第三章:古物店での出来事

 元気な桜との再開を果たしたのは良いとして、自分の描いていた理想的な異世界ライフを送るという夢は、若干の軌道修正が求められそうだ。

 洋観は、夢遊病者のようなヨロヨロとした足取りで、古道具屋をドアを開けると無言で店内に入っていった。

 後を追ったクロエも洋観に続いて店内に入っていく。

 古道具屋の店内に入ったクロエは、薄暗くジメッとした空気に嫌な予感がするとともに、何か手強そうな店だなといった第一印象を持った。

 まずは足元に積み上げられたり、天井から吊るされた用途不明のおびただしい数の怪しげな品々によって、店内がまるで迷路のようになっていることに驚かされた。
 ヘビの抜け殻? 抜け革? 異界の動物の骨の標本やら、奇っ怪な極彩色に塗られたお面の数々が壁にずらりと並んだ様は背筋が凍りつく恐怖さえ覚える。

 この店には客を歓迎するという意向が全く感じられない。

 いや、むしろ客を拒むような意図が感じられて、できれば今すぐにでもこの店を出ていきたくなったクロエだった。

 しかし、そうもいかない。まずは店に入っていった洋観を探すのが先決。

 そこかしこに雑多に陳列……というよりも、ただ店主の気がむくままに置かれただけのガラクタ――いや、一応商品ということにしておこう――の山に埋もれるようにして、奥の方からこの古道具屋の店主らしきジイさんが気難しそうな顔をしてこちらを睨みつけている。

 このじいさんも、若い頃はさぞかしハンサムでモテモテだった時期があったのだろうと想像すると、年月というのかくも残酷なものだと改めて感慨に浸るクロエであった。

 どこの世界でもこの手の店の経営者ってのは、一癖も二癖もあって取っ付きにくくできているようだ。

 さて、洋観は何処だ?

 クロエは、店主を無視するように、迷路のような店内を歩き回ってようやく一番奥の方で、彼を見つけた。洋観は、意匠を施されたアンティーク風の壁掛け鏡の前で立っていた。

 壁掛けの鏡の脇に立て掛けられている姿見に全身を映し、自分の身なりを確かめている姿を見ると、まんざらでもないといた様子だ。