吉瀬にこんな話を聞かされたくない。こんな話に引きずり込みたくない。吉瀬に汚いものを見せたくない。
 高岡にだって、こんな弱いところなんて見られたくなんてなかった。
 なんでよりによってこの二人が揃ったときに柳瀬と遭遇してしまったのだろう。
 卒業しても、離れても、それでもなお、柳瀬に苦しめられなければいけないのだろう。
 幸せになりたいと願っていたわけではない。そんな大きなものを望んだりはしない。
 でも、出来ることなら普通になりたかった。普通の人間になってみたかった。
 そう望んだことは、幸せと同じぐらい、大きなものだったんだろうか。

「そうだ、しかもさ、席替えしたときとか、こいつの席の場所になった奴が急に転校決まったり――」
「――それ、なんの話してんの?」

 次々に繰り出されるそれらを、容赦なくぶった切ったのは高岡だった。

「……え、なんのって、だから呉野の話で――」
「いや、お前が今話してること、全部呉野関係あんの?」

 あまりにも冷静で、ひどく淡々とした口調だった。 
 普段の高岡からは決して想像出来ないその姿は、どう考えても俺が知っている高岡じゃない。

「なんか、無理矢理呉野に繋げているようにしか聞こえないんだけど」
「……いや、だって、お前同じ場所にいねえからさ、わからねえんだよ。こいつのやばさとか」
「いたとしても、俺は吉瀬がしてる顔と同じ顔になると思うよ」

 え……、と漏れたのは柳瀬と俺の声。
 高岡の声につられるようにして辿っていけば、吉瀬が眉間にしわを寄せ、まさにドン引きしているような顔で。

「……それ、話してて恥ずかしくないの?」

 その顔で、柳瀬に問いかける吉瀬は、高岡以上に冷え切った目で見ている。
 てっきり俺の印象がだだ下がりするというよりは、柳瀬の印象がひどく落胆していくようで。