あのまま王と王妃が二人を放っておくとは思えなかった。願わくば、ジルベルトとしては関わりたくないのだが。
「建国記念パーティが開かれます。警備の計画をお願いします」
サニエラがすっと一枚の紙を差し出す。
「それから団長は、この警備から外れるようにと、陛下から直々の命が出ておりますので」
もう一枚、別な紙を差し出された。それは封書。見るからに招待状。
「わかっていますよね? くれぐれも警備責任者とかにならないように。わかっていますよね? 大事なことだから二回言いますよ。くれぐれも警備責任者にならないように」
「ああ、わかっている。警備責任者はサニエラ、お前に任せる」
「わかってくださり、感謝いたします。では、当日の配置表もお待ちしております」
言い、サニエラは団長室を出ていく。
ジルベルトは机の上に肘をつき、その上に頬を乗せた。ため息しか出てこない。それでも、サニエラを責任者にした場合の配置について考え始めてしまう自分がいる。
だがすぐに、ジルベルトは両手で頭を抱え込んだしまった。警備配置は何とかなる。何とかならないのはこの招待状。
建国記念パーティでありこうやって陛下直々から招待状がきてしまった以上、エレオノーラを連れて参加しなければならないのはわかっているのだが、なんとも表現し難い気持ち。あのような社交界で、彼女を他の人むしろ他の男性に会わせたくないという思いがふつふつと湧いてくるのはなぜだろう。彼女のことだから、社交界用の女性を演じてくれるだろう。だが、それでも嫌だった。この気持ちをどのように表現したらよいのか。
顔をあげ、憎らしい招待状に視線をうつす。リガウン家に送らず、この第一騎士団宛てに送ってくるところが憎らしい。サニエラにバレてしまった以上、どうにもこうにも逃げられない。
あきらめるしかない、と腹を括り、ふと立ち上がった。まずはダニエルに相談しよう。
怪しまれずにダニエルと連絡をとるためには、広報部にいるドミニクに連絡をとるのがいい、とそのダニエルから言われているため、第零騎士団の広報部へと足を向ける。広報部の部屋へ入ると、ダニエルが目ざとくジルベルトを見つけて、そっと近づいてきてくれた。
「今日はどのようなご用件でしょうか」
人目につかない部屋にさりげなく案内される。
「ああ、すまない。ダニエル殿と連絡を取りたいのだが、昼食か夕食を一緒にとることは可能だろうか」
「ええ、その時間でしたら兄は空いていると思います。どちらでもよろしいですか? 食堂の個室が空いている時間を押さえますので」
「ああ、助かる」
「リガウン団長が兄に連絡をとりたいということは、妹のことで何かしらあると思ってもよろしいでしょうか。さしずめ、建国記念パーティの件かと」
「その通りだ。さすが広報部だな」
「第一のみなさまは、警備に駆り出されるのでしょうね。しかし、リガウン団長はどうやらそうではないらしい」
「その通りだ」
「となると、妹も」
「まあ、そういうことだ。陛下直々、招待状を送りつけてきやがった」
少しくだけた口調に、ドミニクも口の端を緩めた。ジルベルトがそこまでその招待状を憎々しく思っていることが伝わったからだ。
「では、時間が決まりましたら連絡いたします。こういった関係者との食事等のセッティングも我々広報部の仕事ですから、遠慮なさらずにご用命ください」
「ああ、助かる」
ドミニクの仕事は早かった。結局、昼食の時間にダニエルと会うことができた。
「また、お呼び出ししてしまって申し訳ない」
「いえ」
「今日は、一緒ではないのだな」
「ええ、妹は最近、こちらに来ていないのですよ。何やら翻訳の仕事が入ったとかで」
「それも重ね重ね申し訳ない」
「いえ、リガウン団長がなんとか交渉してくださったおかげで、翻訳だけですんでると本人は言っておりましたので、団長には感謝しかありません。ただ、陛下と友人だったというのが意外でした。まあ、家柄的に、何かしらつながりがあってもおかしくはないのですが」
「政治的なつながりの方が、まだ事務的に処理できるからよかったのだが。どうも、向こうは個人的なつながりを求めてきているから、それが非常に面倒だ」
瞬間的にジルベルトの表情が崩れたのをダニエルは見逃さなかった。
「それで、今日はどういったご用件でしょうか」
「その、個人的なつながりにまた巻き込んでしまった、ということだ」
ジルベルトはそっと招待状をテーブルの上に置いた。
「これは?」
「陛下直々の招待状」
「私が見ても?」
問題ない、と答える。ダニエルがそれを見ている間、ジルベルトは事務的にフォークを口元まで運んでいた。
「いや、これは、なんとも」
ダニエルも唸った。「公私混同と言われないような絶妙なラインを攻めてきていますね」
「だが、そこまで書かれてしまったら、私はエレオノーラ嬢を連れて参加せねばならない」
「そうですね。まさか、エレオノーラ・フランシアの噂が陛下たちの耳にまで届いていたとは。もう少し、情報統制をすべきでした」
「ただ、レオンの件は漏れていない」
「それは、第零騎士団の中でも重要機密事項ですからね。陛下にも伝えておりません。ですから、そちらの副団長の耳に入ったことがどうしても解せないのです。どうやら、第零騎士団に口の軽い者がいるようですね」
「まあ、それは。その件に関しては私にも非がある」
「冗談です」
ダニエルは真顔で答えた。
「建国記念パーティが開かれます。警備の計画をお願いします」
サニエラがすっと一枚の紙を差し出す。
「それから団長は、この警備から外れるようにと、陛下から直々の命が出ておりますので」
もう一枚、別な紙を差し出された。それは封書。見るからに招待状。
「わかっていますよね? くれぐれも警備責任者とかにならないように。わかっていますよね? 大事なことだから二回言いますよ。くれぐれも警備責任者にならないように」
「ああ、わかっている。警備責任者はサニエラ、お前に任せる」
「わかってくださり、感謝いたします。では、当日の配置表もお待ちしております」
言い、サニエラは団長室を出ていく。
ジルベルトは机の上に肘をつき、その上に頬を乗せた。ため息しか出てこない。それでも、サニエラを責任者にした場合の配置について考え始めてしまう自分がいる。
だがすぐに、ジルベルトは両手で頭を抱え込んだしまった。警備配置は何とかなる。何とかならないのはこの招待状。
建国記念パーティでありこうやって陛下直々から招待状がきてしまった以上、エレオノーラを連れて参加しなければならないのはわかっているのだが、なんとも表現し難い気持ち。あのような社交界で、彼女を他の人むしろ他の男性に会わせたくないという思いがふつふつと湧いてくるのはなぜだろう。彼女のことだから、社交界用の女性を演じてくれるだろう。だが、それでも嫌だった。この気持ちをどのように表現したらよいのか。
顔をあげ、憎らしい招待状に視線をうつす。リガウン家に送らず、この第一騎士団宛てに送ってくるところが憎らしい。サニエラにバレてしまった以上、どうにもこうにも逃げられない。
あきらめるしかない、と腹を括り、ふと立ち上がった。まずはダニエルに相談しよう。
怪しまれずにダニエルと連絡をとるためには、広報部にいるドミニクに連絡をとるのがいい、とそのダニエルから言われているため、第零騎士団の広報部へと足を向ける。広報部の部屋へ入ると、ダニエルが目ざとくジルベルトを見つけて、そっと近づいてきてくれた。
「今日はどのようなご用件でしょうか」
人目につかない部屋にさりげなく案内される。
「ああ、すまない。ダニエル殿と連絡を取りたいのだが、昼食か夕食を一緒にとることは可能だろうか」
「ええ、その時間でしたら兄は空いていると思います。どちらでもよろしいですか? 食堂の個室が空いている時間を押さえますので」
「ああ、助かる」
「リガウン団長が兄に連絡をとりたいということは、妹のことで何かしらあると思ってもよろしいでしょうか。さしずめ、建国記念パーティの件かと」
「その通りだ。さすが広報部だな」
「第一のみなさまは、警備に駆り出されるのでしょうね。しかし、リガウン団長はどうやらそうではないらしい」
「その通りだ」
「となると、妹も」
「まあ、そういうことだ。陛下直々、招待状を送りつけてきやがった」
少しくだけた口調に、ドミニクも口の端を緩めた。ジルベルトがそこまでその招待状を憎々しく思っていることが伝わったからだ。
「では、時間が決まりましたら連絡いたします。こういった関係者との食事等のセッティングも我々広報部の仕事ですから、遠慮なさらずにご用命ください」
「ああ、助かる」
ドミニクの仕事は早かった。結局、昼食の時間にダニエルと会うことができた。
「また、お呼び出ししてしまって申し訳ない」
「いえ」
「今日は、一緒ではないのだな」
「ええ、妹は最近、こちらに来ていないのですよ。何やら翻訳の仕事が入ったとかで」
「それも重ね重ね申し訳ない」
「いえ、リガウン団長がなんとか交渉してくださったおかげで、翻訳だけですんでると本人は言っておりましたので、団長には感謝しかありません。ただ、陛下と友人だったというのが意外でした。まあ、家柄的に、何かしらつながりがあってもおかしくはないのですが」
「政治的なつながりの方が、まだ事務的に処理できるからよかったのだが。どうも、向こうは個人的なつながりを求めてきているから、それが非常に面倒だ」
瞬間的にジルベルトの表情が崩れたのをダニエルは見逃さなかった。
「それで、今日はどういったご用件でしょうか」
「その、個人的なつながりにまた巻き込んでしまった、ということだ」
ジルベルトはそっと招待状をテーブルの上に置いた。
「これは?」
「陛下直々の招待状」
「私が見ても?」
問題ない、と答える。ダニエルがそれを見ている間、ジルベルトは事務的にフォークを口元まで運んでいた。
「いや、これは、なんとも」
ダニエルも唸った。「公私混同と言われないような絶妙なラインを攻めてきていますね」
「だが、そこまで書かれてしまったら、私はエレオノーラ嬢を連れて参加せねばならない」
「そうですね。まさか、エレオノーラ・フランシアの噂が陛下たちの耳にまで届いていたとは。もう少し、情報統制をすべきでした」
「ただ、レオンの件は漏れていない」
「それは、第零騎士団の中でも重要機密事項ですからね。陛下にも伝えておりません。ですから、そちらの副団長の耳に入ったことがどうしても解せないのです。どうやら、第零騎士団に口の軽い者がいるようですね」
「まあ、それは。その件に関しては私にも非がある」
「冗談です」
ダニエルは真顔で答えた。