「……異世界を滅ぼしたら、この星の住人たちは死ぬことになるのか?」
アルファ「そうよ、死んで天国に行く」
ベータ「何か別の方法は……」
アルファ「ないわ。研究の結果、その方法しかなかった」
ベータ「……じゃあ、今みんな必死で秘宝を集めようとしてるのか?」
アルファ「この世界の仕組みについては転生技術を使える私だけ偶然知ることができたことなの。あとは真理を見通せる仙人くらいしか知らないと思うわ」
ベータ「だったら、異世界の人たちから見たら、オレたちは世界の破滅を目論む頭がおかしい悪人になるのか?」
アルファ「ええ。実行してる途中で捕まれば間違いなく死罪ね」
ベータ「……地球から別の人を転生させて、オレじゃなくてその人に頼んでほしいんだけど」
アルファ「もう転生技術は二度と使えないわ。あなたに使ったのが最後だったの」
ベータ「……でも死罪って、殺されるんだろ?」
アルファ「安心して。私たちは殺されても天国に行ける。この世界で産まれてない私たちは異世界の仕組みが適用されないからね」
ベータ「……そうなんだ。アルファも転生者?」
アルファ「違うわ。私は宇宙からこの星に来たの。この世界の者から見れば、宇宙人よ」
ベータ「宇宙人……」
〇洞窟の入り口(朝)
並んで立つアルファとベータ。
アルファ「ベータ、能力を使って仙人に秘宝のありかをしゃべらせて」
ベータ(M)「もしアルファが説明した天国や地獄の話が嘘だったとしたら、オレは異世界最悪の大罪人になるってことだ」
考える表情のベータ。
ベータ(M)「協力する前に、アルファの話が本当なのか確かめる必要がある。何かいい方法はないか?」
ベータ、はっとした表情に変わる。
ベータ(M)「……オレの能力を使えば、確かめることができるかもしれない!」
〇洞窟(朝)
暗い洞窟を歩いているアルファとベータ。
前方に老人が一人で座っているのが見える。
仙人「待ってたぞ。アルファとベータ」
アルファ「……全部お見通しってわけね。噂は本当みたい」
仙人「秘宝のありかを教えよう」
アルファ「失礼ですが、話が本当なのか確かめるために能力を使わせてもらいます」
仙人「好きにするがいい」
アルファ、ベータにウインクする。
仙人を見つめるベータ。
ベータ(M)「オレが質問したら本当のことを教えろ!」
アルファ「なんて念じた?」
ベータ「……秘宝がある本当の場所を教えろって」
懐中時計を確認するアルファ。
秘宝のある場所を紙に書き始める仙人。
仙人の姿を見ているアルファとベータ。
アルファ、仙人から紙を受け取る。
懐中時計を確認するアルファ。
アルファ「5分経過」
仙人に紙を見せるアルファ。
アルファ「この場所に秘宝は本当にあるの? 全ての秘宝の場所を書いてくれた?」
仙人「間違いない、その場所にある。秘宝がある場所は全て書いた」
アルファ「そう。行くわよ、ベータ。もうここに用はない」
洞窟の出口に向かって歩くアルファとベータ。
アルファ「一番近い秘宝の場所は、この洞窟から5分くらいで着く村よ」
〇村の出入口(朝)
岩でつくられた門の前に立つアルファとベータ。
アルファ「この村ね」
岩で簡単につくられた住居が見える。
ベータ「なんか大昔にタイムスリップしたみたいだ」
アルファ「場所によって文明レベルは様々よ」
村に入っていくアルファとベータ。
〇村(朝)
村の中を歩くアルファとベータ。
魔獣が二足歩行で歩いている。
ベータ「あの生物は?」
アルファ「魔獣よ。この世界は人と魔獣が共存してるの。世界共通語で魔獣も話せるわ」
ベータ「そうなんだ」
魔獣と楽しそうに会話している村人。
村人「今度、旅行に行きませんか?」
魔獣「いいですね。どこに行きます?」
周囲を見回すベータ。
アルファ「(小声で)まず秘宝に関する情報を集めていくわよ」
ベータ「……アルファ、ちょっと腹が痛いからトイレ探してくる」
アルファ「わかった、私は先に情報収集を始めてるから」
二手に分かれるアルファとベータ。
ベータ(M)「今がチャンスだ」
と、村の出入口の方へ歩いていく。
〇森の中(朝)
洞窟に向かって走っているベータ。
ベータ(M)「仮にアルファと仙人が事前に打ち合わせして話を合わせてたとしても、オレの能力の前では無意味だ」
〇洞窟(朝)
仙人の前に立つベータ。
ベータ(M)「さっき『オレが質問したら本当のことを教えろ』と念じたから、本当のことを聞き出せる」
仙人、ベータを見つめる。
ベータ「秘宝のある全ての場所を本当に教えてくれたんですか?」
仙人「ああ、教えた」
ベータ「世界を滅ぼせば、全ての生物が死んだあとに行く場所が地獄から天国に変わるという話は本当ですか?」
仙人「本当だ。これまで地獄に行った者も天国に行けるようになる」
ベータ「じゃあ、アルファがオレに話したことは全て本当のことなんですか?」
仙人「いいや、彼女は君に2つ嘘をついている」
ベータ「!」
仙人、器に入った水を飲む。
ベータ「……その嘘は何ですか?」
仙人「君の記憶は転生技術の誤作動によって消えたのではなく、彼女が意図的に君の記憶を消滅させるように設定して転生させた。つまり、わざと君の記憶を消したのだよ」
ベータ「……アルファは何のためにオレの記憶を消したんですか?」
仙人「前世の自分に関する記憶があれば、元の自分の過去を引きずって、自殺を図る者もいる。君が自殺でもしたら困るから記憶を消したのだ」
ベータ「……もう一つの嘘は?」
仙人「君と彼女は死んでも天国には行けない。この世界で産まれていない者は、死ねば無になる。世界を滅ぼしても滅ぼさなくても、それは変わらない」
ベータ「なんで天国に行けるなんて嘘を?」
仙人「君に協力を断られでもしたら、世界を滅ぼすことが不可能になるからだよ」
ベータ「……」
仙人「彼女は必死だ。全ての者を救うためなら手段を選ばない」
〇村(朝)
魔獣や村人と話しているアルファ。
〇洞窟(朝)
仙人と話しているベータ。
ベータ「仙人が世界の仕組みについての話を世間に広めればいいんじゃないですか?」
仙人「ワシはここから離れることができん。それにワシらが言っても誰も信じないだろう。誰にも証明できないからな」
ベータ「……前世のオレはどんな人間だったんですか?」
仙人「それは誰にもわからん。記憶が消滅してしまっては知る術がない。君は永遠に前世の自分について知ることはできない」
ベータ「そうですか……」
仙人「彼女の言う通り、世界を滅ぼす道を選ぶなら、地球での善悪の基準などは忘れなさい。でないと、君の心は壊れてしまうだろう」
ベータ「……ご忠告ありがとうございます」
沈んだ表情で立ち去っていくベータ。
ベータ(N)「なんでオレがこんな目に遭わなければいけないのか。その思いだけがオレの心の中で大きく芽生えていた」
〇村の出入口(昼)
門の前に立っているベータ。
ベータ「(溜息をついて)……」
と、村へ入っていく。
〇村(昼)
歩いているベータの姿を見つけて駆け寄るアルファ。
アルファ「ベータ、トイレ長すぎ。どれだけ気張ってたの?」
岩を重ねてつくられた一際大きな建物を指差すアルファ。
アルファ「(小声で)秘宝はあそこにある。警備は衛兵が10人」
秘宝のある建物の表口に、髪が隠れるヘルメットをかぶった衛兵が2人立っている。
アルファ「出入口は表口と裏口があるけど、ベータの力を使うなら表口から行くのがベスト」
ベータ、アルファの顔を見ていない。
アルファ「もし侵入して衛兵に見つかっても抵抗はしないで。無抵抗ならその場で殺されることはないから。拘束されている間に念じればいい。衛兵は必ず殺して」
ベータ「……」
アルファ「よーし、正面突破で行くわよ」
と、秘宝のある建物に向かって歩きだす。
ベータ「嫌だ」
アルファ「は?」
と驚いた顔で振り返る。
見つめ合うアルファとベータ。
(続く)
一人で地面に手をかざす美少女の姿。
アルファが手をかざしている地面は光っている。
アルファ「転生開始……個人に関する記憶は消滅させて」
美青年の姿をした男が光り輝きながらアルファの前に出現する。
男「……?」
アルファ「ようこそ、異世界へ」
男「異世界?」
アルファ「私があなたを地球から転生させたの。自分について何か思い出せる?」
男、思い出そうと額に手を当てる。
男「……何も思い出せない」
アルファ「残念だけど、転生技術の誤作動で個人に関する記憶は消えたみたいね」
男「なんでオレを転生させた?」
アルファ「異世界を滅ぼす手伝いをしてもらいたいから。全ての生物を救うために」
男「どういうことだ?」
アルファ「この世界に住む生物は死んだら地獄に行く仕組みになってるの。だけど、世界を滅ぼせば、その仕組みが変わって、全ての生物は天国に行けるようになるわ」
男「……天国と地獄」
アルファ「私のことは『アルファ』って呼んで。あなたのことは『ベータ』って呼ぶから」
男「ベータ?」
歩き始めるアルファ。混乱した表情を浮かべてついていくベータ。
アルファ「世界を滅ぼすためには、あなたの特殊能力が必要なの。転生の際に発現したはず」
前方に斧で薪を割っている一人の中年男性の姿。
アルファ「ちょうどいいわ、あの男を実験台に能力を試してみて。あなたの能力は、相手の姿を見て念じれば、相手が念じた通りになる力よ」
ベータ「……相手を思い通りにできる能力ってことか?」
アルファ「そう。最強でしょ? あなたは私が求めた最強の仲間」
ベータ「(困惑した表情で)」
草陰に隠れるアルファとベータ。
アルファ「たとえば、あの男に『死ね!』って念じてみて。5分後に死ぬから」
ベータ「なんで殺すんだよ? 『眠れ』とかでいいだろ?」
アルファ「なんでもいいわ。とにかく強く何か念じてみて」
前方の中年男性を見るベータ。
ベータ「眠れ!」
アルファ「声に出さなくてもいいわよ。5分後にあの男が念じた通りに眠るわ」
と、懐中時計を取り出して確認する。
ベータ「なんで5分後?」
アルファ「あなたの能力は発動するまで5分間のタイムラグがあるの」
ベータ「誰でも思い通りにできるのか?」
アルファ「私には効かない。あなたを転生させた私は主にあたるから」
ベータ「アルファの能力は転生させる力?」
アルファ「違うわ、転生は科学技術の力。私の能力は、相手を見れば心を読むことができる。ただし、あなたの心だけは読むことができない。転生者だからね」
ベータ「じゃあ、あの男が何を考えてるか読めるのか?」
薪を割る男性の姿をじっと見つめるアルファ。
アルファ「今のところ無心で薪を割ってるわね。もう少し待って」
しばらく男性を見つめるアルファ。
アルファ「……あー、ウンコしたくなってきた」
ベータ「え……トイレに行けば?」
アルファ「私じゃないわよ! あの男がそう思ったの!」
ベータ「ああ、なんだ」
中年男性、薪割りをやめて藪の中に入っていく。
アルファ「野グソしに行く気ね」
懐中時計で時間を確認するアルファ。
アルファ「追うわよ。もうすぐ5分だから、あなたの能力が発動するわ」
ベータ「でも、他人の排泄行為を覗くのは、人としてちょっと……」
アルファ「地球の一般的なモラルは覚えてるみたいだけど、そんなものは捨てて。でないと、これからの旅で絶対に心を病むわ。これは忠告よ」
ベータ「……なんだよ、それ」
〇藪の中(朝)
草木に隠れているアルファとベータ。
大便している中年男性。
アルファ「5分になる」
地面に倒れる男性。
ベータ「!」
アルファとベータ、男性に近寄る。いびきをかいて眠っている男性。
アルファ「大便してる最中に眠る人なんて初めて見たわ」
と、鼻をつまんでいる。
ベータ「起きてください」
と、男性の体を強く揺する。
男性、目を覚ます。
中年男性「ああ!」
と、驚いてズボンを腰まであげる。
アルファ「実験終了。行くわよ、ベータ」
アルファとベータ、立ち去っていく。
何が起きたかわからないという表情の男性。
〇森の中(朝)
アルファについていくベータ。
ベータ「地球でのオレって、どんな人間だった?」
アルファ「さあ? 私も知らない。転生者はランダムで選ばれるから」
ベータ「……これからどうするんだ?」
アルファ「世界を滅ぼすために必要な秘宝を全て集める。タイムリミットは1年。まず秘宝のありかを知るために仙人のいる洞窟へ行く。仙人は全てを見通すことができて、たいていの質問には答えられるっていう噂だから」
ベータ「……異世界を滅ぼしたら、この星の住人たちは死ぬことになるのか?」
アルファ「そうよ、死んで天国に行く」
ベータ「何か別の方法は……」
アルファ「ないわ。研究の結果、その方法しかなかった」
ベータ「……じゃあ、今みんな必死で秘宝を集めようとしてるのか?」
アルファ「この世界の仕組みについては転生技術を使える私だけ偶然知ることができたことなの。あとは真理を見通せる仙人くらいしか知らないと思うわ」
ベータ「だったら、異世界の人たちから見たら、オレたちは世界の破滅を目論む頭がおかしい悪人になるのか?」
アルファ「ええ。実行してる途中で捕まれば間違いなく死罪ね」
ベータ「……地球から別の人を転生させて、オレじゃなくてその人に頼んでほしいんだけど」
アルファ「もう転生技術は二度と使えないわ。あなたに使ったのが最後だったの」
ベータ「……でも死罪って、殺されるんだろ?」
アルファ「安心して。私たちは殺されても天国に行ける。この世界で産まれてない私たちは異世界の仕組みが適用されないからね」
ベータ「……そうなんだ。アルファも転生者?」
アルファ「違うわ。私は宇宙からこの星に来たの。この世界の者から見れば、宇宙人よ」
ベータ「宇宙人……」
〇洞窟の入り口(朝)
並んで立つアルファとベータ。
アルファ「ベータ、能力を使って仙人に秘宝のありかをしゃべらせて」
ベータ(M)「もしアルファが説明した天国や地獄の話が嘘だったとしたら、オレは異世界最悪の大罪人になるってことだ」
考える表情のベータ。
ベータ(M)「協力する前に、アルファの話が本当なのか確かめる必要がある。何かいい方法はないか?」
ベータ、はっとした表情に変わる。
ベータ(M)「……オレの能力を使えば、確かめることができるかもしれない!」
〇洞窟(朝)
暗い洞窟を歩いているアルファとベータ。
前方に老人が一人で座っているのが見える。
仙人「待ってたぞ。アルファとベータ」
アルファ「……全部お見通しってわけね。噂は本当みたい」
仙人「秘宝のありかを教えよう」
アルファ「失礼ですが、話が本当なのか確かめるために能力を使わせてもらいます」
仙人「好きにするがいい」
アルファ、ベータにウインクする。
仙人を見つめるベータ。
ベータ(M)「オレが質問したら本当のことを教えろ!」
アルファ「なんて念じた?」
ベータ「……秘宝がある本当の場所を教えろって」
懐中時計を確認するアルファ。
秘宝のある場所を紙に書き始める仙人。
仙人の姿を見ているアルファとベータ。
アルファ、仙人から紙を受け取る。
懐中時計を確認するアルファ。
アルファ「5分経過」
仙人に紙を見せるアルファ。
アルファ「この場所に秘宝は本当にあるの? 全ての秘宝の場所を書いてくれた?」
仙人「間違いない、その場所にある。秘宝がある場所は全て書いた」
アルファ「そう。行くわよ、ベータ。もうここに用はない」
洞窟の出口に向かって歩くアルファとベータ。
アルファ「一番近い秘宝の場所は、この洞窟から5分くらいで着く村よ」
〇村の出入口(朝)
岩でつくられた門の前に立つアルファとベータ。
アルファ「この村ね」
岩で簡単につくられた住居が見える。
ベータ「なんか大昔にタイムスリップしたみたいだ」
アルファ「場所によって文明レベルは様々よ」
村に入っていくアルファとベータ。
〇村(朝)
村の中を歩くアルファとベータ。
魔獣が二足歩行で歩いている。
ベータ「あの生物は?」
アルファ「魔獣よ。この世界は人と魔獣が共存してるの。世界共通語で魔獣も話せるわ」
ベータ「そうなんだ」
魔獣と楽しそうに会話している村人。
村人「今度、旅行に行きませんか?」
魔獣「いいですね。どこに行きます?」
周囲を見回すベータ。
アルファ「(小声で)まず秘宝に関する情報を集めていくわよ」
ベータ「……アルファ、ちょっと腹が痛いからトイレ探してくる」
アルファ「わかった、私は先に情報収集を始めてるから」
二手に分かれるアルファとベータ。
ベータ(M)「今がチャンスだ」
と、村の出入口の方へ歩いていく。
〇森の中(朝)
洞窟に向かって走っているベータ。
ベータ(M)「仮にアルファと仙人が事前に打ち合わせして話を合わせてたとしても、オレの能力の前では無意味だ」
〇洞窟(朝)
仙人の前に立つベータ。
ベータ(M)「さっき『オレが質問したら本当のことを教えろ』と念じたから、本当のことを聞き出せる」
仙人、ベータを見つめる。
ベータ「秘宝のある全ての場所を本当に教えてくれたんですか?」
仙人「ああ、教えた」
ベータ「世界を滅ぼせば、全ての生物が死んだあとに行く場所が地獄から天国に変わるという話は本当ですか?」
仙人「本当だ。これまで地獄に行った者も天国に行けるようになる」
ベータ「じゃあ、アルファがオレに話したことは全て本当のことなんですか?」
仙人「いいや、彼女は君に2つ嘘をついている」
ベータ「!」
仙人、器に入った水を飲む。
ベータ「……その嘘は何ですか?」
仙人「君の記憶は転生技術の誤作動によって消えたのではなく、彼女が意図的に君の記憶を消滅させるように設定して転生させた。つまり、わざと君の記憶を消したのだよ」
ベータ「……アルファは何のためにオレの記憶を消したんですか?」
仙人「前世の自分に関する記憶があれば、元の自分の過去を引きずって、自殺を図る者もいる。君が自殺でもしたら困るから記憶を消したのだ」
ベータ「……もう一つの嘘は?」
仙人「君と彼女は死んでも天国には行けない。この世界で産まれていない者は、死ねば無になる。世界を滅ぼしても滅ぼさなくても、それは変わらない」
ベータ「なんで天国に行けるなんて嘘を?」
仙人「君に協力を断られでもしたら、世界を滅ぼすことが不可能になるからだよ」
ベータ「……」
仙人「彼女は必死だ。全ての者を救うためなら手段を選ばない」
〇村(朝)
魔獣や村人と話しているアルファ。
〇洞窟(朝)
仙人と話しているベータ。
ベータ「仙人が世界の仕組みについての話を世間に広めればいいんじゃないですか?」
仙人「ワシはここから離れることができん。それにワシらが言っても誰も信じないだろう。誰にも証明できないからな」
ベータ「……前世のオレはどんな人間だったんですか?」
仙人「それは誰にもわからん。記憶が消滅してしまっては知る術がない。君は永遠に前世の自分について知ることはできない」
ベータ「そうですか……」
仙人「彼女の言う通り、世界を滅ぼす道を選ぶなら、地球での善悪の基準などは忘れなさい。でないと、君の心は壊れてしまうだろう」
ベータ「……ご忠告ありがとうございます」
沈んだ表情で立ち去っていくベータ。
ベータ(N)「なんでオレがこんな目に遭わなければいけないのか。その思いだけがオレの心の中で大きく芽生えていた」
〇村の出入口(昼)
門の前に立っているベータ。
ベータ「(溜息をついて)……」
と、村へ入っていく。
〇村(昼)
歩いているベータの姿を見つけて駆け寄るアルファ。
アルファ「ベータ、トイレ長すぎ。どれだけ気張ってたの?」
岩を重ねてつくられた一際大きな建物を指差すアルファ。
アルファ「(小声で)秘宝はあそこにある。警備は衛兵が10人」
秘宝のある建物の表口に、髪が隠れるヘルメットをかぶった衛兵が2人立っている。
アルファ「出入口は表口と裏口があるけど、ベータの力を使うなら表口から行くのがベスト」
ベータ、アルファの顔を見ていない。
アルファ「もし侵入して衛兵に見つかっても抵抗はしないで。無抵抗ならその場で殺されることはないから。拘束されている間に念じればいい。衛兵は必ず殺して」
ベータ「……」
アルファ「よーし、正面突破で行くわよ」
と、秘宝のある建物に向かって歩きだす。
ベータ「嫌だ」
アルファ「は?」
と驚いた顔で振り返る。
見つめ合うアルファとベータ。
(続く)