新たに現れた闇の騎士の軍勢を見て、ソプラノは慌てて戻ってきた。
「あれは無理ですわー!」
「剣技は負けないんじゃなかったのか……」
「一対一の話ですわ!」
通路から出てきた闇の騎士は、まっすぐ俺たちの方に向かってきていた。やはり、やる気満々なようだ。
「あのレベル差では絶望的ですわ。ぶるぶる」
「ごめんなさいごめんなさい。ボクが鑑定なんかしてしまったせいで……」
「それは関係ないだろ。しかしどうするかなあ」
ソプラノが勝てないと言っている以上、もう頼れるのは小笠原しかいない。ダンジョンの壁を壊して回っているようだが、その位置はまだ遠い。
「……あ、そうか」
「どうかなさいました?」
「ひらめいた。ソプラノ、まだいけるか。体力的に」
「体力ならまだありますわ。一太刀浴びせられるかどうかですが」
「よし。剣で壁をぶっ叩いてくれ」
「壁をですか?」
うなずいて、石の壁をどんどんと叩く。
「思いっきり」
「わ、わたくしの力では壁を破壊するのは無理ですわ」
「大丈夫だ。思いっきりやれば」
「そ、そうですか」
「時間がない。頼む」
剣を取ったソプラノを警戒して、闇の騎士たちは距離を取っているが、攻撃に出られたらひとたまりもない。
「分かりましたわ」
「ほ、本当にやるんですか?」
「はい……わたくしは四谷さまを信じますわ。四大属性付与」
ソプラノが大きく深呼吸をした。
「断罪剣!」
振りかざした剣が石室の壁と衝突する。部屋全体が大きく揺れるような衝撃の後で、ボキッと剣が折れる音がした。
「ああっ。わたくしの愛刀がっ」
真っ二つに折れた刀が地面に落ちる。
壁には凹んだ跡があるが、風穴は空いていない。
「ごめんなさい、四谷さま。壁は壊せませんでしたっ」
ぽっきりと折れた剣を見て、ガクッと膝から崩れ落ちた。トパーズは今にもおしっこを漏らしそうな顔をしていた。
「も、もうおしまいだ……」
「いや成功だ。あー良かった」
「成功……?」
壁の向こう側から破壊音が近づいてきている。狙い通り気がついてくれた。
「これって……もしかして……」
二人とも気がついたようだった。
「小笠原さま、ですか?」
「もうすぐそこだな。壁から離れた方が良い」
言い終わるまもなく、石壁にヒビが入ってガラガラと崩れた。空いた穴からメリイがひょっこり顔を出した。
「四谷ぁー! 無事でしたか! メリイは心配しました!」
「全く探したわよっ……ってうわ! 何こいつら!」
俺たちを取り囲む闇の騎士たちを見て、続いて現れた小笠原はびっくりしたように言った。
「全部、殴ってぶっ壊してくれ!」
「わ、分かった!」
小笠原が闇の騎士をまとめて殴ってぶっ壊した。ものの数分もかからなかった。
「間一髪ってところね」
土ぼこりを払って、小笠原はゆっくりとこっちに戻ってきた。
「ど、どうしてこの場所が分かったんですか……?」
「ん? だって大きい音がしたじゃない。ドッカーンって。あれ何だったの?」
「大きい音……」
それで理解したのか、トパーズはハッと目を見開いた。
「そっか。さっきのソプラノさんの攻撃は壁を壊すためじゃなかったんですね。大きい音で小笠原さんに知らせるために……」
「そう言うことだ。へっへっへっ」
「さすが四谷さまですわ!」
「何イチャイチャしてんのよ。早く離れなさい」
俺からソプラノを引き剥がして、小笠原はため息をついた。
「まったくめちゃくちゃ探したわよ。このダンジョン、広いったらありゃしない」
「来てくれると信じてた。ありがとう小笠原」
「まったく心配させないでよねっ」
ぷんすかしながら、小笠原は腰に手を当てていた。
「ここ、随分深いところにあるみたいね」
「ゲートっぽいのは見つかったか」
「なかったけど、多分、あっちじゃない」
小笠原が指差した方向を見ると、さっき闇の騎士たちが出てきたところに、金色に輝く扉があった。
「ね。あれ、それっぽいじゃん」
「おお、いよいよだな」
「さっさと行きましょう。壁ドンし過ぎで疲れたわ」
「メリイは目が回りました」
「宝物庫に新しい剣があれば良いのですが……」
扉に向かって歩いていくと、後ろの方でトパーズだけがポツンと立ちすくんでいた。
「どうした?」
「あ……いや」
「トイレはたぶん無いと思うけど」
「そ、そうじゃないですっ」
真っ赤な顔をしてトパーズは歩き始めた。何か悩んでいるような表情をしていたが、少し気になる。
「四谷ぁー。開けますよー」
向こうの方でメリイがぴょんぴょんしていた。
この先にゲートがあれば、元の世界に帰ることができる。いよいよ覚悟を決める時だ。
「よいしょー」
ぎいいと扉が開いていく。豪華な扉だったので、大量の財宝があるんじゃないかと期待をしていると、ものが腐ったような匂いが漂ってきた。部屋も薄暗くて、様子が分からない。
すごく高い天井の部屋に、ポツンと台座の上に置かれた魔導書があった。
「何ですの、これ?」
「メリイはこれを見たことがあります。召喚魔導書ですねえ」
「ゲートっぽいのはなさそうだな」
「そうですわね」
「ねえ。この鎖にぶら下がってるの。何なの?」
部屋の中央にある大きな影を見て、小笠原は呟いた。確かに暗くて気がつかなかったけれど、良く見たら何かが鎖で縛り付けられている。
巨大な人のようだった。
「顔も骸骨みたいで怖いし。頭から角生えてる。きもい」
「こんな生物、メリイは見たことがないです。ひょっとして魔神じゃないです?」
「魔神? ああ、トパーズが言っていたやつね」
「ダンジョンに封印されていると言う話は本当だったんですねえ」
「本で見る悪魔のような形をしていますわね。怖いですわ」
近づいてみると、なかなかおどろおどろしい顔をしていた。深夜に見たらおしっこちびるかもしれない。でも、まったく動く様子がないところを見ると、抜け殻か死骸のようだ。
「ゲートはここにも無さそうね」
肩透かしを喰らって、しょんぼりしながら出て行こうとすると、再びトパーズだけが立ちすくんでいた。
「どうした? トイレ限界か」
声をかけると、トパーズがボソリと言った。
「……我は楔を持つもの」
信じられない光景だった。
なぜかトパーズが魔導書を持っている。本が鈍く光って、怯えたような青白い顔があらわになった。
「ごめんなさい、皆さん」
「トパーズ?」
「還送」
魔導書が白く光を発する。再び目を開けた次の瞬間には、小笠原の姿は消えていた。
「あれは無理ですわー!」
「剣技は負けないんじゃなかったのか……」
「一対一の話ですわ!」
通路から出てきた闇の騎士は、まっすぐ俺たちの方に向かってきていた。やはり、やる気満々なようだ。
「あのレベル差では絶望的ですわ。ぶるぶる」
「ごめんなさいごめんなさい。ボクが鑑定なんかしてしまったせいで……」
「それは関係ないだろ。しかしどうするかなあ」
ソプラノが勝てないと言っている以上、もう頼れるのは小笠原しかいない。ダンジョンの壁を壊して回っているようだが、その位置はまだ遠い。
「……あ、そうか」
「どうかなさいました?」
「ひらめいた。ソプラノ、まだいけるか。体力的に」
「体力ならまだありますわ。一太刀浴びせられるかどうかですが」
「よし。剣で壁をぶっ叩いてくれ」
「壁をですか?」
うなずいて、石の壁をどんどんと叩く。
「思いっきり」
「わ、わたくしの力では壁を破壊するのは無理ですわ」
「大丈夫だ。思いっきりやれば」
「そ、そうですか」
「時間がない。頼む」
剣を取ったソプラノを警戒して、闇の騎士たちは距離を取っているが、攻撃に出られたらひとたまりもない。
「分かりましたわ」
「ほ、本当にやるんですか?」
「はい……わたくしは四谷さまを信じますわ。四大属性付与」
ソプラノが大きく深呼吸をした。
「断罪剣!」
振りかざした剣が石室の壁と衝突する。部屋全体が大きく揺れるような衝撃の後で、ボキッと剣が折れる音がした。
「ああっ。わたくしの愛刀がっ」
真っ二つに折れた刀が地面に落ちる。
壁には凹んだ跡があるが、風穴は空いていない。
「ごめんなさい、四谷さま。壁は壊せませんでしたっ」
ぽっきりと折れた剣を見て、ガクッと膝から崩れ落ちた。トパーズは今にもおしっこを漏らしそうな顔をしていた。
「も、もうおしまいだ……」
「いや成功だ。あー良かった」
「成功……?」
壁の向こう側から破壊音が近づいてきている。狙い通り気がついてくれた。
「これって……もしかして……」
二人とも気がついたようだった。
「小笠原さま、ですか?」
「もうすぐそこだな。壁から離れた方が良い」
言い終わるまもなく、石壁にヒビが入ってガラガラと崩れた。空いた穴からメリイがひょっこり顔を出した。
「四谷ぁー! 無事でしたか! メリイは心配しました!」
「全く探したわよっ……ってうわ! 何こいつら!」
俺たちを取り囲む闇の騎士たちを見て、続いて現れた小笠原はびっくりしたように言った。
「全部、殴ってぶっ壊してくれ!」
「わ、分かった!」
小笠原が闇の騎士をまとめて殴ってぶっ壊した。ものの数分もかからなかった。
「間一髪ってところね」
土ぼこりを払って、小笠原はゆっくりとこっちに戻ってきた。
「ど、どうしてこの場所が分かったんですか……?」
「ん? だって大きい音がしたじゃない。ドッカーンって。あれ何だったの?」
「大きい音……」
それで理解したのか、トパーズはハッと目を見開いた。
「そっか。さっきのソプラノさんの攻撃は壁を壊すためじゃなかったんですね。大きい音で小笠原さんに知らせるために……」
「そう言うことだ。へっへっへっ」
「さすが四谷さまですわ!」
「何イチャイチャしてんのよ。早く離れなさい」
俺からソプラノを引き剥がして、小笠原はため息をついた。
「まったくめちゃくちゃ探したわよ。このダンジョン、広いったらありゃしない」
「来てくれると信じてた。ありがとう小笠原」
「まったく心配させないでよねっ」
ぷんすかしながら、小笠原は腰に手を当てていた。
「ここ、随分深いところにあるみたいね」
「ゲートっぽいのは見つかったか」
「なかったけど、多分、あっちじゃない」
小笠原が指差した方向を見ると、さっき闇の騎士たちが出てきたところに、金色に輝く扉があった。
「ね。あれ、それっぽいじゃん」
「おお、いよいよだな」
「さっさと行きましょう。壁ドンし過ぎで疲れたわ」
「メリイは目が回りました」
「宝物庫に新しい剣があれば良いのですが……」
扉に向かって歩いていくと、後ろの方でトパーズだけがポツンと立ちすくんでいた。
「どうした?」
「あ……いや」
「トイレはたぶん無いと思うけど」
「そ、そうじゃないですっ」
真っ赤な顔をしてトパーズは歩き始めた。何か悩んでいるような表情をしていたが、少し気になる。
「四谷ぁー。開けますよー」
向こうの方でメリイがぴょんぴょんしていた。
この先にゲートがあれば、元の世界に帰ることができる。いよいよ覚悟を決める時だ。
「よいしょー」
ぎいいと扉が開いていく。豪華な扉だったので、大量の財宝があるんじゃないかと期待をしていると、ものが腐ったような匂いが漂ってきた。部屋も薄暗くて、様子が分からない。
すごく高い天井の部屋に、ポツンと台座の上に置かれた魔導書があった。
「何ですの、これ?」
「メリイはこれを見たことがあります。召喚魔導書ですねえ」
「ゲートっぽいのはなさそうだな」
「そうですわね」
「ねえ。この鎖にぶら下がってるの。何なの?」
部屋の中央にある大きな影を見て、小笠原は呟いた。確かに暗くて気がつかなかったけれど、良く見たら何かが鎖で縛り付けられている。
巨大な人のようだった。
「顔も骸骨みたいで怖いし。頭から角生えてる。きもい」
「こんな生物、メリイは見たことがないです。ひょっとして魔神じゃないです?」
「魔神? ああ、トパーズが言っていたやつね」
「ダンジョンに封印されていると言う話は本当だったんですねえ」
「本で見る悪魔のような形をしていますわね。怖いですわ」
近づいてみると、なかなかおどろおどろしい顔をしていた。深夜に見たらおしっこちびるかもしれない。でも、まったく動く様子がないところを見ると、抜け殻か死骸のようだ。
「ゲートはここにも無さそうね」
肩透かしを喰らって、しょんぼりしながら出て行こうとすると、再びトパーズだけが立ちすくんでいた。
「どうした? トイレ限界か」
声をかけると、トパーズがボソリと言った。
「……我は楔を持つもの」
信じられない光景だった。
なぜかトパーズが魔導書を持っている。本が鈍く光って、怯えたような青白い顔があらわになった。
「ごめんなさい、皆さん」
「トパーズ?」
「還送」
魔導書が白く光を発する。再び目を開けた次の瞬間には、小笠原の姿は消えていた。