「異世界と言っても、ありとあらゆる異世界があって、その数も種類も千差万別。魔法が支配する世界。パーティーを組んでダンジョンで魔物の討伐をする世界に、牧歌的な田舎で悠々自適なスローライフを満喫する世界なんかも最近は人気らしいな。そんな訳で、何もかもお前の思いどおりに、というわけにもいかないのだ。だが安心しろ。大半は異世界転生希望者の望みを取り入れた上で、組み立てられた異世界を提供することになる」

 すると突如、クロエの目の色が琥珀色から柿色へ、更に瑠璃色に変化して心做しか表情も強張り、クロエの身体からまるで神が憑依したかのような眩い後光が発せられた。

「な……なんだ。いったいどうした? なにが起こってる!?」

「で、お前の望む異世界とはどんな世界なのだ? これから私が、十数える。その時間内に理想の異世界を思い描き、自らが紡ぎ出した言葉がそのままアナザー・ワールドへ通じる道へと、そなたを誘うこととなろうぞ!」

 呆気にとられてる洋観をよそに、何かに取り憑かれたように振る舞うクロエは、身動き一つせずに全身を総毛立て吠えた。

「スタート!!」

「ええ――っ、ちょとなんだよ! いきなり過ぎるだろう!? 十秒って短くね? もう少し長くなんねえの? 考える時間が欲しいんだけど。えっ、やっぱ無理? そ、そんな急に言われても」

「1、2……」

「……っといってる間にカウント始まっちゃたよ。じゃ、じゃあ、取り敢えず猫。あ、しまった! くうぅぅぅ――――っ!! なんで猫? 寝てばかりいて何の役にも立たないくせに……あっ、時間、時間!」

「3……」

「異世界、異世界、医師会、地中海。ああ……何いってんの、僕――!!」

 たまたま、本棚に整然と並べられたラノベのタイトルが目に飛び込んできた。

 ちなみに、本のタイトルは『俺の幼馴染と妹から結婚を迫らえて異世界に逃げ込んだはいいが、そこで魔王の手下にされてしまった』だ。

「4……」

「お、幼馴染、妹、結婚、あと……」

 視線をずらすと、本棚の脇の壁に貼れれた美少女アニメのポスターが目に留まる。

 際どい衣装を纏った、ナイスボディーの超絶美少女のイラストが描かれているやつだ。
 思わず洋観の口から漏れ出た言葉はというと。