「掛け持ちってすごいよね。なんか切り替え出来るって難しそうでさ」
「難しいだろうね……」

 やめてほしい。それ以上高岡の話をしないでほしい。こんなことを思う自分を一番嫌いたい。おかしいと罵ってやりたい。
 荒く削られていく心は、砂利道でこすられているような感覚だった。
 じゃり、じゃり、と音をたて、小さくもなっていかない心臓部分を痛めつけられていくだけのそんな話。
 俺は、もうすこし綺麗な人間だと思っていたみたいだ。こんな感情とは無縁だと、そう思っていたようで、ずいぶんと浅はかだった。
 チャイムが校舎に鳴り響くそのときまで、俺はどん底にいるような気分だった。
 厄介ものを患っているのだから、せめて心だけは綺麗でありたいと思っていた。
 価値のない人間なのだから、せめて心が綺麗であれば、存在してもいい理由になると思っていた。

 吉瀬が高岡の話をするたびに、どうしようもなく嫉妬してしまって、そんな自分があまりにも醜くて恐ろしい。
 こんな自分を切り離せたらいいのに。こんなどす黒い感情なんて捨てられたらいいのに。
 じわじわと押し寄せるその波にのまれていくようで、そのぎりぎりに立っていた俺は、安全地帯にいたのだろうか。
 それとももう、すっかりその水に浸かってしまっていたのだろうか。
 戻れないと、静かなサイレンが聞こえたような気がする。
 吉瀬の話は、相槌を打つのが精一杯で、その内容をまともに返せるだけの余裕などなかった。