「えっと、あ、俺らは同じバイトなんだよ。ちょうど今からバイト行くのに鉢合わせてさ――」
「――つうか、お前相変わらずだな」

 高岡の言葉を遮るように、鋭利な刃物が振り落とされた。
 男が――柳瀬が喋るたびに、俺の心臓は、ぎゅぎゅうと鷲掴みされているような気分になる。きっとそれを見透かされたのだろう。
 情けないことに、音はなにひとつとして喉の奥から出てくることはない。
 ただひたすらに、視線を四方八方に散らかすだけで、反応が出来ない。

「なあ、高岡、こいつと知り合いなんだろ?」
「え? ああ……まあ」
「こいつさ、菌持ってるから気を付けた方がいいぞ」

〝呉野に触ると変なのが移るぞ〟

 そう言い出したのは、この男が発端だった。あの一言で、俺は一気に病原菌扱いされ、人との関わりを遮断することになった。

「は……?」

 高岡が動揺に似た音をもらす。それでも柳瀬の口は止まらない。

「ほら、こいつさ、変な病気持ってんじゃん? 変なの移るって昔から評判で……あ、だって実際、こいつと喋ったのが原因で風邪をこじらせて入院とかした奴とかいたりして」

 じゅくじゅくと、かさぶたにならない傷が抉られていく。
 記憶が蘇ってくる。嫌なものが、紐ずる形式で、余計なものまで引っ張ってきて、俺の全てを支配していった。

〝あいつと目を合わせない方がいい〟
〝喋ると同じ病気になる〟
〝同じものに触れたら移る〟

 呪いのような言葉が頭の中をどんどんと占めていく。
 自分が、本当に菌になったような気がして、生きている意味を見いだせなくなっていって。

「あ、そっちの人もさ、呉野なんかと帰らない方がいいと思うぜ? こいつと同じ通学路だった奴が、事故りそうになってさ――」

 柳瀬と会うことだけは、もう避けたかった。でももしこうして会わなければいけなかったとしたら、それはせめて俺一人のときだけにしてほしかった。