「もう死ぬんだから好き勝手させろよ!」
これは決して口にしてはいけない言葉だと、わかっていたはずだった。そんな言葉を感情に任せて言うべきではないと、わかっていたはずだったのに。
今、自分に出来ることは、ただ自分の運命を呪うということぐらいで。残りの寿命を当てつけのようにして怒れたのは、この感情をどこにぶつけたらいいかわからなくなったから。
「……頼むから、消えてくれ」
絞りだすように出ていった言葉に、責任は持てなかった。まき散らした言葉が、どれだけ母さんの心を抉るのか考えられるほど余裕もない。ただ、このどす黒い感情に呑まれていくだけ。沈んでいくだけ。
これはあくまでも、八つ当たりでしかなかった。
拓哉の死、柳瀬との再会、高岡への嫉妬、吉瀬への想い。そのどうしようもない思いたちがぐるぐると渦を巻いて大きくなっていた。
いろいろ、積み重なったものが、まるで導火線だったかのように、火がちりちりと辿ってしまって、爆発してしまう決定的な場所に、いよいよ到達してしまった。
母さんはなにも言わなかった。なにも言わず、ただ静かに、病室から出ていって。
扉がしまったとき、体の底から湧き上がるように涙が出て止まらなかった。
──わかってるんだ、本当は。
息子に先立たれる母親の気持ちを、考えないわけじゃない。母さんなりに、俺を守ってきてくれたこともわかっている。親父と離婚して、ずっと一人で俺を育ててくれて。そんな俺が、もう残り少ない命だなんて、母さんだって辛いに決まっている。
それでも、もう、どうしたらいいのかわからなかった。どうすればこの感情から救われるのか、どうやってもわからなかった。
「……わかんないだよ」
こんな人生なら、生まれてこなければよかった。母さんにさえあんな言葉を吐くぐらいなら、俺なんて、本当に生きている価値がない。どこまでも、俺は最低だ。