レッスンを再開したメンバーをしばらく見ていたポーラは、こっそりスタジオを抜け出すと、明治神宮に向かって歩いてゆく。
 ひとけのない明治神宮の大鳥居にもたれると、ポーラは声を押し殺して嗚咽をもらしていたが堪えきれず、Mのホクロの間を、ひとすじ涙が流れ落ちた。
 
 二度目の公演は、次の週末、渋谷の地下にあるライブハウスで行われた。今度は、少し精神的な負担を軽減させようとしたのか、対バン形式。マスクガールズの公演のあとだった。対バン形式とは対バンライブともいい、何組かのバンドが一緒の会場を使うことだ。
 マスクガールズのステージが終わると、彼女たちのファンは、握手会がライブハウスの外で行われるため、ほとんど出て行った。
 しかし、その三百人くらいいたファンには、ピーチバレーズに興味を示す者も大勢いて、マスクガールズとの接触イベントが済むと、もう一度、ライブハウスに戻ってきた。
 広部の宣伝も力が入ったのか、今度の客数は、そのマスクガールズのファンと合わせて、百人くらいだった。
「エールを君に」に続く、新曲第二弾「スターレット」の披露。
 スターレットの意味は、「小さな星」。スターになる前の新進女優や、スターの卵を意味する。彼女たちの悩みや希望を託した歌だ。ドールキッズ社の社長、春本がプロデュースし、有名どころの作詞作曲家に依頼して作らせた。
 お客の中には、その作詞作曲家の関係者や、レコード会社の者もいる。
 春本も関係者ブースに来ている。前回よりもステージの飾りつけが派手だ。気合が入っている。
 実は、春本は当初、ピーチバレーズのことを「難しいだろう」と考えていた。なぜなら、彼女たちは美少女すぎた。
「クラスで十番目くらいの、愛嬌のある女の子」が、ヲタにうけるアイドルの基本。美少女すぎるとヲタは「遠い存在」と感じ、人気が出ない。ハーフはまだしも外人なんて問題外だ。ましてやヘドロは黒人とのハーフ。「無理かもしれない」と思っていた。
 しかし、日本国内にも外国人移住者や、長期滞在者が増えている。
 ビジュアル的に分かりやすい彼女たちが、外人にうければ、SNSで世界中に広まる。もしかしたら昭和のアイドルに憧れた、おっさん需要を復活することもできるかも? そのニッチが狙いめだと春本は思ったのだ。