すっかり日が沈み、深い青に染まった空の下を、吉瀬と歩いていた。
 残暑が残るこのシーズン、夕方になると日差しが弱まり過ごしやすくなっていた。そんな中で、吉瀬と下校を共にするというのは初めてのイベントなわけで。

「ごめんね、送ってもらっちゃって」
「いや、こんなに遅くなった方が悪くて」

 放課後に使わせてもらっている教室の鍵がないことに気付いたのは、運悪くいつもの帰宅時間のことだった。
 職員室に返さなければいけないというのに、その鍵はどこを探しても出てくることはなく。
 吉瀬には先に帰るよう伝えていたが「わたしも探すよ」の一点張りで、なかなか帰ってはくれなかった。
 ようやく見つかった頃には橙色が綺麗に消えていた頃。
 吉瀬と二人で職員室に行けば、たえちゃんが残ってくれていた。

『あら、そうなの? まああそこの教室は机と椅子しかないから、鍵なんているのかしら? と思うけど。ふふ、でも探してくれてありがとう』

 なんとも可愛らしい返答に拍子抜けしてしまって、この人を前にするとペースを乱されるなと思っていた。

「本当、あんなのに巻き込んでごめん」
「いいんだよ、気にしないで」

 そう言った吉瀬は笑ってくれている。艶やかな黒髪をなびかせながら、ふわりと飛んでいってしまいそうな透明感を放っていた。

「でも呉野くんと帰るってなんか新鮮。同じ道を歩いてるって不思議」

 その横顔を見ては、どこか安堵している自分がいたんだ。
 今までずっと、自分には価値がないと思っていた。息することでさえ許されていないような窮屈感さえ感じていて。なにに対してなのか分からない罪悪感を抱き続けていたというのに。
 隣には吉瀬がいる。その吉瀬を自宅まで送り届ける大切な使命を授かってしまった。
 それがどこか免罪符のように感じとっていたのも事実だ。