その日の夜、くたびれたメリイを寝かしたあと、俺は小笠原のパンツ作りに取りかかった。
裁縫スキルによって、完成品のイメージさえあれば、ほとんど手が無意識に動いていく。身体が全自動ミシンになったみたいな感じだ。
しゃきしゃきと手を動かしていると、小笠原がジッと俺を見ているのが気になった。
「どうした、そんなジロジロ見て。急かしてもパンツは早く出来上がらんぞ」
「んー、偉いなあと思って」
「そうか? パンツくらい何枚でも作るぞ」
「あ。いや。違くて。メリイのこと」
すやすやと穏やかな顔で眠るメリイを見ながら、小笠原は言った。
「ずっとこの子の面倒見てたんでしょ。こっちの世界の事情は分からないけれど、お父さん帰ってこないのは辛いもんね」
小笠原の言う通り、メリイは俺が来るまでひとりで暮らしていた。借金取りに目をつけられて、かなり大変だったのは確かだ。
「見直したの。四谷って、山登りしか興味なさそうじゃん」
「そうか?」
「いつも校庭の隅でテント張ってるし」
「あれは部室だ。ちゃんと顧問の許可も取ってる」
「変なの。でも順応率高いよね。サバイバル慣れしてるっていうか」
「郷に入っては郷に従えと。父親が登山家だったから、そういう風に育てられたんだ」
「お父さん、山登りする人だったの?」
「登山家だった。もういない」
「……ごめん」
「謝ることじゃない。もう慣れた」
冒険家だった父は、メリイの父親と同じようにもう何年も帰ってきていない。メリイの事情を聞いた時、人ごとじゃないと思って、色々と手伝うことにした。
「しかし、まさかクラス一可愛い同級生に、俺の存在が認識されてるとは思わなかったな」
小笠原は良くも悪くも目立つ存在だ。反対に俺は華やかなスポットライトに当たることもなく、こそこそ活動しているような人間だ。
「あの。四谷」
「おう。もうすぐできるぞ」
「そうじゃなくて」
小笠原は珍しくボソボソとした小さな声で言った。
「わ。私のこと可愛い……って言った?」
見ると、小笠原は顔を赤くしていた。視線を合わせると、プイっと目をそらした。
「クラス1可愛いとか、そう言う風に聞こえたんだけど」
「言ったよ」
「本当?」
「本当だ。可愛いと思う」
そう返すと、そっぽを向きながら、小笠原はにやにや笑い始めた。
「へ。へへへ」
「何だよ」
「な。なんでもないっ」
手近にあった卵を投げようとしたので、慌てて両手をあげる。こんなデレデレしたやり取りで、頭を割られてはたまらない。
代わりに完成したパンツを放り投げる。
「ほら下着。できた」
「あー……さんきゅー……ヒョウ柄か……」
「着てみろ。すーすーするぞ」
「うん」
おもむろに立ち上がると、小笠原は制服のスカートをおろそうとした。フックに手をかけたところで、思い出したように顔をあげた。
「ん?」
「どうした?」
「何で当然のように見てるの?」
「そりゃあ製作者だから具合が気になるだろ。どうせこれから三人一緒に裸で寝るんだ。パンツくらい気にするなよ」
「……」
その日も俺は風呂場で寝ることになった。さっきまでデレかけてたはずなのだが。おかしい。