店のおやじは、眉間にシワを寄せて声のした方に目を向けると、老眼鏡のツルを掴んで答えた。

「300デールだな」

 異世界生活にもようやく慣れてきて、金銭感覚も身についてきたところだ。
 300デールは、元の世界――日本での物の価値に例えると、3万円といったところだろうか。

「おいおい、それはあまりに高すぎだろう? 客の足元を見てあこぎな商売をしやがるな~アコースティックギター、アコギなだけに……」

「………………」

 おっと、どうやら洋観の銀河系クラスのダジャレは異世界おやじには通じなかったようだ。

 おやじは、洋観の冗談にピクリとも反応を示すことなく、「骨董品のギターだ。一銭たりともまからない」と、妙な屁理屈をこねて値段の交渉には応じようとしない。

「よ~し、分かった。それならこっちにも考えがある。今後この店に来るときには、妹のクロエを連れてこないことにする!」

 すると、難しい顔をしながら本を読んでいたおやじの態度に明らかな変化が現れた。

(ふふ、思ったとおりだ)

 おやじは、本を机の上に落とし、目をまん丸くして口を、餌をねだる池の鯉みたいにパクパクさせている。

「おやじさんよ~。あんたがクロエのことをチラチラと破廉恥な視線で眺めていることに、僕が気づかずにいるとでも思ってたのか!?」

「な、なんのことだか……あんな小娘の胸元やお尻になんて、きょ、興味あるわけないだろう、アホらしい……」

「ほ~う、少なくとも妹の胸やヒップは鑑賞していたと。そういうふうに理解してもいいんだな?」

「まあ、まて。そこまでして、その楽器が欲しいなら半額で譲ってやる。今後、常連客になってくれると約束してくれるなら、思い切ってタダでくれてやってもいい。それとクロエちゃん同伴で来店することを忘れるなよ。ふんっ、この守銭奴め!」

 おやじはイタチの最後っ屁を放つことも忘れない。

「どっちが守銭奴だよ!」

 無事交渉成立だ。
 おやじは渋々、洋観との交換条件を受け入れた。

(物分りのいいおやじとは、この先も意外と良い付き合いができそうだな)

 洋観はタダでおんぼろギターを手に入れることができ、得意満面の笑顔で店を出る。

 しかし、本来右利きの洋観が自然に左利き用のギターに対してなんの違和感もなく弾きこなせているところが異世界ならではだ。