「きみにっ、きみにっ、きみだけにあげる、このエールの歌を~」と、歌いながらレイワがにじり寄ると、気が弱そうな黒縁メガネの男の子は、目をパチクリさせながらびびって後ずさりする。手から、ケミカルライトが落ちて、チェルノしてしまった。
「ありがとうございましたっ! これからも、ピーチバレーズ、宜しくお願いしますっ!」
 メンバーは手を取り合って一斉に頭を下げ、舞台そでに引っ込む。
 アンコールの声もかからない。
 予定していた握手会も、希望者がいなくて中止された。

 未来  神奈川 御殿場   
 
 モンスターマシーンのコックピットにはタッチパネルがなく、ほぼ全ての操作がマニュアルだった。各計器類が整然と並び、昭和の時代の車のようなフットペダルもあった。
 バケットシートのコックピットに座ると、目の前には、使い慣れたマイクロドローンのコントローラーと同じ、スティック型レバーが二本、生えている。
 エルロンとラダーだ。
「どうじゃ、ドローンのメカニックにならんか? なれば、時々このドローンを飛ばさせてやってもええよ」
 爺さんは薄ら笑った。
 爺さんの話によると、爺さんは、ドローンレースで世界制覇を目指しているということ。 
 大メーカーでなくても、部品点数が少なく、構造が簡単なドローンは、参入障壁が低く、世界中のプライベートチームがしのぎを削っているということだ。
 国内の予選を突破し、世界大会で優勝なんてすると、巨万の富と名声が得られる。
 小さなファクトリーは一挙に、世界に羽ばたくことができるのだ。
 自分のことを天才メカニックだと言う爺さんの技術は、まんざら嘘ではないらしく、畳の部屋の壁には、過去にとった国内レースの賞状や、特許の書類が数枚貼ってある。
 しかし、少子化した日本ではメカニックになる従業員がなかなかいなくて困っていた。
 技術はあるのに、それを実現する者がいない人手不足倒産の危機ということ。
 そこで爺さんは、樹海をパトロールするついでに、死に損ないの若者を拾っては従業員に仕立て上げようとしていた。
 朝会った、ジェロニモと名乗るネイティブアメリカンの若者もそんな中の一人だった。