クロエは、妙に説得力のある洋観の術中にハマりそうに成りかけたが、寸前のところで己を取り戻した。

「妙に言葉数が多くなたのが気に入らないな」

 善人でも、目の前に目の飛び出るようなお金の山を積まれれると、人格まで変わってしまうという。

 どちらかというと不安そうだった洋観の表情が、一気に明るく……言い換えれば、ふてぶてしく……ニヤついて……悪巧みを企んでるように徐々に変化していく様子を見て、クロエは不安をいだき始めた。

 洋観はこの大金を、おそらく後ろめたいことに使おうと目論んでるに違いない。

「取り敢えず、このお金は私の管理下におくことにする。手元に置いておくお金は、当面の生活に必要な食費以外では、せいぜい家具や衣類を購入するくらいだろうし、残りはトモカ先生に預けておくことにする」

「ええ――、殺生な~~!」

「多少は、小遣い程度は渡しておく。当座はそれで我慢しろ」

 どうやら、洋観には彼なりの考えがあってのことらしいが、それはそのときが来るまで財産を蓄えておくのがクロエの役目だった。そのことは、洋観には伏せておいたほうが良さそうだ。

「ブーブー! ブーブーブー、ブーブー!」

 洋観はあからさまに不満そうな顔で、文句を垂れている。