「それはお約束ってやつだ。最後までうやむやにしておいてくれると助かる」
「ま、まあ……それなら深くは詮索しないでおいてやる。そのほうがお互い都合が良いということなら仕方ない」

 なんとも玉虫色の決着とでもいおうか、なあなあっていうか、馴れ合いって感じもしないではないが、これで丸く収まるならばそれも然り。

「で、これが夢でなく現実だとしたら、科学の理を無視した、なんらかの目的があっての超自然現象なわけだろ?」
「無理に、むづかしい言葉を選んばんでよい

 クロエは待ってましたとばかりに、ヒゲをピーンとはって口を開く。

「ヨーカンは異世界への転生に並々ならぬ興味があるようだな?」
「その質問、今まさに異世界転生物アニメを視聴中の僕に聞く?」

「これから、私が指す条件をクイアしたら、ヨーカン、お前を異世界に連れて行ってやろう。そのためには粛々と、決められたルールに沿って手順を踏んでだな……」

「はっ? 飼い主を小馬鹿にするのも大概にしろ! 異世界だって? そんな夢物語のようなことが現実に起こるはずなかろう?」

 洋観には、クロエのいってる意味が掴みかねたようだ。

「たった、今まで異世界アニメを観ていた人間の言葉とも思えん。猫が人の言葉を喋ってる時点で、すでに異空間に入りかけてる事実を受け入れるとは、さすがは我が飼い主ヨーカン。飲み込みが早いと感心したが、どうやら私の買いかぶりすぎだったか?」

 洋観は、いまだこの状況を飲み込めていない様子で、瞬き一つせずただ呆然とその場に立ち尽くしている。いったいどちらが飼い主なのか分からない。

「ただそう簡単に異世界転生が叶うと思われても困る。異世界に並々ならぬ興味を持つお前なら飛び上がって喜ぶものと思っていたが、意外にも冷静だな。まさかとは思うが、すでに脳の容量を使い切った……わけでは無いだろうな腐りかけのヨーカン」

 あくまで、クロエは淡々と言葉を紡ぐ。

「腐りかけの……。まあいい、で、その異世界への行くためのルールとやらを教えてもらおうか」

 物分りがいいのか、単にアホなのかはこの際横に置いとくとしよう。洋観はクロエの突拍子もない提案をようやく受け入れたようだ。

「異世界、異世界、異世界、と十回他人に言わせたら……」

「よし分かった。“医師会”を十回だな!」