「今、帰り?」

「うん。」

「俺達も。部室の鍵返したら、終わりだから。」

そう言って、鍵を見せる恭平。


「ああ~。じゃあ私、先帰るね。」

麻也が猫っ毛の短い髪を、無造作に触る。

彼女なりに、気を遣ってくれているのだ。

「うん。気を付けて帰ってね、麻也。」

「巴里もね。」

麻也に手を振っている今だって、身体中がドクンドクンと鳴っている。


「ちょっと待ってて。」

そう言って恭平は、事務室の戸を叩いた。

「失礼します。」

頭を下げて戸を閉める恭平は、私の方を振り返った。

「ごめんごめん。」

恭平のいる左側が、やけに熱い。

それなのに、私と恭平との間には、もうこんな話題しかなかった。