「ななちんは、すごく強いんですねえ」
デコピンの衝撃で壊れた玄関を直しながら、メリイは言った。
「ゲラゲラフタクチは石で一撃、レベル30の狼男さんはデコピンなんて。そんな人見たことがありません」
「私も良く分かんないんだけど。つーか何? レベルとかあるの?」
「あるぞ。家でも測れる」
「やってみるです?」
昨日、小笠原が破壊したドアノブも含めて復旧は終わった。デコピンだけであの威力だ。右ストレートでも食らわそうものなら、狼男は爆散。小笠原は殺人犯になっていただろう。
メリイが本棚から緑の革表紙の本を持ってくる。
「これです。鑑定魔導書。ここに手をかざせば、レベルとステータスが測れます」
「どう見ても普通の本だけど」
「魔導書はとても便利なんです。レベル関係なく使えますから」
「お前を召喚したのも魔導書だ。召喚魔導書を使ったんだ」
「それが諸悪の根源なのね……」
「まずメリイが測ってみます」
ページを開いて、メリイが手をかざすとぽうっと緑色の光が浮かんで文字が現れた。
【メリイ=ミンセンブルク】
【レベル・・・8】
【STL・・・3】
【MGL・・・5】
【習得スキル・・・なし】
【習得魔法・・・オナカイタイイタイ】
「どうです?」
「どうって言われても……何なのこの習得魔法って」
「使うとお腹が痛くなってトイレに行きたくなります」
「ただの嫌がらせね……。このSTLとかMGLは? ここだけ英語なんだけど」
「STLが基礎体力レベルで、MGLが魔法レベルです」
「ふーん。四谷、あんたもやってみなさいよ」
「俺か。何か恥ずかしいな」
「はよはよ」
小笠原に焚きつけられて、手をかざしてみる。ぼうっと光と文字が浮かんだ。
【四谷元】
【レベル・・・3】
【STL・・・1】
【MGL・・・2】
【習得スキル・・・薬草栽培
・・・裁縫
・・・土いじり
・・・言語翻訳】
【習得魔法・・・なし】
「どうだ」
「うわあ、何か地味ね。ねえ、スキルと魔法は何が違うの?」
「スキルは意識しなくても発動してる。魔法は唱えたりしないと発動しないんだ。例えばこれとか」
空中に浮かぶ文字に触れると、スキルの説明文が現れた。
【言語翻訳・・・異なる言語の自動翻訳】
「すごい便利そう」
「何か知らんけど、これだけは最初から持ってた。だからメリイの言葉も分かるようになってる。多分、小笠原も持ってるぞ」
「私もやってみて良い?」
「どうぞどうぞ」
小笠原が本の前に手をかざす。
あれだけはちゃめちゃな身体能力をしている。どれだけステータスが狂っているのか確かめる時がきた。少し間があった後に、ぽうっと文字が浮かび上がった。
【小笠原奈々(使い魔)】
【レベル・・・532412】
【STL・・・532412】
【MGL・・・0】
【習得スキル・・・言語翻訳】
【習得魔法・・・なし】
「STL、53万です……」
「すげえなあ。おら、びっくりした。ス○ウターならぶっ壊れてるところだぞ」
「や。やめてよ。人のことを戦闘民族みたいに言うの!」
「メリイ、こんな数値初めて見ました」
小笠原の数値を見て、メリイはヘナヘナと腰を抜かした。
「王国の騎士団長でも1000レベルくらいです。ななちんは、それをはるかに超えています」
「どうする? いっちょ王国征服すっか?」
「やるか! 何で私だけこんなことになってるの。四谷はメリイとそんなに変わらないのに」
「何だろうな。不公平だなあ」
「持て余しそうだわ……」
げんなりしたように自分のステータスを消して、小笠原は椅子に座った。
「まあ良いわ。とりあえず私帰りたいんだけど」
「じゃあ獣の森に行って、落とした魔導書を探すしかないなあ。俺はそれでも帰れないんだけど」
「四谷は帰れないの?」
「多分。なあメリイ」
「そうです。使い魔のななちんは還送魔法で元の世界に帰れると思います。でも、どこからか迷い込んだか分からない四谷は、別の方法を探すしかありません」
「そうなんだ……」
「まあのんびり探すさ。遠慮すんな。帰れる方法があるんなら帰る方が良い」
俺が言うと、渋々と言った感じで小笠原はうなずいだ。
「遠慮してるわけじゃないけど。まあ、兎にも角にも獣の森ね。とっとと行きましょ。獣が襲ってきてもデコピンで吹っ飛ばせば良いんでしょ」
よっと小笠原が椅子から立ち上がる。家を出ようとすると、メリイが小笠原のことを呼び止めた。
「ななちん様!」
「ど。どうしたの急に、メリイ。床に頭なんか擦り付けて」
「お願いがあるのです」
急に土下座したメリイは、小笠原のことを見ながら言った。
「何とぞ何とぞ」
「お。お願い?」
「はい」
コクリとメリイはうなずいた。
「元の世界に帰る前に……メリイのお父さんを探して欲しいのです」