誰もいない教室の片隅で、ラムネ色のノートに描いていたマンガ。カタチのない夢を、みていた。自分だけの小さな世界で。



夢なんて言える勇気のカケラも持ち合わせていなくて、ひっそりと楽しんでいた趣味のようなものだった。絵の上手い子はたくさんいて、その中には将来マンガ家になるという子もいたような気がする。



捨ててしまおう。



夢となる前に、永遠に葬り去ってしまおう。



夏の昼下がりのことだった。青い泉のような飲料水を片手にクラスメイトの男子が戻ってきたのは。一度も話したことなんてないし、視線すら合わせたこともない。何せ相手はカースト上位のイケメン。



何もない、はずだった。通り過ぎ様耳元で魔法をかける。それは夜明け前の空を、夜明けに変えてしまった。



『続けろよ』



たったそれだけのことだったけど、どんな意味で言ったのかもわからないけど。



わたしには魔法の言葉だった。



思わず顔を手で覆い隠す。隠したって、傍から見れば気づかれてしまうだろうが、それでも今の顔を見られるわけにはいかない――それがたとえひとりだけだとしても。



単純にうれしくて、続けてもいいんだって。



そんな時黙って差し出されたのは――少しだけひんやりとした青い泉。まるでそれは、彼の瞳のような色だった。



生まれてはじめて、青がこんなにも美しいものだと知る。