「カーテン開けないで言ったじゃない」
入院して一週間。母親が病室に入ってくるなり、慌てて窓の向こうの世界を奪っていった。
「カーテンしてても紫外線が入ってくるっていうし……あ、着替え、持ってきたから着替えなさいね」
空っぽになった心に、母親の声は煩わしくて仕方がなかった。消せるものなら消したかった。
「そうそう、学校から連絡あってね、クラスの子がお見舞いにきたいって」
「え……」
途端に浮かんだのは吉瀬の顔だった。
「幸人に会いたいって言ってくれてるみたいでね。あんた友達いたのね。全然家に連れてこないから心配してたのよ。担任の先生から聞いてお母さんうれしかったんだから」
「お見舞いの話は?」
「え? ああ、大丈夫よ。ちゃんと断っておいたから」
「…………は?」
引き出しに部屋着をしまっていく母親の背中に思わず、抜けていった自分の怒り。
「なにが大丈夫なんだよ」
「だって、お見舞いに来られたら困るでしょう? 安静にしてるように鈴川先生からも言われてるんだから。学校の子たちなんて来てもらっても迷惑じゃない」
ありえなかった。そんな発想になることが心底理解出来なくて、一瞬にして怒りが頂点に達した。
「迷惑って、それ母さんが一人で思ってることだろ? そもそもなんで俺に聞かないで断ってんだよ」
「な、なに言ってるのよ! お母さんはね、幸人のことを思って──!」
「そういうのが昔から嫌いなんだよ!」
いつだって、俺の人生を勝手に決められていた。窓の外の景色を奪うだけでなく、俺の人生をまるっと奪っていくみたいで、それが嫌だった。
「なんで勝手に人の人生奪っていくんだよ! 俺の人生だろ? 俺の人生をなんでそう勝手に全部決めていくんだよ!」
ふと、これは俺の人生なのだろうかとわからなくなることがある。俺は、俺の人生を歩んでいるはずなのに、勝手に敷かれていくレールを歩かされているようで、そこを踏み外すことを許されていないようで苦しくなって。
「学校だって俺がいじめられてたの知ってたかよ。楽しそうに行ってたことあるかよ! 学校に抗議の電話入れて、俺がどれだけ肩身の狭い毎日を送ってたか……そういうの一度だって考えたことあんのかよ!」
耐えられなかった。もう、心が限界だった。