上着は七部袖の綿か、綿に麻を混ぜた白いシンプルなシャツにインディゴ・ブルーのチョッキを羽織っている。下は、農作業や木工芸の作業所で働きやすそうな、ゆったりとした作りの厚手のデニム生地を思わせ、色はカーキ色をしたズボンだ。

 動物の皮を使ってると思われる靴は、意外にも履き心地満点でしっかりとした作りの革靴だ。おそらく熟練の靴職人がこの村にいるのだろう。

 洋観の口元はいやらしく緩んで、目尻もタレ気味。ほんのりピンク色に染まったほっぺがそれを如実に証明している。
 鏡に移った自分の顔に……もしかして見とれてる? 
 クロエには、洋観が自分の顔に見惚れてるようにか思えなかった。
 まさかな……、いや、どうやらそれもあながち見当違いでもないようだ。

「おいおい、勘弁してくれよ」

 さっきまでの落ち込みようが嘘のようだ。

「これ、欲しい。でもお金……」

 ここは素直にクロエにすがるより他に手はないようだ。
 洋観は肩を落とし、おねだりをする顔色も冴えない。

「そのお金だがなければなんにも始まらないだろ。ほらっ!」

 クロエが手の甲を上にして握った手を差し出すと、その手を九十度回転させて開く。掌の上には数枚のコインらしき物の塊があり、洋観の顔は一気に明るさを取り戻した。

「この店に入る時に、なにげにスカートのお尻の辺りにポケットがあることに気づいてな。ポケットの上から触れてみると、中に何か入っっているようなんだ。で、手を入れてみると中にこんな物が入っていたってわけ。これって多分この世界で使えるお金なんじゃないかな?」

 硬貨の表面には、立派な髭をたくわえた人物のレリーフが刻まれている。

「でも本物のお金、硬貨だとしてどのくらいの価値があるかまでは分からい。硬貨の裏面に刻印されてる数字が現す価値を確かめる必要がある。ちょうどいい機会だから、この古道具屋の店主に尋ねてみてはどうだろう?」

「なんだ、お前もこの世界の理やシステムすべてを熟知しているわけでもないんだな?」

 洋観はズボンのポケットを弄ってみたが、どうやら彼のポケットには硬貨らしきものは見つけることができなかった。

「わるい、クロエ。その硬貨俺にちょっと貸してくれないか?」
「あげるはよ。私もこの硬貨の価値がどれくらいあるのか知りたいし」