「あいつ、今どこでなにしてんのかなぁ」



ぽつりと呟かれたそれに「……さあ、どーだろ?」と曖昧に返すのはもう何度目だろうか。

春の夕暮れ時は西日が暑かった。オレンジ色の光が射し込んでわたしの前に影をつくる。隣を歩くきみとわたしの二人分の影。そこに、"あいつ"の影はない。


「ヤマ」
「んー」
「……せんせーがさ、もうやめろって言ってた」
「やめろって?」
佐和(さわ)を探すの。佐和を探しても何の意味もないってさ」




――いいですか堂島(どうじま)さん、よく聞いてください。


『わかります、諦めたくない気持ちはわかるんです。けれど、僕は教師として、貴方のことも寺岡(てらおか)くんのことも、正しく良好な道へと導かなければならないんです。高校生活は一度きりです。堂島さんはバレー部でも活躍していた有力選手だったでしょう。部活をやめてまで、"幼なじみ"に捕らわれる必要はありますか?見つからないということは、罪を認めたも同然です。やましいことがあった、見つかったらまずいと思った。佐和くんのことを探すのはもうやめなさい。見つかっても見つからなくても結果は同じだ。佐和くんに当てた時間を、きっといつか後悔することになりますよ』



先生には、何も言い返さなかった。話を聞いてくれないと思ったからだ。私が佐和のことを見つけてあげなきゃ、あいつは堂々と世界を歩けなくなってしまう。

学校のやつらが佐和のことを簡単に殺人犯に仕立て上げたから、私が必ず誤解を解いてあげないといけないんだ。佐和はそんなことするやつじゃない。佐和は、人殺しなんかしない。


だって佐和は、佐和 七瀬(ななせ)という男は。




「七瀬は、地獄みたいな世界を誰よりも愛してたもんな」


佐和がいないはじめての春は、西日がとても暑かった。