「美少女。金髪碧眼。モテモテ、ウハウハ。ああああ――っ、もう訳わかんなくなってきたっ!」

「5……」

「え、エロいおねえさん。それも思いっきりエロがいいに決まってる」

「6……」

「ええっ、もうそんなに――!! それじゃあ」

 天井を見上げると、そこに貼られたいたのは、エレキギターを抱えて顔をしかめて興にいってる、某有名バンドのギタリストのポスター。

「7……」

「ギタリスト。あれ? 右利きなのに左利き用のギター弾いてるよ。印刷ミスか? どうして今まで気づかなかったんだろう? これじゃ左右反対、あべこべじゃん」

「8」

「えっ、もうそんな時間?」

「9……

「想像しろ、想像しろ、妄想しろ。あと、き、き、金髪碧眼の……は、いったっけ?」

「残念、時間切れだ。お疲れ様。これで異世界転生の準備は全て整った。後はヨーカンの指示を待つのみだが……」

 ぐったりとうなだれる洋観。クロエには彼に同情する気配は感じられない。
 
「疲れたわ……、行ってくれ。どこへでもいいから僕を連れて行ってくれ――!」



 気がつくと、洋観は見知らぬ土地の、見知らぬ通りに只中に立っていた。

「これから、異世界でので冒険が……始まる予感が全くしないんだが……」

 元いた世界と異世界とを旅してきたという実感が全く感じられずに、拍子抜けしたとでもいいたげな表情だ。
 洋観にとってはそれほど、あっけない異世界転生の旅(ぎしき)だった。

 ざっと辺りを見渡す。平和そうで牧歌的な田舎の風景がそこにはあった。

 大きく深呼吸すると、肺には澄んだ空気が流れ込んでくる。命を脅かすこともなさそうで、ひとまずは安心して良さそうだ。

 つぎに、洋観は足元を見下ろした。

 地面は舗装されておらず、乾燥した土の上に革靴(?)を履いた自分の足がしっかりと地面を踏みしめている。自由に移動することもできるようで心配ないだろう。

 季節は、そうだな~、もう少しで初夏の便りが聞こえてくる頃だろうか。

 洋観の目に入る木々の葉の色も、緑を濃くしている。民家の庭先には色とりどりの花々が、私を見てと自己主張するかのように咲き誇っている。

 土の乾いた臭い。

 ほのかに漂う花々の発する芳醇な香り。

 どこららともなく、鼻腔に流れ込んでくる草いきれのこもった匂い。