栗色の毛先が、右に左に舞う。

「クククッ……」

私は、思わず笑ってしまった。

「えっ…」

彼女さんは、戸惑っている。


「大丈夫ですよ。一年以上も、返さない人だっていますから。」

私はカウンターの下から、3ヶ月以上返却されていない本のカードを探す。

「あった。西口加絵(ニシグチ カエ)さんですね。」

私はカードを、彼女さんの前に差しだした。

「ここに、今日の日付を書いて下さいね。」

「ああ、ここね。」


スラスラと日付を書いた後、彼女さんはこんな事を言った。

「あなた、いい人ね。」

大きな瞳がキラキラ光る。

「また借りてもいい?」

「どうぞ……」

彼女さんは軽く微笑むと、本棚へと歩いて行った。