佐和が姿をくらませたのは1年前の春、佐和の父親が死んだ翌日のことだった。


佐和の父親の死体は、それはもう惨いものだったという。犯人は相当な恨みや憎しみを抱いていて、被害者と近い距離にいた人間という線が濃くなっていた。

噂によれば、父親は日ごろから家族に虐待をしているという疑いがかけられていて、近隣住民は、深夜に大きな物事や叫び声を耳にしていた。母親は、鬱状態になりかけているとの噂もあった。


警察に通報したのは母親だった。


「息子が消えました」


警察が佐和の自宅を訪れると、血の匂いが充満していて、リビングに父親の遺体があったらしい。腹部をぐさり、かなり深く刺さっていたとのこと。通報した母親は、顔面が腫れあがり、いろんなところから血が出ていて、虐待されていた事実を物語っていた。

母親が警察を呼んだ理由は、夫が死んだからではなく息子が消えたことに関してだった。


「七瀬がいないんです」
「昨夜、突然家を出て行きました」
(この人)は、だれが殺したんでしょうか」



佐和が消えた翌日。

殺害に使われた包丁からは、佐和の指紋が検出された。