その後、奥さんの実家である御殿場の広大な敷地を利用して、ドローン開発の拠点を作った。しかし、間も無く奥さんが病気で亡くなり、今では、ドローン専門の修理工場を細々やっているということだ。
 人手不足で、若い工員が集まらず、樹海をパトロールするついでに、そこで捕まえた若者に、ドローン修理の仕事を手伝わせている。
「なあに、仕事は簡単じゃ。昔の車と違ってドローンは構造がシンプルじゃからの。部品をバラして、AIに診断させてから修理箇所を手直しして組み立てればそれでええ」
 爺さんはそう言うと、下駄を履き、ガレージの方へ向かう。
「ちょっと見せたいものがあるけえ一緒に来んか?」
 爺さんが、ガレージの奥の方へ行く後に、俺は、のこのこついていった。
 ガレージの奥、薄汚れた扉を開けると、爺さんは電気をつけた。
 暗闇の中から、まばゆいばかりのライトで照らし出されたもの、それは、なんと、SF映画で見たことのあるような、レーサードローンだった。
 昭和の時代に流行ったアニメ、マジンガーZのパイルダーに似ている。
 流線型の小型ボディから六本のアームが伸びて、まるで猛禽類が滑空する時の翼の形をしたアームだ。その翼が六枚ある。その先にはプロペラがついていて、そのプロペラは、逆回転する二枚合わせ。
「六発のオクトコプターに見えるが、二枚合わせじゃから十二発じゃ。クックックッ」
 度肝を抜かれて立ちすくむ俺に、爺さんは悪魔のような薄ら笑いを浮かべた。
「それだけじゃない」
 爺さんは、小さなガルウィングの手動ドアを持ち上げると上半身を中に突っ込んで、スイッチを押した。するとプロペラがアイドリング回転を始める。部屋全体に風が吹き荒れる。爺さんが、そのまま、もうひとつのスイッチを押した。
 なんと、二枚合わせの逆回転をするプロペラが、六発全部、プロペラガードごと、ゆっくり傾き始めた。
「ティルトローターだ!」
 水平だった六発のプロペラが一斉に動き出し、垂直になった。
 ティルトローターとは、平成時代の終わり頃、米軍の大型輸送ヘリ「オスプレイ」が採用し、度々事故を起こすので「未亡人増産マシーン」と揶揄された、あれだ。
 爺さんが、上半身をコックピットに突っ込んだまま、顔だけ振り返りニヤッと笑う。
 するとその垂直になった六発のプロペラを付けたアームが後方へと動き始めた。