第五章:ギターとの出会い

 診療所での洋観に与えられた仕事は、簡単にいってしまえば主に雑用だ。

 高一の夏休みに、雑誌社でのバイト経験がある洋観にしてみれば、難なくこなせる類の楽な業務だ。

 種々雑多な書類の整理や、村人からの陳情への回答、虫歯治療の往診依頼への返信用紙を封筒に入れて届けたりもする。

 それを、五人の美少女たちがかわりばんこで教えてくるるとあっては、洋観にとっては約得以外の何物でもない。
 トモカほか、同僚の女子たちからの受けもすこぶる良好だ。

 診療所の雑用係にもようやく慣れてきた、そんなある日の昼休み。
 裏庭でのランチを早々に済ませた洋観とクロエは、残りの時間を街の散策に当てることにした。

 あらかじめ寄ってみたい店があるわけでもなかったが、自然と洋観の足は以前、鏡を買い求めた古道具屋に向かっていた。

 例の因業おやじのやってる古道具屋だ。
 村に一軒だけある、古道具屋兼雑貨屋に入ると、前来たときと同じように、店のおやじは、あからさまに「何しに来やがった。冷やかしならお断りだ」、みたいなしかめっ面で、客である洋観をメガネごしに睨みつける。

 洋観は、そんなおやじには目もくれず店内を目的もなく歩きまわって、商品とは名ばかりのガラクタを眺めていた。

 すると、洋観の目が店の端っこにある木箱にとまった。

 彼は、『激安・処分品』と書かれた木箱の中に、ホコリを被った壊れかけのアコースティックギターを見つけると手にとってみた。

 正確には、元いた世界のアコースティック・ギターとは若干デザインが異なっているが、パット見は洋観も持っている生ギターと変わりなさそうだ。
 しかしどうしてだろう? 何故か左利き用のしか置いてない。これってもしかして……。

 ボディーの部分を脇に抱えて、ポロリ~ン♪と弦を弾いてみると、予想通りチューニングが良い具合に外れていた。
 ペグを捻りながら音程を調節していくと、それなりに使えそうな気がしてきた。

「ちょっと手を加えれば、なんとか使い物になりそうだな」

 懐には、鏡を買っったときのお釣りがまだ入ったままだ。

「おい、おやじ。このおんぼろギターいくらで売ってくれる?」

 もう、常連だから遠慮はしない。洋観はズバリ値段の交渉に入った。